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34. キラースパイダー


 キラースパイダーのテイムに成功した。

 もしかしたらサーバーでは初の快挙かもしれない。

 まだ、この辺をうろちょろしているプレイヤーは少ない。


「クモクモ~」


 ピピッ! と鳴いて妹の声に応える。

 なかなかこうしていると愛嬌があってかわいい。

 まあ顔はよくみるとちょっと怖いが。

 特に目が六個あるところとか。

 口にも小さな腕みたいな顎があったりとか。


「クモクモ、スパイダーシルク~」


 ピピっ! と応え、シルクを作ってくる。

 このスパイダーシルクこそが、今の俺たちの稼ぎになっていた。

 高級シルクとして有名で、かなりの高値になる。

 元々高いのだけど、プレイヤー間ではほとんど流通していなかったので、最初なんか相当な値段になったのだ。

 今は少し下がってきたが、まだまだ高値が続いている。


「お金のなる木だね、お兄ちゃん」

「ああ、クモクモさまさまだ」


 クモクモのご飯はちょっと問題だったが、自分でその辺の森や草原で狩りをすることで食べてくれることがわかったので、自由時間を作って解決となった。


 妹ハイジがクモクモが吐いた糸をぐるぐると糸巻に巻き取って製品にしていく。

 やってると楽しいのか、いつもニコニコしている。

 まあ、好きでやってくれるなら俺は何も言うことはない。


「糸のまま出荷してるけど、これ布にしたらもっとするよね」

「そうだけど、機織り機なんてかなりの値段だぞ」

「そうなんだよねぇ、欲しいなぁお兄ちゃん」

「いくらねだってもダメだぞ」

「だよねぇ」


 機織り機は高いのだ。

 NPC製でもお高いのに、プレイヤー製なんて買ったら目ん玉飛び出るくらいする。

 それだけ複雑でけっこうな手間が掛かっているのだろう。

 一見するとそれほど複雑には見えないが、細かい技術とかあるのだろうとは思う。


 まだ普及する前だからな。

 スパイダーシルク以外にも、東の平原の綿花を糸にしたものとかを布にするのに必要で、需要がたくさんあるらしい。


「いひひ、また糸が売れた」

「ああ、このままいけば、また焼肉だな」

「えへへ、でもこの前行ったから違うところにしよう」

「そうだな」


 焼肉はいったばっかりだもんな。

 次は何にするか? ファミレスでハンバーグとかか、それとも中華でエビチリ、麻婆豆腐とかを食べるとかか。

 ラーメンでもいいが、ラーメンは普段からたまに食べるしなぁ。

 もう少しお高い、普段いかないようなところだな。


「いいなぁ、焼肉」

「ハズキさんも連れて行けばよかったね」

「あ、でもその日、ちょっと都合悪かったから」

「そかそか」

「うん」

「また今度、誘ってね」

「あ、はいっ!」


 ハズキさんにご飯誘っていい、って言われてしまった。

 なんだかすごく恥ずかしいな。

 そっかぁ、ハズキさんとリアルで食事か。

 前はハンバーガーだったしなぁ。

 今度はレストランとか連れて行きたいよな。

 うむむ。


 さてまた迷いの森にきている。


「また薬草見つけたよ」

「おう」


 妹はこういうものに目ざとい。


「私はキノコを見つけました」


 今度はハズキさんだ。

 何やらキノコを見つけたらしいが、なんだろう。

 見たことがないキノコだった。


「なんか、すごくレアキノコみたい」

「へぇ」


 そうしてまたゴブリンやコボルトを狩りつつ進む。


「またあった、レアキノコ」

「お、おう」

「美味しいといいよね」

「だな」


 さっきと同じ種類だ。

 たしかに食べてみたい。

 めちゃくちゃ美味いかもしれないし。

 どうだろうな。


「お、ここには三本です」

「レアといいつつ、けっこうあるな」

「まあ、ここ、迷いの森の中でもけっこう奥ですしね」


 俺たちはいつの間にか、けっこう迷いの森フィールドの奥まったところまできていたのだ。

 こういうところにレア品が多い。


 ハズキさんはキノコをウハウハしながら採った。

 あれは後で食べる気だな。

 俺たちが言わなかったら、ひとりでひっそり食べてみるかもしれない。

 そういうことあんまりしないタイプだが、どうだろう。


 そうして町に戻ってくる。


「さて、キノコ、一本でも食べてみましょう?」

「おう」

「そうだよ!」


 妹も賛同して、とりあえず一本だけ、みんなで分けて食べることにした。

 いつも使ってる携帯コンロを取り出し、それでキノコをあぶる。


「おおおおお」

「すごい、いい匂い」


 キノコは抜群の美味しそうな匂いがしながら、すこし焦げ目がついてめちゃくちゃ美味しそう。

 みんな、喉を鳴らした。

 ごくり。


「いただきます」

「「いただきます」」


 ぱくっ、もぐもぐもぐ。


「美味しい!」

「美味しいです!」

「美味いな」


 これは美味い。なんだこれ。

 濃厚な旨味がとにかくすごい。

 こんなキノコ食べたことがないぞ。


「よし、バザールで売るぞ」

「うん……」

「あはは、ハイジちゃん、わかるよ。もっと食べたいよね」

「そうだよ。せっかく美味しいのに」

「売って、俺たちはリアルでいいもの食ってやるぞ」

「だってさ、諦めましょう」

「は、はーい」


 妹が残念そうな顔をしつつニヤリと笑った。

 ハズキさんもそれを受けて笑顔を浮かべる。

 ゲーム内で食ったほうが満足度高いとか、なんというか罪なゲームだよな。

 でもいいんだ。

 俺たちはリアルでいいもんを食う。

 お金がほしい、ほしいぞ。


 高級キノコはこうして売られていった。


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