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12. 新しい敵


 生産品のうち武器防具類は作成者が名前を入れることができる。俺は目立ってトラブルになりたくないので入れていない。また作成本人は後で名前を消すこともできる。

 バザールでも武器は匿名で売ったのでまぁ大丈夫たろう。


 リアルの平日の午後一番なので、まともな人たちは少ない。

 しかし逆に考えれば、ニートと一緒に昼間からプレイしてくれる人とフレンドになれるチャンスとも考えられる。

 ニート勢のギルドなりパーティーと知り合いになれば、トッププレイヤーになる連中かもしれないので、利益が見込めるというものだ。

 少しはそういう打算もあるけど、いつも一緒に遊べるっていうだけでも十分うれしい。


 俺は一人でウサギ狩りをするか迷う。テイムしたムーンと一緒に戦う手もあるけど、ちょっと重荷だ。

 そうするとスライムになるけど、すでにレベル1である奴は経験値的に「まずい」すなわち効率が悪いので、ちょっと迷う。

 どうしたもんか。冒険者ギルドや東門でパーティーでも探そうかと思う。

 よし、そうしよう。

 知り合いを増やすことは重要任務だ。ソロなんてろくなことがない。情報だって人伝に無料で教えてもらうこともけっこうあるもんだ。

 一緒に戦闘すればダメージだって半分以下でいける。


 ということで、東門に向かった。

 そこには、少数ながらパーティーを募集する人たちがすでに集まりだしていた。

 みんな考えることは一緒なんだな、と思いながらそれに加わる。


「こんにちは」

「こん」

「こんちゃ」


 無難な挨拶をしてさっそく混ざる。

 こういう略称の挨拶してくる人はネトゲに慣れた人だ。


「みなさんパーティー募集ですか?」

「ああ、スライムと違ってホーンラビットは攻撃してくるからね。パーティーを組んで数人以上で戦うのがセオリーだよ」


「俺はウル。まだ短剣使いだけど、武器は鉄製に更新してある」

「おおお」


 一瞬どよめきが起こる。


「鉄製ってよく買えたな。全然見ないし、あったとしても高いだろう」

「はい、ちょっと高かったです。ポーションとか生産してそれで何とか買いましたよ」

「ほほう、生産者でもあると」

「そうですね」


 俺は丁寧語で答える。相手はベテランニートのゲーマーが多数だろう。


「ウルさんは戦力になりそうだな、俺はミハエル、槍使いだ」

「私はエリス。一応ヒーラーで、メイス使ってます」


 二人組のパーティーが挨拶してくる。


「分かった、一緒にパーティー組んでくれます?」

「もちろん」

「はい、よろこんで」


 ミハエルとエリスと握手を交わして、パーティーを作る。リーダーは顔からして年上のミハエルさんだ。


「二人は知り合い?」

「いえ。私たちは、たまたまそこで一緒になっただけです。二人だけだと攻撃力に不安があって」

「なるほど」


 他にも数人、こちらに仲間になりたそうな顔をしている人がいるが、みんなどの人も初心者装備で、頼りなさそうだ。

 遠慮もあるのだろう。実際初心者装備ではダメージも大きいから、彼らに不安はある。

 残念ながら人が多すぎても経験値が分散して非効率らしくて、あまり大勢と一緒には戦えない。


 そのままミハエルとエリスと外に向かった。

 俺は一人石を拾いながらついていく。

 エリスさんが不思議そうに俺を見た。


「何してるんです?」

「石を拾ってます。これでもまとめればユーザーに売れるんです」

「へえ~」


 あんまり興味はなさそうだが感心したように相槌された。

 そのままホーンラビットに近づいた。


「投擲してみます」

「どうぞ」

「とりゃあ」


 石はまっすぐ飛んでいきウサギの頭にヒット、5ダメージ。剣よりは弱いけどないよりはよかった。

 近づいて来る前にもう一回投げて同じダメージだった。

 ミハエルさんの槍攻撃に続いて俺も短剣で斬りつける。

 思った以上のダメージを叩き出して、ホーンラビットは粒子になり消えていく。


「流石、鉄製武器、しかも双剣かよ」

「お値段二倍のところまけてもらいました」

「そりゃよかった」


 順調すぎた。次々とホーンラビットを倒した。

 離れた位置にいるラビットを石を投げつけて釣り、近づいてきたところを三人で殴る。エリスさんもヒーラーの仕事が少ないのでメイスで容赦なく殴っていた。

 こういうとき遠慮がないのを見て、女性は怖いなぁと思う。


「ちょっといいか、ウルさん。レベルいくつ?」

「今は7ですね」

「思ったより低いけど、いいか。北へいこうか。ゴブ狩りしようぜ」

「ゴブリンですか」

「そうだよ。エリスもいいかい?」

「ええ、いいわよ。全然余裕なんだもん」

「じゃあ移動しよう」


 そそくさとウサギを退治しつつ北方向へ向かった。そこには普通の感じの森がある。

 地面にはコケなどが生えていて、たまにキノコや特徴的な草なども生えている。いろいろなものを集めている身として、新しいものは採取して歩く。


「さすが生産者。アイテムは拾って歩く。それが稼ぎになると」

「まぁね」


 森に入ってすぐ、敵が出てきた。


「ゴブリンで間違いないな」


 敵はレベル12。格上だけど武器もアップしたし大丈夫だろう。

 数は一匹。


 緑の醜い妖精もどきのゴブリンは背が低いが人型だ。

 粗末な服に手には片手剣を持っていた。


「武器持ちかちょっとやっかいだな」

「やってみるしかないですね」

「サポートは任せてください」


 俺たちはゴブリンに斬りかかる。

 ミハエルさんは槍なので剣より遠くから攻撃できる。

 やはり俺の短剣は、敵の間合いに飛び込まないといけない。


 接近して、斬りつける。おっとゴブリンが剣を振ってきた。二本装備なので片方を盾のように使い、ゴブリンの攻撃を防ぎながら攻撃する。


「ギャギャ」

「ゴブリン覚悟、スラッシュ」


「ギャアア」


 ゴブリンは悲鳴を上げて消えていく。剣持ちだから強いかと思ったけど、思ったほどではなかった。


「全然いけますね」

「直撃を食らったら痛そうだけど、まぁヒーラーもいるし、続行で」


 ミハエルさんが続行判断をしたので、その後も次々とゴブリンを倒す。

 ドロップは【ゴブリンソード】というものがたまに出る。他は特に出ないようだ。


 二匹同時に出てきても、三人なら大丈夫だった。俺とミハエルさんで一匹ずつ対処すれば、全然問題ない。


 経験値はそれなりで、一日戦闘した結果、レベル10を達成した。


「結構連戦しましたね」

「おお、ウル君いると楽でいい」

「ゴブリン最初、怖いかなと思ってたけど大丈夫になりました」


 三人で町に戻ってきて感想を言いあう。

 ドロップアイテムのゴブリンソードは均等割りにした。それなりの数ある。実はこれ、装備アイテムでもある。ただし錆びていて威力は微妙だった。



 ●ゴブリンソード

 ランク:D

 品質:粗悪品

 装備条件:Lv5

 補正:

  ATK+8

  耐久:10/10

 ゴブリン鉄でできたショートソード。錆びていて能力も低い。

 <鑑定Lv1結果>そのままでは錆びているため威力も低い。


 ちょっと「そのままでは」という微妙にヒントっぽい表現が気になる。わざわざ普通の説明と同じことを鑑定で書いてあるというのも変だし。


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