「じゃあ冒険者ギルドに行こうか」
一斉に冒険者ギルドに殺到した人たちがフィールドにあふれるようになったので、石拾いとスライム狩りはいったん保留にした。
ハズキは黙ってついてくる。
美少女なので、かなり目立つと思う。
周りの視線がこちら、俺の右隣りを向いているのが分かる。
大通りを通って広場を通過して、冒険者ギルドに入った。
若干並んだがまずは登録だろう。
ということで美人受付嬢に登録作業をしてもらった。
冒険者ランクはF。
登録すぐで最初のクエストを受ける。
薬草採取、10個。すでに確保していたのでその場で完了させる。
経験値が50exp。ギルドポイントが1pt。報酬500E。
次はスライム討伐、スライム核の納品が10個。
これも経験値50exp。ギルドポイント1pt。報酬500E。
チャララーン。レベルアップの効果音が鳴り、レベル4になった。
本来なら、混んでいる中を登録とクエスト受付だけ済ませて、狩りに行き、戻ってきてまた並んでクエスト完了をしないといけないのが一度で済んだ。
登録記念品として、露店ゴザをもらった。
「なるほど、効率がいいんですね」
「そういうことだね」
声を潜めてハズキが俺に言う。
「お、またスライムが売れましたよ」
「ほいほい。次登録してくるわ」
冒険者ギルド内にあるバザール掲示板で四匹目のスライムの登録をした。
お値段は前と同じ2,200pt。
匿名なので買ってない人は売れていないと思うかもしれない。
「おい、掲示板みたか。なんでもスライムをテイムできるらしいぜ」
「ああ、連れている人がいたよな」
「アイテム化されているらしい実質ペットでバザールで購入したからテイム方法は分からんとか」
「俺もテイムしてー」
「スライム可愛いものな」
「あ、バザール確認したら、出品されてるわ。買ったわ。二千円で」
そういうなりその人がスライムを召喚する。
「名前は『グレープゼリー』ちゃんだな」
「なんだそれ、どっから出した。スライムだ」
「スライムだ。テイムしたのか?」
冒険者ギルド内は出現したスライムと購入者の周りが騒がしくなっていた。
「いや俺はバザールで買っただけだよ」
「買ったってお前」
バザール掲示板の周りには、取引所を確認する人でいっぱいになる。
それに混ざってハズキが次のスライムを出品した。
「おい、まじだ。スライムが買えるぞ」
「リアルマネーか。エスタじゃないから買えるが、しかしむむむ」
「キャー。私買っちゃった」
「「おおーーー」」
女性冒険者が買った宣言をして、スライムを召喚する。
「可愛い。はいお手」
スライムは女性の右手に触手をチョコンと伸ばしてお手をする。
なかなかに芸達者だ。
「なんだそれ、超ほしー。どうやってテイムすんだよ、ちくしょうめ」
「そのうちテイム方法くらい公開されるだろ」
「やだやだ。いますぐほしーもん」
俺も残りを全部登録して、同じ値段だがこの騒ぎならすぐに売れるだろう。
実際、登録するとすぐに売れていった。
「おし、じゃあ俺たちはゴミ売ってからフィールドへ戻ろうか」
「はい。でもその前にお腹すきません? たぶんリアルじゃなくてゲーム内で」
「そうだな」
ギルドの買いとりカウンターで、スライムのドロップを売り払い3,000Eぐらいを手に入れた。
帰りの広場を通るときに、ウサギの肉串を二人とも購入して食べながらフィールドへ向かった。
石ころも併せて全部売れれば、12,345ptになる。
一日で一万円稼いだと思えばなかなかいい滑り出しだとは思う。
確認して見ると、薬草の登録数はすでに多く、クエストに必要な10個で110ptとなかなかに強気な値段が残っていた。
「フィールド行くって言ったけど、先にスキル買いに行こうぜ。とりあえず見ておいたほうがいい」
場所はウサギ肉串屋のおっちゃんに聞いた。
スキル屋は大通りの途中にあった。
スキルか。キャラクター作成のときに数時間かけて悩むという行為をするよりは、ゲーム内で後で決めることができるというのはいいシステムではあると思う。
ただスキルを買うのにはお金がかかる。
初期スキルなら普通はスキルポイントなどをもらって割り振るから、ただで悩まなければ簡単に選ぶだけでいい。
スキル数に上限は特にないようだ。マニュアルによれば入れ替え制ではなく、オン、オフの切り替え制で、覚えたスキルは何個でもオンにすることができる。
ただし、スキルは使わない限りレベルが上がらないので、大量に持っていても器用貧乏になってしまう。
それよりは特定のスキルを成長させて進化させたほうが使い勝手がいいらしい。
また特定の行動、イベントを行うことで手に入るスキルもあるようだ。
スキルは削除もできる。
スキルスクロールは、購入はできるが一度覚えたものをスクロールに戻すことはできない。
スキルスクロールの販売、譲渡は可能らしい。
とりあえず情報は命なので、鑑定を問答無用で買うことにする。
マニュアルも読みまくってある。掲示板はまだ混乱しているだろうからパス。見たほうがいいんだが、いかんせん時間ドロボウなところがある。気の早い人がすでにマニュアルを元に非公式Wikiを作って準備を進めているがまだ内容は皆無だった。
外部を見るより実物を自分の目で見たほうがいい。
実際に見ないと判断しにくいことが多い。
とりあえず、鑑定スキルスクロールが1,000Eだった。
短剣術は100Eと破格で購入する。
そもそも短剣使いになるべきか分からないけど、スキル上限はないので後で捨てても大丈夫だ。
初期武器だけあって短剣使いが多くなるのは目に見えている。
今武器とスキルに投資して他のプレイスタイルになるのは若干ギャンブル感がある。
当たればでかいが外れたら元も子もない。
「ハズキはどうする?」
「私も鑑定は買いかな、あとはうーん、回復術?」
たぶんヒールだろう。お値段500E。
「ほしければ買えば? 500Eならすぐに元は取れるし、なにぶん情報がまだ皆無だから」
「そうですよね。ポーションとどっちがいいか分からないんですよね」
「ゲームバランス考えれば、両方ともそこそこ使えるぐらいだと思うよ」
「なるほど。さすがにヒールが死にスキルとかないですよね」
「ないと思うたぶん」
「よし、買います」
「武器はどうする? 長物がおすすめなんだけど」
「どうしてですか?」
「クリックゲームじゃないからね。リーチが長い方が有利でしょ。リアルなら」
「そうですね。あーそうですね。確かに」
相手のほうがしっぽとか触手とか、長い武器で攻撃してきたら短剣では心もとない。
懐に飛び込んで、攻撃しないといけない。
防御ごり押しまたは、高速移動で回避だけどそっちはプレイヤースキルが多分に必要となる。
VRゲーはどうしても、アクション要素を排除しにくい。魔法という回避方法もあるが、かなりのところ未知数だった。
「武器はまた考えよう。とりあえずヒールだけでも」
「そうですね」
とりあえず購入した。
「スキル屋のおばさん、あの回復術の、ヒールはどうやって使ったらいいですか?」
「それは【ヒール】と唱えればいいんだよ。若干タイムラグがあるよ。強い魔法ほど、発動までに時間が必要なんだ。コントロールや対象はイメージでするんだ」
「イメージですか」
「そうだよ」
なるほど。VRの神秘、イメージ操作だった。
発動には発音も必要なので、石化とかしていると無理なんだと思う。