レシピ化する前の魔力石の首飾りの製造にかなり時間を取られて、昨日はそれで終わってしまった。
日付かわって金曜日。今日もお昼ごろにログインする。
今日はハズキさんはゲームをお休みするらしい。
魔力石の首飾りは夜のうちにすべて売れていたので、追加で手早く20個ほど簡易作成で作って昨日と同じ550ptで登録しておく。
似たようなアクセサリーはアイテムはお店で売っているが、LUKが上がるものは見たことがなかった。
一人だとやっぱり寂しいなと思いながら、朝のまだ日が高くない噴水広場の、ぼちぼちと集まりだした露店を見ながら歩く。
まずは食い物を探す。
朝から何を食べたいか考える。うーん。ラビットのステーキは普通すぎる。なんかこう、ファンタジー感があるやつがいい。
そうはいってもなかなかない。
適当にサンドイッチにした。
これもラビット肉のサンドだけど、まぁ普通。葉っぱも挟まっていて、それなりにおいしかった。
高補正の食べ物アイテムがあれば、バカ売れ間違いないし、それなら普通のアイテムと違って料理としてあるので「真似するのは卑怯」という雰囲気がある。
レストランだってオリジナル料理を真似したら、ひんしゅくものだろう。
普通のアイテムは「ゲーム内アイテム」という感覚なので、真似するのは当たり前というか、みんなが広く作成販売してなんぼというイメージが浸透している。
料理で一山当てて、それでハズキさんがいうように、雑貨屋兼レストランにしてもいいな。
安定した生活をして、結婚して子供は二人ほしい。ゲームで子供ができるかはしらないけど。
はたから見たらキモい想像をしつつ、露店を見て回る。
多いのはスライムの核とスライムゼリーだ。
そういえばスライムゼリーはまだ詳細な鑑定はしていなかった。何に使えるかヒントとかあるかもしれない。
初心者ポーションもそれなりの数が売っている。
誰も使い方を知らないようなスライムゼリーなんて売っているけど、誰が買うんだろうか。誰も買わないから売れ残ってるのか。うん。
数はそれほど多くないが、空き瓶と薬草、それから雑草も売っていた。雑草誰が買うんだろう。俺か。まさか。
青銅製武器を大量に入荷というかおそらく自作の露店もあった。一つだけ鉄製武器、おそらくアイアンナイフを売っていた。
「これだけ鉄製ですか?」
「うん、ちょっとコネでバザールで手に入れたっていう鉄インゴットを売ってもらってね」
「いくらですか」
「アイアンナイフは100kEだよ」
「けっこうするね」
「なんせ鉄が手に入らないからね。バザールで売ってたのも一瞬だけだったし、クエストか何かでちょっと手に入れただけの人が放流したんではないかって言われてるよ」
「なるほど」
あれから鉄インゴットは出品していない。下手に売り出すのも騒ぎになるので、躊躇している。
初心者ポーション+も同様の理由で最初の分は出品してみたものの、その後は控えている。
手元にだぶついているからそろそろ売って儲けたいというのが本音だ。
全員が同じようにNPCからクエストを受けることはできない。というかクエストという概念が、冒険者ギルドのものぐらいで、システム的なクエストというのは用意されていないらしい。
だから全員が同じようにシナリオが進んでいくみたいな盗賊退治クエストとかは発生しないそうだ。
なんとか言い訳をして、鉄を売ってしまいたい。とくに鍛冶師プレイヤーがいるなら懇意にして、儲け話の仲間にするというのが一番好ましい。
鍛冶師プレイヤーは露店に何人かいるけど、この人が一番、なんというか強そうというか、入れ込んでいる感じがする。
「鍛冶師一筋なんですか?」
「ええ、そりゃあもう」
「レベル上げとかは?」
「もちろんやってますよ。だって鉄鉱石とか見つかったら取りに行ったほうがいいこともありますし」
「そうだね。買わないの?」
「買ったほうがいい状況ならもちろん材料は買います。鍛冶さえできれば、どちらでも。今どちらか決めてしまうと、状況が外れた時にこまるでしょう」
「たしかにね。実はですね、ちょっと商談が」
「はい、なんでしょう」
「俺も鉄インゴット、少しもってるんですが買いませんか?」
「本当ですか。助かります。どうやって入手したんですか……とかは聞いちゃダメなやつですよね」
「はい。詮索無用でお願いします」
「いくつくらいありますか?」
「そこそこです。何個いくらまで出せます?」
「そうですね、そんなに儲かっているわけではないので、20個500kまでならなんとか」
「けっこうお持ちなんですね、エスタ」
「はい。露店派というか、バザールも併用しているのですが、やはり学生さんとかはあまりバザールで買い物できる状態じゃないらしく、エスタでの取引が多いですね」
「ふむふむ。では20個で500kEでいいですか?」
「もちろんです。ありがとうございます。本当にありがとうございます」
俺はその条件で交換をする。鍛冶師プレイヤーはさすがにうれしそうだ。
「せっかくなのでお名前を。俺はウルです」
「僕はムルリックだ。よろしく。もしまた鉄インゴット、または鉄鉱石があるなら持ち込んでくれ」
「はい、また機会があったらお願いします。そうだ、ついでにそのアイアンナイフ見せてもらってもいいですか?」
「いいよ」
●アイアンナイフ
ランク:C
品質:良品
装備条件:Lv5
補正:
ATK+20
耐久:40/40
鉄でできた短剣。良品。
<鑑定Lv1結果>少し高価な装備品。良品のため補正がいい。
俺の作成したものより品質が高く、補正もよかった。これなら高く売れるだろう。
やはり専門職は専門家に任せたほうがいいんだろう。
そのほうが売り買いをしても自分が集中砲火を受けなくて済む。
「いい品ですね。実は自分も作ってみたんですけど、こんな感じで」
「どれどれ」
俺は装備しているアイアンナイフのノーマル品を見せた。
「なるほどね。悪くはないんだよ。ただ鍛冶レベルが低いとか、何回も手作業で作ってないでしょ?」
「ええ、二個目以降はレシピ化して作ったので」
「だろうなぁ。何個も同じのを手で作ってやっと鍛冶レベルも上がって、それで良品ができるようになるんだよ」
「なるほどね」
「アイアンナイフ良品、二つほしいな。今作ってくれますか?」
「ああ、良品もレシピ化できたからすぐできるよ。お金はあるかい? 二個でそうだな150kEにおまけしておく」
「そりゃありがとう」
さっき500k儲けたのにもう150k出てくとか。とほほ。
アイアンナイフ良品二つを代金と引き換えに受け取る。
インゴット20個で武器を10個はできるから彼はかなり儲けるはずだ。
100kで売るならおじさんは500kの儲けになるか。レシピ化していると作業もたいしたことがない。そのレシピ化が大変なんだろうけど。
「この自作のアイアンナイフ、下取りに出してもいいですか? 実を言えば他の武器もあるんですけど」
「あんまり僕もさっきのインゴットでお金がないので、ちょっと無理かな。すまないね」
「いえ、バザールで売ってみますよ」
「おお、頑張ってくれ。商売
俺はバザール掲示板を開いて、鉄製武器を販売していく。お値段はそれなりに。数もそこそこある。まとまった量を出したら値段が下がるが、ペットみたいな嗜好品と違ってメイン武器は逆に高く売りすぎると反感ばかり買うだけになるので、ここは数を出すのが正解だと思う。
数を出すといっても各種五個くらいしかないんだけど。
自分用は買ったし、もう自分では鍛冶はやらずムルリックさんにお願いしようと思う。
いまから売れるかも分からない銅製武器を量産してスキル熟練度を稼ぐとかもやりたくない。