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10. 幸運のお守り


 今はゲーム内時間午後三時、夕方まで何しようかというところで、ふと思いついたことがある。


 それとは別件で、匿名掲示板に書きこんでおく。


『プレイヤー情報屋とかほしいよな。秘匿情報の売り買いとかしたい。売るほうは独占もよくないと思うし、買う方だってお金出した人だけ利益がもらえるならウィンウィンだと思うんだ』


 こんな感じのコメントを書いておく。誰かが情報屋を始めればそれでいい。

 そうしたら新しい何かを発見した後、自分でそれを実践して稼ぐより、情報料を売ってしまったほうが楽な気がするんだ。

 まだゲームは始まったばかりでみんなが秘匿してる情報は大量にあるだろうから、情報屋もそれなりに儲かると思う。


 普通の無名の人が情報屋とかやっても、内容を話した後、お金をもらえないということになる可能性だってある。

 詐欺っぽいが、そこまで運営が対応してくれるかというと、たぶん無理だろう。

 有名なプレイヤーなら詐欺行為をして、それが知れ渡ったら商売にならないので、まじめにするだろう。


 ベータ版があってそこですでに情報屋をやっていたっていうなら、知名度もあるだろうけど、いきなり本番環境だったので、そういう便利な人はいない。



 とりあえず書きこんだので、次の一手を考える。


「あのさハズキさん」

「なに?」

「途中の空き地にさ、クローバーがたくさん生えているところあったでしょ」

「あぁあったね、あった」

「そこでさ、四つ葉のクローバー探してみない?」

「え? なにそれ、幸運のお守りとか?」

「ご名答。その幸運のお守り」

「ウルさん、ロマンチックなところあるね」

「いやいや、迷信じゃないよ、これゲーム。きっと運の補正が上がるアイテムになるという打算がですね」

「ふむふむ。それで?」

「アイテムドロップとかランダムじゃないですか。だから運の確率が上がると、将来にわたって有利になるかなぁとか甘い考えを」

「それって、ちょっと考えるだけでもすごくないですか?」

「すごいと思う」

「よし、いこういこう」


 ハズキさんはやる気に満ち溢れていた。


 そうして空き地にやってきた俺たちは、立ったまま下を眺めて、クローバー畑の中を四つ葉を探して歩いている。


「どうそっち?」

「ぜんぜんないです……」

「まぁそうだよね」

「そっちは」

「まったく、かすりもしない」


 なかなかに曲者だった。四つ葉だと思って触ってみると隣のクローバーの葉っぱが引っかかってるだけとかもあった。

 そういうときは、騙された悔しいと思う。


 それからさらに時間がたって、もうすぐ夕方になりそうなとき。


「あった、あったよウルさん!」

「ああ、おおお、全然ないよ。よく見つけたね。ハズキさん」

「どうだ」

「あ、こっちにもあったわ」

「わーお」


 ハズキさんが見つけたら、すぐに俺も見つけられた。


「さあ鑑定してみよう」


●四つ葉のクローバー

 ランク:A

 品質:ノーマル

 四つ葉はかなり珍しい。幸運のお守りとして信じられている。

 <鑑定Lv1結果>加工すると幸運のお守りになる。


「あぁ加工しないといけないんだ」

「どうします?」

「しおりとかが定番だけど、ガラスに封入みたいのもカッコイイけど難しそう」

「無難にしおりにしますか」

「うん」


 ランクAとか珍しい。初めて見た。

 閉店する前に雑貨屋に行き、薄い紙それから糊を買ってくる。そしてさっそく挟んでみる。

 乾燥は調合のアーツに【乾燥】というのがあるので、できるから大丈夫だ。


●四つ葉のクローバーのしおり

 ランク:A

 品質:ノーマル

 補正:

  レアドロップ率10%上昇

  耐久:15/15

 珍しい四つ葉をしおりにしたもの。幸運のお守り。

 <鑑定Lv1結果>乾燥処理が上手にできているため良品。


 意外とうまくいった。これはちょっと重要なアイテムすぎる気がする。効果が10%しかないので、そこまでではないが、ひと悶着ありそうな一品になった。

 これは秘密にするコースということで。情報屋ができたら情報だけ売ってもいいかな。


「できちゃいましたね」

「だね」

「どうしますこれ」

「自分たち用で」

「ふむ」


 ハズキさんは考えている。


「小物やポーションも売ってる、ご飯屋さんとかやりませんか?」

「その心は?」

「なんかそれだけで毎日生活できそうで」

「生活だけならできるかもしれない」

「はい。いいじゃないですか、生活できれば」

「でも俺はRMTで稼ぐという使命があるんだもの」

「そうでしたね。ポーションをバザールで売るだけでもそれなりに儲かりませんか?」

「儲かるかもしれないけど、どうだろう」


 攻略とかレベル上げとか全部放棄して、ハズキさんとまったりお店プレイというのも案外悪くないかもしれない。

 ただ、ポーションも中級ポーションとか上級、最上級と必要になってくるとどうしても高レベルでないとつらいと思う。

 そのへんを説明したら、ハズキさんも理解したみたいでしょんぼりしてしまった。


 材料だけ仕入れて、加工だけとなると利益はかなり少ない。

 レシピシステムもあるので、できる人が多いと思われる。

 おそらくだが調合のレベルをある程度要求するレシピとかもあるので、多少は問題ないけど、それでも簡単と言えば簡単だと思う。

 【初心者ポーション+】みたいなレシピ非公開の隠し玉みたいなのなら独占販売できるけど、高レベル用とかバレたら袋叩きに逢いかねない。

 世の中は世知辛い。


 街の探検で広場には比較的多くラファエルの木が植えてあることが分かった。

 中央噴水広場以外にもあるので情報解禁をしても葉っぱがなくなってしまうということは防げそうだ。


 四つ葉のクローバーは探すのが難しい。もっと手軽に運がよくなるものを見つけたい。ネットで検索すると黒水晶とか勾玉とかがヒットするので、そういうのを試してみたい。


 一番近くて手軽なのは魔力石くらいか。広場の隅で工作セットのヤスリなどを使って魔力石を加工し、水晶みたいな六角柱の首飾りのお守りを作ってみた。

 結果はLUK+3だった。LUKがどのように影響するかはまだ分からないので、なんとも言えない。

 石は金属扱いなのか、鍛冶のレシピになったので量産してみてもいいかもしれない。雑貨屋や装備屋にはそれらしいものは売っていなかったので案外儲かるかもしれない。


●魔力石の首飾り

 ランク:C

 品質:ノーマル

 補正:

  LUK+3

  耐久:10/10

 魔力石を六角柱のデザインに加工した首飾り。

 <鑑定Lv1結果>幸運のお守りとされる。



 手持ちの魔力石で首飾りを10個追加で作り、1つ550ptでバザールに出品してみた。

 売れれば計五千円の儲けだ。


<ステータス>

 名前:ウルベウス・ニューウェスト

 種族:ヒューマン  性別:男

 レベル:6

 経験値:120/350

 資金:369,850E

 バザール:75,425pt


 HP:85/85

 MP:75/75

 SP:75/75

 満腹度:37/100


 装備:

  右手:アイアンナイフ ATK+15

  左手:アイアンナイフ ATK+15

  体:革鎧 DEF+10

  足:革靴 DEF+7

  アクセサリ:

   魔力石の首飾り LUK+3

   四つ葉のクローバーのしおり ドロップ率+10%


 スキル:

  短剣術Lv3、鑑定Lv1、調合Lv2、鍛冶Lv3、料理Lv1、木工Lv2


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