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36. 森の妖精


 そんなこんなで、俺たちはまたまた迷いの森で探索をしている。

 今回は未知の要素を探して、森の奥まで入って調べていた。


「なかなかないね、お兄ちゃん」

「だな」

「まあ、そうですね」

「ハズキさん、何かないですか」

「ないです」

「そっか」


 妹がそれを聞いてしょんぼりする。

 特に何も見つかっていなかった。

 さすがに未知の要素となると、確かにまだ見たことない薬草などはたまに見つかるが、用途も不明だったりして、あまり活用方法がない。

 もっと大きな、未発見要素を探したいのだ。

 そのため、迷いの森を隅から隅までローラー作戦みたいにくまなく見て回っている。

 ただ、この作業、非常に地味で。


 きゅきゅ。

 クモクモまで飽き始めるくらい、ずっと同じような森を歩いて進むしかないという。


 いいことと言えば、あの美味しいキノコを三本見つけたので、今日は一人一本ずつ食べる予定。

 それくらいだろうか。

 やっぱり食い気は重要だ。


 でも今回の目的は食い物ではないのだ。

 例えば、結界が張ってあるエルフの隠れ集落とか、そういう要素を探している。

 無いかもしれない。

 でも「迷いの森」という名称からは、何かが隠されていることを暗に示していて、その噂をするNPCたちの話はいくつか聞いた。

 いわく、迷いの森には何かが隠されている。

 いわく、それは重要な要素であろう。

 いわく、見つけたら一攫千金だ。

 という具合だ。


 まあ、これだけお膳立てされたら、探さないわけにはいかないのが冒険者、プレイヤーたちというものだろう。

 俺たち以外にもいくつかの先行者プレイヤーが捜索をしているが、まだ見つかっていない。


「なんか、このへん雰囲気、ちょっと違うな」

「そうかな、言われてみると何となく違うかも」

「そうですね、そんな気がしてきました」


 妹もハズキさんもなんとなく感じるのだろう。

 森の中なのだけど、なんとなく雰囲気が違う。

 あぁ、ちょっとガスってるというか霧が発生しているのだ、この辺は。


「霧だね、霧」

「なるほど」

「そういうことですか」


 森というだけでなく、霧が漂う森といえば迷いやすいとして有名だ。

 まさに「迷いの森」にふさわしい。


「どっちだろう」

「わかりません」

「とりあえず、直進かな」

「そうする」


 妹の直感の通り、まっすぐ進んでみる。

 そうしてしばらく行くと、なんと、泉に出たのだ。


「泉がありますね」

「なんか飛んでる」


 小さな泉はびっくりするほど透き通っている。

 そしてその泉の周りには光の玉がふわふわと浮いている。

 とても綺麗だ。


「なんでしょう。妖精の泉?」

「おそらく、そういうのかと」


 ミニマップも「妖精の泉」と書かれた独立マップになっていた。


「こりゃ当たりだな」

「ええ」

「うん」


 妹が元気よく返事をしてニヘラと笑う。かわいい。

 こういうところは元気ちゃんはかわいいので、好きだ。


 さて霧に囲まれて、神秘的な泉がある。


「とりあえず、お祈りしていこうか」

「そうですね」

「うん」


 三人で並んで日本風だけど両手を合わせて拝んでおく。

 特に大きな変化はないが、こころなし光の玉の数が多くなった気がする。

 よろこんでくれているようなので、いいとしよう。


「お水、ください」


 俺は誰に許可を貰うでもなく、そう口にして水を汲む。

 こういう時のために予備の水筒も持っていた。

 それからフラスコやビーカーみたいなものもある。


 飲んでみると、めちゃくちゃ美味しい。


「ふぱぁ、美味い」

「あ、私も」


 妹も一緒になって水を掬って飲む。


「美味しい!」

「ふふふ、じゃあ私も」


 ハズキさんも水を飲んで、美味しかったようだ。

 笑顔を浮かべていた。


 鑑定で見ると、この水「精霊水」と表記されていた。


「これ、精霊水だわ」

「見た感じは普通の美味しい水だけど」

「だな、でも鑑定ではそうなってる」

「なるほど」


 こういう水でポーションを作ったらすごいのでは、とすぐに思いつく。

 材料は持っていたので、さっそく作ってみると。


「ポーションを作るぞ」


 ぐつぐつ煮て、薬草を入れて添加剤の葉っぱを入れる。

 そして完成したものがこちら。


「特級ポーション」

「ほーん」

「やったね」


 なんともいえないが、素晴らしいポーションが出来上がった。

 俺は可能な限りの特級ポーションをその場で製造するのだった。


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