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9. 観光


 リアル午後零時、ログイン。重役出勤だけどゲーム内ではちょうど朝になる。

 昨日は堅苦しいことを考えていたので、今日はせっかくのファンタジーだ。観光しようと思う。

 さいわい一緒にいてくれる女の子がいる。テンションも上がるってもんだ。


 いつもの噴水広場でハズキさんと待ち合わせた。


「おはよう」

「おはようですよ。今日はどうしますか? またスライム捕獲しますか? まだ情報公開されてないんですよね」

「結構儲けたし、今日は観光しようよ。もちろん街の中の情報収集も兼ねてるけど」

「いいですね」


 ゲーム内で三日目だというのに知り合いが後ろからついてくるハズキさんだけというのはきつい。

 情報を教え合ったり、一緒にボス戦をしたりするウィンウィンな関係の人が切実にほしい。

 一期一会とか人見知りとかコミュ障とか色々あるので、なかなかうまくいかない。


 生えている草木は必ず鑑定する。まだすごいのは見つかってないけど、いつ有用なものがあるか分からない。

 空き地で草が生い茂っているようなところも多い。

 この都市は治安は悪くないようだ。スラムもない。孤児院は三箇所あり、教会はいくつか、いや、結構ある。

 立派な教会から小さいところまで。茶色やまっ白な建物などデザインは色々だった。

 教徒ではないので祈ったりもしないけど、外から眺めたり、入ってもよさそうなところは、中も見せてもらった。

 なかには首都なので観光地化している教会もあって入場料を取られる場所もあった。絵や彫刻がたくさんあり、見るものは尽きなかった。


 港町なので港、船もあった。見に行ったときはすでに朝早くではなかったので、すごく混んでいなかったが、早朝はすごいらしい。

 船は大小たくさんあった。貿易船から漁船まで色もカラフルだった。

 競りが終わった市場では一般向けに魚が小売りされていた。

 バザールにもすでに魚が出品されていたので、釣りプレイヤーもいるのだろう。

 見たことある魚からゲームオリジナルの魚もいる。


 道を歩くと隅にゴミが捨ててあることもある。鑑定してみると、本当のゴミではなく採取アイテムだったりする。

 拾えたのは「ガラスの破片」。ガラス瓶の割れたやつだ。「石ころ」も拾える。「木片」これは燃料か何かにはなるかもしれない。

 道の隅には採取してもよさそうな「雑草」「薬草」。意外と薬草もその辺に生えている。誰かが売りそうなものだけど、街中を探すよりは外へ出て採取した方がたくさん取れるので放置されているんだろう。


「色々ありますね」

「うん」

「薬草なんて大きくて立派なものまで」

「そうだね」


 会話をしながら歩いていく。

 日本式の公園みたいな場所はあまりなく、多いのは広場だった。

 広場にも噴水広場みたいに木や芝生のスペースがあってベンチもある。


「じゃあこの広場で休憩しよう」

「はーい」


 広場で一休み。こういう時間もいいものだ。

 バザールで売るのに必死になって、ゲームを楽しまないなんて損しかない。

 やっぱりこうやってゲームを満喫するに限る。でないと長続きしない。

 三倍加速で長時間プレイするしかないので、楽しいことは重要だ。


 露店でクッキーとジュースを買って食べる。

 NPC製なので、ステータスアップはつかないけど、おいしいだけで十分だ。


 天気のいい日に、広場で女の子とクッキーを食べるなんて、リアルじゃ絶対にできない。


 NPCといえば、AIが発展した今では、NPC差別みたいなことをする人は少数派だ。みんな普通に住民として接している。


 モンスターは名前とレベルとHPがバーになって表示される。NPCやプレイヤーにはこういう機能はない。

 ただしパーティーを組んでいると、そのメンバーの名前、HP、MP、状態異常などは見えるようになる。


 商店の中はほとんど見てなかった。いちいち見ていたら日が暮れてしまう。しかしそういうところに重要アイテムがあったりするから困りものだ。

 装備屋は見てみた。

 【革鎧】DEF+10と【革靴】DEF+7が売っていたのであまり深く考えずに買った。お値段は20kEぐらいだ。

 ハズキさんも鎧と靴を新調したけど女性用はまだ新人向けなので派手な装飾はないけど、胸の形に合わせた盛り上がりと谷間が見えるところとか、下半身がミニスカート状になっているところとか見た目がそれなりにいい。

 なかにはそういうのを嫌って男性向けみたいなのを着ている女の子も一定数いる。

 ファッションにはそれなりに気を使うということだろう。


 これで初心者のしょぼい感じの見た目がだいぶ二人ともよくなった。

 これだけでも今日歩き回ってよかったと思う。


 途中ログアウト休憩をはさんだりしつつ見て回り、ゲーム内のお昼を食べる。

 NPCレストランだ。今日のメニューはミートパスタ。普通のミートソースを使ったもので、とてもおいしい。


「そういえば、ヒトデどうします? 今度パスタにするんですよね」

「ああ、そうだったっけ。どうしようか。ウニみたいな味らしいけど」

「ウニパスタですか。味付けの問題もありますね。クリームみたいになるんですよね、確か」

「うん。生クリームとかと合わせるといいんだと思う」

「ふむふむ」


 ご飯を食べつつ、新しいレシピのことを話す。

 そして話題が変わった。


「簡単にできて、楽に稼げる要素がほしい」

「何言ってるんですか、今でも十分じゃないんですか」

「いやぁ、今やってるのはまだ他の人が未発見なだけで、少し考えてやってみればできそうなことじゃん。そうじゃなくてバレても安定して楽に稼げるような、将来安定のやつ」

「そんなのあるんですか」

「たぶん、ない」

「ですよね」

「そらそうよ」

「あはは。楽して稼ぎたいっていっても、苦労分だけが価値に反映されるんですもんね」

「そういうこと。あとは最初高いってだけだね」

「はい。なんでしたっけ先行者利益でしたっけ」

「そうそれ」


「ごちそうさん」

「はい、ごちそうさまでした」


 ミートパスタも食べ終わり、午後なにしようかと考える。


「どうする? またスライムする?」

「そうしましょうか。レベル上げしたほうがいいのかもしれないですけど」

「魔力石は雑貨屋にあることが分かったので、大量確保もできるけど」

「そうですね。うーん。そこそこの数だけ確保で」

「らじゃー」


 雑貨屋に行き、魔力石を追加で買ってくる。燃料用に少し持っていたけど足りなかった。


 レベルが6になったのに、西の平原に繰り出す。周りは初心者の服ばかりなので、少し目立つかもしれない。

 自意識過剰かもしれない。別に誰も俺たちのほうなんか見てなかった。他のプレイヤーは必死にスライムを攻撃して倒していた。

 よく見ると服装の違うNPCの少年たちとかもスライム狩りをしつつ小石や薬草を取っている。

 俺たちは草むらを進んで、他人からあまり見られないようにしつつ、スライムを何匹もペット化した。


 さっそく戻ってきて、バザールに数匹ずつ登録していく。やはり一度に登録してはまずい。値段は1,650pt。昨日より25%引きにしてみた。

 まだスライムもホーンラビットも他の人がテイムに成功したという話や、売っているのを見ていない。今現在、2,750ptで転売されているのが一匹あっただけだ。転売じゃない可能性もあるけど、それならもう少し量を出すと思う。


 スライムのテイムは難しくて、たまにしかバザールに出品されないのではないか、という予想が立てられていて、おおむねそんな感じに受け止められている。

 捕獲方法が公開されたら、その簡単さに最初に買った人たちは、悔しがるかもしれない。それに関しては申し訳ないと思うしかない。


 スライムとホーンラビットのテイム方法を誰かに教えて、情報料分として売上から三割とか取るということも可能ではあるんだけど、あとでお金をもらうというのは明らかに信用取引といって、確証がないだけに詐欺されやすい。

 何匹売ったかだって、実際のところ自己申告に頼るしかないので、ごまかしもできる。

 それほど信用できる人がいないのが痛かった。


 まだリアル2日目なので、隠していることは、それほど後ろめたいわけではない。

 どうせ誰かが見つけるはずだ。早く見つかれば重荷を下ろせるという風に考えることもできる。

 もちろん自分で掲示板に書きこんでしまうこともできるけど、それは、なんか違う気がする。


 スライム狩りは比較的早く終わったので、夕方まで時間がまだある。


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