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7. 露店


 露店の空きスペースに座って、自分たちもゴザを敷いて露店を始めてみる。

 売り物は「石ころ100個で1,000E」そして「初心者ポーション一個150E」だった。

 雑貨屋で売っているポーションは1個200Eなので、ちょっとお買い得のはずだ。


 ゲーム初日だけあって、人は多いので見てくれる人は多い。

 そのうちぽつぽつ売れてなんとか完売した。収入は全部で5kEぐらいだ。

 狩りをして、素材を店売りした方がまだいいかもしれない。


 露店の合間に、せっかく二人いるので順番に店番をしてログアウトして小休止していた。さらに空いた時間は他の露店を見て回る。

 どんなアイテムが世界にあるか知るのは重要な情報だ。


 スタートダッシュを決めて一番最初に物を売ると、高値で売れる。こういうのを「先行者利益」という。


 高値で売れるからといって、数を売りすぎてはいけない。特別感が失われて値崩れしてしまう。

 10個もスライムが販売されていたら、もっと安くしろといわれるに決まっている。

 まぁ匿名で合計何匹売ってるかは本人たち以外には誰にも分からないので、苦情を言われたりはしないが、そういう空気にはなるし掲示板で書かれたりもするので、その辺は空気を読むのが重要だ。



 高額のE、エスタを手にいれる方法を思いついた。

 一人の人が持っている金額は少ない。

 そこで「多くの人から少しずつお金を徴収して、高いものを売る」というのができそうだ。


 急いで雑貨屋に行き、サイコロを三つ購入してくる。


 露店に座り、スライムのまだ売っていない子を一人召喚する。


「いらっしゃい、ペットのスライムを500Eで購入するチャンスですよ。サイコロ当てゲームいかがですか」


 サイコロを三つ、全部とも「六」が出たらスライム購入ができるという疑似くじを思いついた。

 実体化したスライムの集客力はなかなかのものだ。

 すぐに当たったらかなりの損だけど、実際に「くじ」を発行すると管理が面倒なので、サイコロあてにしてみた。


「じゃあまず一回やらせて」


 目をキラキラさせた女の子がやってきた。

 俺の隣ではハズキさんも見守っている。


「えいっ」

「はい、二、四、五。残念」


 確率は二一六分の一。


「あ、もう一回。うぐぐ。はい500E」

「どうぞ」

「えいっ」

「三、五、六、残念」


 確率的には一回500Eだと108kEの価値があることになる。

 実際には途中で当たるので、儲けは半分くらいだろうけど、そこそこいけそうだ。


 人が集まってくる。

 そのうちに列ができて、何回も挑戦する人もいて、スライムサイコロは人気になった。

 別に自分がスライムの販売人と公表したわけではないので、バザールで購入したと言い張れば、みんな納得した。


 ちなみにちゃんとした「くじ」は国の許可がないとというか、特定の金融機関しか発行できないらしい。

 ビンゴゲームとかあるけど、ああいうのが規制されていないので、たぶん大丈夫だろう。

 クレーンゲームとかあるゲーセンみたいなものだ。

 ただ何回もやると、怪しまれるので、いつもやるわけにはいかなそうだ。


 ハズキさんは暇なので他の露店を回り、空き瓶と薬草を買い集めて、噴水の水をすくい、簡易作成でポーションを作っていた。

 空はもう暗くなっていたが、プレイヤーはなんのその。魔導街灯の明かりを頼りにみんな活動し続けていた。

 リンゴ売りのおばちゃんなどの地元民は露店にカバーを掛けて家に帰っていった。

 集客ついでにハズキさんのポーションも売れている。商売繁盛は素晴らしい。


 スライムサイコロは一回やったら後ろに並び直すというルールにした。

 なかなか当たりを引く人は現れない。わざと六が出るように転がす不正はもちろん認めていない。

 初日から不正者と罵られる覚悟のある人はいないようで、みんな真面目にやってくれた。


「スライムって何食べるんですか」

「ああ、なんでも食うよ、ほら石ころ」


 俺が端数の余りの石ころを出して与えるとグレープゼリーちゃんは触手を伸ばして取り込み石が消える。

 ぷるぷる嬉しそうに震える。


「え、そんなもの食べるんだ」


 石はちょっとテイムのヒントだったかもしれない。危ない危ない。


「草とかのほうが好きかな、はい、雑草」


 インベントリから雑草を出して与えると再び震えて嬉しそうにする。


「ぷるぷるして、可愛い。ほしーぃ」

「100kだすなら直で売ってもいいよ」

「ううぅ、そんなお金ないよ」


 お客の若い女の子は残念そうにした。


「次は俺の番だ」

「まいど」

「とりゃあ」

「おお、六、六、六、おめでとうございます。大当たりです」


 周りの人は、文句も言わずみんな拍手をして祝福してくれた。優しいプレイヤーが多いとほっこりする。

 俺はスライムをそのままトレードウインドウで所有権を移譲する。


「やったぜ。大儲けだ。売るか、しかし今後も手に入るとは限らないし、バザールにも追加されてねぇからもったいない気がするな」

「露店の客引きとかにいいですよ。持ってても損はしないかと」

「ああ、そうだな。兄ちゃんありがとよ」


 スライムは引き取られていった。

 スライムサイコロの売上はなかなか当たらなかったので100kを超えたぐらいだった。


「スライムサイコロはこれで終了です。ありがとうございました」


「あーあ、わたしのスライムちゃんが」

「きっとそのうちテイムできるようになるさ」

「はやく情報まわってこないかなー」

「聞いたか? スライムだけでなくホーンラビットも少しだけど出品されてたらしいぜ」

「へぇー。モンスターはみんなテイムできるのかね」


 露店をかたずけて、ハズキさんと話す。


「ログアウトして、またゲーム内が朝になったら再開しましょうか。夜はなんか不気味だし、掲示板情報にも目を通しておきたいので」

「そうですね。私はちょっと家事と夜ご飯のお買い物に行ってきます」

「ああ、なんかちゃんと現実の方でも生活してるんですね」

「なにそれ」

「俺は親任せのニートだから」

「ああ、親はいるあいだは使えばいいのよ、ね」

「はい。ではまた」

「ばいばい」


 ハズキさんが粒子になってログアウトしていった。

 俺は完全なログアウトはせず、何と言えばいいのか分からないが、待機ルームに戻る。

 待機ルームも三倍加速で、そして外部掲示板などを閲覧することができるようになっている。

 実は書きこみの多い外部の匿名掲示板と、書きこみ数が少ない公式掲示板がある。

 公式掲示板はゲーム内キャラ名がそのまま表示される記名制になっている。

 公式掲示板も一応見てみたけど、たいした内容は書かれていなかった。


 外部の匿名掲示板を流し読みしていく。

 まず武器スキルの話題がある。青銅武器ぐらいしか店売りはないこと。鉱石も鉄鉱石は見つかっていなくて、あるのは銅とすずぐらいなこと。

 鉄鉱石は他の町からの輸入品でどうやらNPCは鉄製武器はワンオフ品などの注文の時にしか製造していないらしい。

 そしてペットの話題。スライムとラビットそしてスライムサイコロのことまで掲示板に書かれていた。

 スライムの値段が高いことも書かれているし、そのボヤキなんかもあった。

 ここの掲示板のローカルルールでは、個人名の晒しは禁止行為になっている。


 掲示板の書き込みが多いと、読むだけで一時間単位で時間がかかる。

 本当はその間もプレイした方がレベルも上がるし健全かもしれない。


 再びインしてみたが夜の間は、NPCショップも冒険者ギルドも閉まっているので、活動している人は少ないようだ。

 それでも噴水広場の隅の方で、宴会をしている集団などもいる。

 俺はひっそりと低木に近づいて、可能な限りラファエルの木の葉を確保しておく。

 100枚になったところでやめておく。


 相変わらずまだ露店を開いている人たちがいるので、薬草と空き瓶を集めて、初心者ポーション+を作っておいた。


<ステータス>

 名前:ウルベウス・ニューウェスト

 種族:ヒューマン  性別:男

 レベル:5

 経験値:120/300

 資金:118,350E

 バザール:31,645pt


 HP:80/80

 MP:70/70

 SP:70/70

 満腹度:35/100


 装備:

  右手:初心者の短剣 ATK+5

  左手:初心者の短剣 ATK+5

  体:初心者の服 DEF+5

  足:初心者の靴 DEF+5


 スキル:

  短剣術Lv2、鑑定Lv1、調合Lv2


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