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3 女の子になる?


 チュートリアル島で、今度はヒーラーの練習が終わった。


「一人で戦うことももちろんできます。しかし仲間と協力し合って戦闘するのもひとつのテクニックです」

「わかったよ」


「いいですね、では、チュートリアルはこれで終わりです」

「ありがとう」


「残念ですがここでお別れです。では、始まりの町アスタータウンへ転送します」

「うん、ばいばい」


「では、またいつか会える日まで。お姉さん、さようなら。転送!」

「あっ、まぶしい……」






 次に目を開けたら、アスタータウンというところの広場だった。

 目の前には大きな噴水がある。

 綺麗な水がコンコンと噴き出している。


「あっ、きたきた、あれ? うふふ、こんにちはワイリスちゃん」


 いきなりツインテールでピンク髪のウサギ獣人さんが話しかけてきた。

 あ、でも顔が。顔の感じで分かった。この子は沙理ちゃんに間違いない。


 顔を近づけてくる。顔近いって。


「(竜也君でしょ分かるよ、やっぱりすごく可愛いね)」

「か、可愛い?」

「あれ、気が付いてない?」

「何が?」

「自分の容姿、よく見てごらん、はい鏡」


 なぜか姿見をアイテムボックスか何かから出してくれる。


 あ、あれ?


 おかしい。


 そこには可愛い顔をしたエルフの女の子がいる。


 完全に女の子になっている。胸も小さめだけど、確かにある。


「あえ、なんで、どうなってるの?」

「あなた、女の子になってるわよ」

「そうみたいだけど、おかしい、こんなはず」

「声だってほら……」


『あえ、なんで、どうなってるの?』


 録音機能だろう、聞かせてくれる。

 自分の声なんて、なんでさっきまで気が付かなかったんだろう。


 確かに、声まで高く澄んだ声色になっていて、可愛い。なんだこれ。


「うふふ」


 沙理ちゃんが妖艶に笑った。


「かっわいい、はい。お姉さんと、ぎゅってしよう。こんな妹が欲しかったのよ」


 沙理ちゃんにぎゅってハグされてしまう。


 柔らかい。温かい。気持ちがいい。――それから、いい匂いがする。


 こんなところまで、再現されてるなんて。


 ほっぺをぐりぐりくっつけてくる。

 沙理ちゃんがおかしくなってしまった。こんなに積極的な子ではなかったはず。


「前から女の子みたいだなって思ってたの。可愛いっ」


 確かにもともと僕は女顔で女の子みたいだと思われていた。

 普段着で出歩いていると、間違えられてナンパとかもよくされるけど、まさか、本当に女の子になっちゃうなんて。


「沙理ちゃん、ちょっと」

「沙理じゃないの、ここではリズって呼んで」

「え、リズちゃん」

「そうそう。リズちゃん。そしてワイリスちゃん。ワイちゃんね。ちゃんと女の子の名前選んだんだから偉いわ」

「あれ? ワイリスって女性名なの?」

「ん? そうだと思うよ」

「そうなんだ……」


 つまり妖精さんはずっと僕を女の子だと思って接してたのか。

 回想してみる。僕のことをプレイヤーさんって呼んでいた。

 最後にそういえば「お姉さん」って言ってたっけ。


「運営に問い合わせよう」

「そんな、せっかく可愛い女の子になってるのに。でも不正はよくないわね。しょうがないわ」

「うん。呼び出しっと、ぽちぽちぽちと」


 運営問い合わせから、女の子になってしまったと送信する。

 すぐに返事が返ってきた。


『現在調査を行っています。恐れ入りますが、問題の対処が可能かどうか調査しますので、今しばらく、そのままの姿でプレイを続けてくださいますよう、お願い申し上げます』


「どうだった?」

「あ、うん。なんかそのままプレイしててだって」

「よかった。運営ちゃん偉い。そうよそのままでいいのよ。自然が一番!」

「いや、自然じゃないと思う」

「細かいこと気にしちゃだめよ。女の子でしょ?」

「僕は男なのに……」

「いいの、いいの」


 僕と腕を組んでニッコニコのリズちゃん。

 ちょっと胸、当たってる。柔らかい。そうじゃなくて、うう、言い出しにくい。


 なんか異常な視線を感じる。

 特に周りの男性、主にプレイヤーっぽい人。


 マーカーはグリーンの丸いマークがプレイヤーで、青がNPCなのかな。

 白い名前とHPバーも表示されている。


 ずっと出てるわけではなくて、その人に注目しようとすると、先回りしたみたいに情報が表示されて、気持ちがいい。

 表示が遅かったらイライラしたり、逆に大量にいる人全員の情報が出たら情報過多になっちゃったり、しそうだもんな。

 こういうところは、よくできてるみたいだった。


 隣のリズちゃんは僕の手を取ってニコニコ顔で歩いている。

 やっぱり美少女は視線にも慣れているのかもしれない。


 僕は男性に注目されるのがちょっと苦手でやや引きこもり気味だったから。


 き、気まずい。なんかデートしてるような気分になってきた。

 でも何か話さないとだめだよね。


「翡竜ってさ、あのオープニングの竜なんだよね?」

「そうでしょうね。翡翠の竜。翡だからオスなんでしょう」

「どういうこと?」

翡翠ひすい、カワセミって麒麟きりんみたいに翡がオスで翠がメスなんですって」

「へえ、さすがリズちゃん。というか麒麟?」

「麒麟って中国の麒麟ね。麒がオスで麟がメスなのよ」

「へえ、よく知ってるね、すごいや」

「えへへ」


 照れるとちょっと可愛い。


 改めて見てみると、視線の高さが同じぐらいになっている。

 もともとは僕よりちょっと背が低かった。

 僕も身長が158センチぐらい。彼女は152センチくらいだったかな。

 それがこの世界では身長を比べると僕のほうが2センチくらい低いよね。


 思い返せば身長最低設定にしたんだった。ぐぬぬ。

 妹ってそういえば言ってたっけ。


「ワイちゃんは可愛いから翠竜だね」

「そんな……」

「恥ずかしがってるのも、可愛いよ。小鳥みたいで」

「ぐぬぬ」


 ちなみに本来の仕様では、顔と性別は変更できない。

 男でネカマみたいな容姿にするには、リアルでも本当に可愛い顔でないと無理だそうだ。

 そして僕は女顔なので、そのままでも、自分でいうのは恥ずかしいけど、可愛い顔らしい。


 ということで、女の子みたいになってるけど、『僕以外』は誰も困っていなくて、むしろ喜んでるくらいなのだった。

 むーん。


 これから、どうしよう。


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