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5. ホーンラビット


 スキル屋のおばさんに、ついでに町の周りの情報を聞いた。

 ここは首都、港町トライセン。西の平原にはスライム。南側には海、東側の草原にはホーンラビットが多く、北側は森でその北側は山になっているらしい。


 ホーンラビットはレベル5なので、俺たちにはちょうどよさそうだ。


「おばちゃん、ホーンラビットの好物って分かりますか?」

「ええ、ラビットは甘い果物が好きらしい。ただ大きいと食べられないから小さく切って与えて、しかもたくさん食べるらしいよ」

「たくさん食べるですか」

「そうだよ。根気よく食べさせるのがテイムの条件だね」

「なるほど。ありがとうございます」


 スキル屋のおばちゃん情報まじありがとう。

 こうして道すがら噴水広場に行き、そこでリンゴを買う。


「おばちゃん、とりあえずリンゴ20個ください」

「たくさんありがとうね、1,000Eだよ。ホーンラビットかい?」

「はい」


 お財布はピンチであるが致し方ない。

 まだ開始直後なので、RMTポイントでものを買いエスタを入手するという方法があまり使えない。

 高い薬草を買いギルドで売ることもできるが10個110ptで500Eは流石になしだ。

 せめて50個110pt、2,500Eぐらいでないと割に合わないだろう。

 スライムというかグレープゼリーは2,200ptなので50,000E、50kEという換算額になる。

 高いなと思うが、情報なしの時点ではしょうがない部分もあるのだ。


 どれが薬草かは把握している。門を出て石を拾いながらたまに生えている薬草を短剣で刈り取る。

 ギルドに行った人たちの多くは西の平原にいるので、東の平原はほとんどいなかった。


 さっそくホーンラビットがいた。

 こちらから攻撃しなければ攻撃してこない。いわゆるノンアクティブモンスターだ。


「戦闘してみるか、スラッシュ」


 双剣で斬りかかる。短剣術のアーツ【スラッシュ】を使ってみる。

 右手側だけスキルエフェクトが発生して青いパーティクルの粒子が剣の周りを漂っていた。

 ウサギは二割りほどのダメージだった。

 すぐに反撃してきて角を突きつけてくる。

 今度は俺が7のダメージ、約一割持っていかれた。

 お互いが攻撃し合い、俺が残り二割で勝利した。


 ドロップアイテムはウサギ肉、ウサギの角だった。

 ちなみに直接地面に落ちている。

 第三者が横から拾っていったらどうなるかは分からないが、多分拾えそうだ。


「ヒール」


 ハズキさんが回復魔法を唱えてくれる。回復量は30といったところ。フル回復には二回唱える必要がありそうだ。


「何回くらい唱えられる?」

「MPからすると六回ですね」

「自然回復は?」

「じわじわですが、多少は」

「正直使える?」

「まあまあですね」


 次に会ったホーンラビットはテイムしてみる。

 リンゴを短剣で切り分けて与える。一欠、二欠、と与えていき丸々二つを食べきった。


『ホーンラビットをテイムしました。名前を付けてください』


 個人アナウンスがあり、テイム成功だった。


「キュッ」

「名前はムーンだ」

「安直ですね」

「まあな」


 月の兎、だからムーン。

 アイテム化したものを召喚してみる。

 おでこにあるイッカクみたいな角に、赤い目に真っ白な毛並み。なかなか可愛いじゃないか。


 スライムでの実験で同時召喚は一匹までと分かっている。

 リンゴをハズキに渡して、今度は彼女がテイムした。

 次の子は、角がなく、どうやらメスらしい。


「名前は?」

「ルナですね」


 全部で丁度十匹をテイムできた。

 こんだけ簡単なら値段はすぐに下がるだろう。

 オスが五匹、メスが五匹だ。


 魔力石を拾うのに多少コストがかかるので、スライムはしばらくしたら100ptぐらいになって最終的にはまったく売れないようなものになると思う。

 ホーンラビットはリンゴが50Eなので、安くなったら50ptぐらいだろうか。


 リンゴがなくなったので、方針を変える。


「次のラビットは二匹召喚して、四人で一斉攻撃しよう。ドロップも集めたいし、攻撃はなるべく受けたくないからね」

「はい。チーム戦ですね」


 二人と二匹でホーンラビットを攻撃する。攻撃が激しいので、相手は反撃がうまくできず、ほとんどダメージを食らわずに攻撃できた。

 やはりソロよりパーティーのほうがずっと簡単に戦闘できる。

 この辺はクリックゲームと全く違った。

 ソロ中心で公式RMTで稼ぎまくると思っていたけど、これは作戦を変更した方がよさそうだ。自分たちのギルドを作って、協力して稼いだ方が最終的な利益が大きい、効率が良さそうな気がしてきた。


 ラビット戦を終えて門まで戻る。

 レベルが上がって二人ともレベル6になった。

 初心者ポーションは使い果たした。残ったのは空き瓶が10個。

 戦闘で活躍したラビットはアイテム化しておく。町では目立って困る。

 さっそくホーンラビットを売りに出そう。スキル屋のおばちゃんもリンゴ屋のおばちゃんもペット化の方法を知っているので、情報が広まるのは時間の問題だろう。

 先に売り抜いてしまうに限る。

 戦闘で一緒した一匹は残してラビット一匹を1,100ptで売りに出す。

 ハズキも俺に合わせてくれる。

 初物はご祝儀とか言って高いもんだ。


 門の近くには買取露店があったので、ホーンラビットの肉と角を売る。

 全部で5kEになった。

 なかなか順調だ。次は何で稼ごうか。

 また魔力石が五個手に入ったのでスライムを追加しようか。

 スライムがまさか石を食べるなんて、すぐには思いつかないと思いたい。

 街の中を通過して、そろそろ現実時間で一時間だなと思い立ち止まる。


「ハズキ、一度落ちよう」

「どうしたんですか?」

「休憩しよう。健康第一だ。ドクターストップなんて笑えない。最初は慣れてないから疲れやすいし休もう、リアルで十分後にまた」

「分かりました」

「ああ、あの、よければフレンド登録などを」

「いいですよ」


 ハズキさんは笑顔でこちらから飛ばしたフレンド登録を承諾してくれた。

 ファンタジー・ワールドではじめてのフレンドだ。

 正直、ソロでやっていくつもりだったので、いきなりフレンドができるとは思わなかった。


 噴水広場でログアウトする。

 VRそのものは初めてではないけど、三倍加速は初めてだ。ゲーム内で三時間たったのにまだリアルは一時間だった。

 とても不思議だ。水分補給とトイレに行きまたダイブインする。


 まだまだ新規さんが広場にインしてくる。

 プレイヤーやNPCのゲーム内露店も数が増えていて、なにやらモノを売っている。

 俺は噴水に近づいて、空き瓶に水を汲む。

 ついでに水をすくって飲んだ。

 水はタダだけどタダじゃない。門の方へ行くと噴水はないので真水を確保するのが難しい。

 ゲーム慣れしていないと、その辺で汲めばいいと気がつかない人もいるらしい。

 これは採取ポイントでないと採取できない人に通じるものがある。


 噴水の周りには芝生も生えている。

 等間隔に低木も植えてある。低木の葉を一枚とって鑑定してみる。

 葉は大きめで広葉樹のようだ。


●ラファエルの木の葉

 ランク:D

 品質:ノーマル

 一般的な庭木の葉。

 <鑑定Lv1結果>回復薬に少量混ぜると、効果が伸びると言われている。


 なるほど。これはお宝っぽいですな。

 ラファエルの木と交互に植わっている小さな実がついている木も鑑定してみる。


●グリーンベリーの実

 ランク:D

 品質:ノーマル

 食べられる木の実。

 <鑑定Lv1結果>甘酸っぱい味がする。栄養価が高いと言われている。


 リンゴ売りのおばちゃんに一応確認する。


「おばちゃん、ラファエルの葉っぱとかグリーンベリーの実って取ってもいいのかな?」

「ああ、丸裸にしないなら、多少はいいんじゃない? ベリーはよく子供が食べてるよ。ラファエルもたまに取ってく人がいるけど何に使うんだろうね?」

「ちょっと有用そうで。あはは、なんでしょうね」


 適当にごまかしておく。

 木に近づいて、体で手元を隠しつつ目立たないように収穫して三十枚ぐらいしっけいする。

 泥棒のような気がしないでもないが、多分大丈夫だろう。

 グリーンベリーの実も五十粒ぐらい確保しておく。

 新規や露店の人たちには気づかれずに済んだようだ。


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