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38. オークキング


 オーク村を襲っていたところ、オークキングが現れたのだ。


「やばいか」

「まあ、なんとかやってみましょうか」

「そうだな、そうしよう」

「やっちゃうよ?」

「おう!」


 俺たち三人はオークキングを囲み、ボス戦へと突入した。

 他のオークはほぼ倒し終わっていたのがさいわいして、あまりおらず、囲まれずに済んだ。


「がああおおおお」

「お、おう」


 オークキングが咆哮する。

 ビリビリと空気が振動して、ちょっと怖い。

 ゲームによってはこの咆哮などは麻痺効果があったりするので、気を付けなければならない。

 なんとか耐え、次の攻撃に移る。


「えいやー」

「とー」

「ファイアー」


 普通のファイアーは火魔法の下級魔法だが、上位者が使うとこれはこれでけっこうな威力がある。

 というか調整が可能らしい。

 さっと攻撃するときに便利だ。


 オークキングは右手に剣を、左手のほうはフリーだ。

 その両手を振り回してくる。

 俺たちはちょっと下がってこれを避ける。


 左手で胸を叩いて威嚇をしてきたりもする。

 ただ何か効果があるわけではないらしく、これは演出なのだろう。

 見た感じはとても怖い。

 精神的な作用は皆無ではない。

 俺たちもプレイヤーだから人間だし、怖いものは怖いのだ。


「がるるる」


 これはオークキングではなくそれに対抗している妹だ。

 一応、怒っているつもりらしいが、どちらかというととてもかわいい。

 俺とハズキさんはにんまりと笑顔を浮かべつつ、攻撃を続行する。

 ちょっと癒されたので、俺得である。


 やはりHPの管理も大事だが、それ以上に大切なのはメンタルのほうなのだ。

 気持ちで負けてしまったら、勝てない相手だ。


「よし、回避」

「らじゃー」

「うんっ」


 敵が一撃を加えてくるのに合わせて、おれたちはまた回避だ。

 基本的に相手が大きく威力も高い攻撃なので、避けたほうが得だ。

 ということで見切れそうなときは避けるに限る。


「突撃!」

「はいっ」

「おう!」


 そして一撃の後は硬直時間があるので、その隙に攻撃を加える。

 これが一種のセオリーで、ワンセットになっている。


「よし、次!」

「はいっ」

「うん、お兄ちゃん」


 ワンセットこなして、声をかけて、次に備える。

 ルーチン化してしまえば、なんということはない。

 次々に攻撃を加えていき、敵HPをじわじわ削っていった。

 そうしてついに、HPがゼロになる。


「がるうううう、うおおおおお」


 ひときわ大きな咆哮を放ち、倒れていった。

 オークキングに勝利したのだった。


「やったぞ、勝った!」

「やりましたね!」

「やった、やったわ」


 三人で飛び跳ね、勝利を祝う。

 長期戦も覚悟していたオークキング戦をなんとか勝利で終えることができた。



  ◇


 日曜日。俺と妹とそしてハズキさんは、近所からほど近いショッピングモールへ来ていた。


「ふふふのふ」

「妹ちゃん、ご機嫌ですね」

「そうだな、まあ、久しぶりだしな」


 妹が前をスキップしながら移動していく。

 ぶつからないようにしろよ、と注意をしつつ、温かく見守る。

 なんと今日は夏服と三人の水着を買いに来たのだ。

 もうそんな時期なんだな、と思うと、感慨深い。


 たまにくるくる回ったりしている。

 大丈夫なのか、あれは。

 まあ、いいか。迷惑にはならないように、周りは一応見ているようだし。


「ここの水着、かわいいのいっぱいある」

「お、おう……」

「それじゃ、選んじゃいましょうか?」

「うん!」


 妹がハズキさんの手を引っ張って中に入っていった。

 俺は後ろからゆっくりついていく。

 こんな女の子の服がところせましと並んでるところは実に居心地が悪い。

 場違い感がすごい。

 俺は基本、というか元々、引きニートなので、こういう耐性がないのだ。

 顔を赤くしつつ、あまりジッと見ないように、視線を彷徨わせる。


「お兄ちゃん、これとこれとこれ! ちょっと待っててね」

「あ、ああ……」


 試着室に気に入った、なんかかわいい水着を持って入っていく妹。

 それをニヤニヤして見ているハズキさんも手に水着を持っていて、隣の試着室へと向かった。


「覗いちゃだめですよ」

「んな、ことしないって」

「ひひひ」


 悪いおばあさんみたいな声を上げてから、試着室のカーテンを閉めるハズキさん。

 俺はその前で、ひとり待ちぼうけだ。

 ものすごく場違い感で、どこを見たらいいやら、なにしていたらいいやら。

 そうしているうちに、衣擦れの音がして、中で着替えているのが分かる。

 とても気まずい。

 この中で生着替えしていると思うと、喉がゴクリと鳴った。


「俺はどうしたらいいんだ……」


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