リアル側の携帯端末で、
ちゃんと画面付きで通話するのは初めてだ。
ちょっと緊張する。
「もしもし」
『もしもし、あ、
「もうどっちかわかんないよね」
『そうだよね』
「じゃあ、準備できたからすぐログインするけどいいよね?」
『うん。では向こうで、じゃあね』
通話が切れる。
沙理ちゃんのリアルの顔も、可愛い。
VRゲーム内では、デフォルメされてアニメ調になっているけど、こっちはリアルでマジ可愛い。
こんな彼女ができればいいな、と思っていたけど、課題のパートナーであって、彼女じゃないんだよね。
本当に残念だよね。彼女はVRの女の子な僕を見ているのであって、リアルの僕を求めてるわけじゃないんだよね、たぶん。
ちょっとおセンチになりそうだけど、うん。
向こうは6倍速なので、1分遅刻すると6分遅刻になってしまう。
だから先に連絡して時刻合わせをしたんだけど、すぐログインしないと。
ベッドに横になってヘッドギアを装着する。
「リンクアップ。翡竜オンライン、起動」
ゲーム世界に再びログインする。
ゲーム内は朝日が昇ってくる途中だった。
僕は、始まりの町アスタータウンの噴水広場にいた。
なぜなら、休憩前にここで二人でログアウトしたからだった。
ログアウト、ログインは同じ場所で起こると、覚えた。
ほら、昔のゲームとかだと近くの復活地点で再開とかもあるから、そうなのかなって漠然と思ってたけど、元の位置にいる。
ブーン。
なんか光る剣とかを振ったときに出る音みたいな効果音とともに、横にキラキラしたエフェクトをつけて、ピンクツインテールのうさ耳が転送されてくる。
もちろん、それはリズちゃんだ。
「おはよう、リズちゃん」
「おはよう、ワイちゃん」
言うなりすぐに抱き着いてくる。
う、柔らかくて気持ちよくて、そしていい匂いがする。
リズちゃんの匂いだ。もう覚えてしまった。
「えへへ、ワイ成分の補給を完了したんだからねっ」
「あ、うん」
僕は何と答えたらいいか、わかんなくて、相槌だけ打つ。
「ん? なになに。ワイちゃん『本当はキスがしたい』とか?」
「ええっ、そんなこと、恐れ多い、で、す」
「したくない、とは言わないんだね」
「うっ、うん」
「あっ、認めた。あっ」
リズちゃんのほうが墓穴を掘って、めっちゃ恥ずかしそうに顔まで真っ赤にして、向こうを向いてしまった。
なにこれ、可愛い。
かと言って僕もそういうのをいじって遊ぶほどの趣味はない。
「ごほん、ごほごほ」
「それでなんだっけか、リズちゃん」
「レベル上げとかしたくないって言ってたけど、とりあえず戦闘もしてみようっか」
「うん。防具とポーションも買ったもんね」
「そうそう」
噴水広場は町の中央にある。
ここから門まではちょっとあるけど、歩かないといけない。
途中で、モンスターのお肉をたっぷり挟んだパニーニみたいなものを露店で買った。
「おいしそう」
「朝ごはん、は食べなくてもいいし、食べてもいいけどどうするの?」
「僕は、食べるっ」
「ふふふ」
リズちゃんが笑った。可愛い。
学校でもこんな風に笑えばいいのに。
「おいしいっ」
「うん、おいしいわ」
パニーニを食べながら進んでいく。
食べてしまったのでお昼ご飯がなくなってしまった。
違うお店で、モンスター肉の甘辛バーガーを買う。
「これもおいしそう」
「今食べたらだめよ」
「そうだけど。うぅ」
「ふふん。もうワイちゃんって意外と食いしん坊さんなんだから」
「僕は育ち盛りなんだい。今から背が伸びて、男の子らしくなるんだい」
「残念だわ。それは本当に残念。女の子になっちゃえばいいのに」
「うぅ」
とにかくまた門に到着した。
今日は昨日のプレイヤーの兵士さんはいないみたい。
NPCの兵士さんの名前までは、ごめん、覚えていないので、ちょっとわからない。
リズちゃんもティーシャツとミニスカートから、露店で買った魔女服みたいなものに着替えている。
三角帽子はまだない。
しかし手には剣を構えている。杖がないから仕方ないね。
何も持たないよりは剣でもないよりマシらしい。
昨日はちょうどいいレベル1用の杖が見つからなかった。
草原だ。
今日は敵と戦うために来た。
お花摘みではない。
「前方に敵発見」
「見えてるわ」
「グリーンスライム1。レベル1」
こういうのは雰囲気だ。僕は敵情報を口にして、それっぽく振る舞う。
ロールとでも何とでも言ってくれ。
「ファイア!」
「ファ、ファイア!」
僕たちは二人で、ファイアを撃ち出す。
スライムは一撃で、HPを全損して、光となって消えていく。
「簡単だったね。チュートリアルと一緒だった」
「まあ、この辺もチュートリアルの延長なのよ」
「だよね」
地面に六角形の『スライムの核』が落ちているので、拾う。
その辺の違いは、正直、いまいちわかっていない。
「次は剣で」
「わかったわ」
「グリーンスライム1」
「えいっ」
「やあ」
リズちゃんが先に二人で剣で斬り掛かる。
敵のHPはまず半分ちょっと減って、僕の攻撃で0になった。
「だいたい、剣では2回攻撃で倒せるみたいだね」
「うん。これはスキルじゃないからね。『通常攻撃』っていうのだよ」
「なるほど。通常攻撃」
「通常攻撃はMPを使わないの」
「おーけい、おーけい。ワレ理解。通常攻撃、MP使わない」
「そそ」
僕の平均くらいの頭でも理解したぞ。偉い。
そそくさと『スライムの核』を拾う。
「倒せた! なんだか楽しい!」
「ふふっ、じゃあ次」
こうして二人でスライムをシバいて歩き回った。