俺はそのまま、面倒くさいという理由で、リアルのアバター準拠で、髪の毛を青に変更。瞳は灰色に変更して、あとはそのままにした。
見た目はチビガリだが、仮想世界だからパラメーター次第では隠れ筋肉とかもできるはずだ。
まぁ趣味的には筋肉マッチョマンにはしたくないので、他の方針でいく。
チビが不利かというと、実は隠れやすいし、隠密行動とかとるならそのほうがいい。適材適所というやつだ。
キャラメイク完了。
普通のゲームだとSTR、INT、DEFとかのパラメーターの設定があるのだろうけど、このゲームにはないらしい。
初期武器、初期防具、初期スキル、種族の設定、とかすべてなくて、ヒューマンのままだった。
「アバターはこれでよろしいですか? では変更がなければこれで終わりです。あとはゲーム内でスキル習得や剣技などを覚えてください。時間までしばらくお待ちください」
部屋の中には、椅子と机、そしてベッドがあってゆっくりできる仕様になっている。
ここは待機ルームというやつで、ゲーム内ではない。
三倍加速を利用して、宿題をしたりできる便利な部屋だった。
とりあえず、ガイドブックを読んで時間をつぶす。
「ログイン時間になりました。では転送してもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「では、いってらっしゃいませ」
視界が黒く染まり真っ暗になった。
次に暗闇が晴れてきて転送された先は、表示されているマップ名によれば【首都トライセン】。場所は噴水広場だった。
周りにも同じ簡素な服を着た冒険者風の人たちが何人もいた。
一般的なMMOでは、アイコンが表示されるがこのゲームでは表示されないので、名前は分からないようだ。
所持品は1,000Eエスタ、初心者ポーションx10。
装備は初心者の短剣、初心者の服、初心者の靴。
中には女性プレイヤーもいて結構可愛い。そしてミニスカートにブーツだった。
もちろんいきなり声をかけたりはしない。
あ、目があっちゃった。
近づいてくる。どうしよう。文句つけられたら困る。「なにこっち見てるのよ」とか言われたらどうしよう。
ちなみに緑の黒髪、さらさらロングヘアー。幼顔で、二重で目が大きい。
小さめの俺よりさらに一回り小さい。ミニマムボディ。しかしおっぱいは大きい。
「ちょっと、いいですか?」
「は、はいぃいいい。なんですか」
ぼそぼそと返事をする俺。
「あなたもプレイヤーですよね?」
「はい。そうですね」
そういうとぱっと笑顔になる。
今までは少し不安そうな顔つきだった。
「このあと、あの、どうしたらいいんでしょう? ガイドとかもないですし」
「ああ、冒険者ギルドとかいけばいいんじゃないかな。俺は外にいくけど」
「あ、ギルドですか。でもあなたは外に行くんですよね?」
「どうせ、登録するにも混んでるし、外で薬草とってこいスライム倒してこいとか言われるんなら、最初から外へ行ったほうがいいと思ってね」
「なるほど」
値踏みするように、二重の大きな目が細められて、俺へ視線を注いでいる。
「あなた、平日の昼間だけど、暇なの?」
「な。俺はニートさ。これからゲームで儲けてやるからニートは卒業するけど」
「私はハズキ。ニート、ではないけど、まぁ似たようなものね。一緒に行っていい?」
「嫌だ」
途端に、悲しそうにするハズキさん。
「あ、ああ、いや反射的に。別にいいよ。プレイヤー同士仲良くしよう」
今度はまた嬉しそうに、笑顔で。
可愛いな、こんちくしょう。
「ええ、それで何て呼べばいいのかしら」
「俺はウルベウス・ニューウェスト。ウルでいいよ」
「分かったわウルさん」
外はどっちだろうな。
道が分からん。
ここは広い空き地がある噴水広場だけど、道の先までは見通せない。
マップは自分を中心にしたレーダーマップというやつで、人がたくさんいるのは分かるが、どういう道になってるかは分からない仕様らしい。
広場の隅を見ると露店の食べ物屋があった。
リンゴがワゴンに積まれている。
「あの店で聞いてみよう」
彼女、ハズキは黙って後ろをついてくる。
すぐに右隣りに移動してきて、周りをきょろきょろしている。
「おばちゃん、リンゴ一つください。いくら?」
「一つ50エスタだよ。はい。まいど」
「それで、町の外に行きたいんだけど、モンスターが出ないか弱い方角はどっちかな?」
「お客さんたち渡来人だろ。外の世界から来たって言う」
「ええ、そうです」
「ほほん。モンスターがいないのは西方向、ほらあっちの道、まあーすっぐいったら門があるからそこから外に出るといいよ」
「なるほど。ありがとうおばちゃん」
おばちゃんに礼を言って道を進む。
すでに俺にとって一番大切な存在である、公式RMT機能、バザールはガイドブックで確認済みだ。
広場の隅にある、バザール用アクセス掲示板で、実際の中身を見る。
商品はまだほとんどなかった。
ここはNPCは介入せず、プレイヤー同士だけの取引所になる。
初心者の短剣を早速うっぱらおうという強者がいて、55ptで販売されていた。
バザールは手数料10%が取られる。55ptということは50ptが売り上げで5ptが手数料になる。
この中央広場は復活地点で、門の前などにも同じバザールにアクセスできるはずだ。
バザールの通貨単位はpt、ポイントで、ゲーム内通貨はE、エスタの二本立てになっている。
1ptは1円で、換金時にさらに10%の手数料が取られる。
ポイントの購入時は額面の金額+消費税で金額分のptを買える。
運営はこの手数料で運営していくつもりらしい。
俺はリンゴを短剣で二つに切り、うまくいった。
「はいリンゴ。半分あげる」
「あ、ありがとう」
笑顔が相変わらず決まっている。ハズキさん。
「美味しいね。ゲームなのに不思議」
「おう」
二人でリンゴをかじりながら、まだそれほど人のいない道を門の方へ向かって進んでいく。
直線の道なので、かなり向こうのほうに門があるのが見える。
他の人たちは、反対方向のギルドのほうへ行ったようだ。
他人と同じことをしていては、出し抜けない。
違うことをしてこそ、一歩リードまたは我が道を行ってオンリーワンの商売繁盛ってもんだろう。
ハズキさん横顔も整っていて、ゲームだから補正があるとはいえ、元の顔もいいんだろう。
肌はこちらもゲームだからとはいえすべすべの白い肌がまぶしい。
そんな風にチラチラ盗み見をしつつ、門までたどり着いた。
門のところには衛兵が何人もいて、槍や剣と盾を装備している。
軽く頭を下げて外へ出る。
門を出ると、城壁がずっと続いているのが見えて、そして反対側にはただの平原が広がっている。
背の低い草が一面に生えていて、なかには採取可能そうなやつもそれなりにあった。
一番乗りではないが、人はまだ少ないようだ。
ギルドで何かもらえたりするかもしれないし、スキルとか装備してこなかったけど大丈夫だろうか。
まあ、なるようになるだろう。
採取は採取ポイントが光って取れるというゲームもあるにはあるが、ここではほぼすべてのオブジェクトが取得可能だ。
もちろん他人のアイテムを盗むと泥棒になる。
門の外は、領主の持ち物だが、そこにあるものは自由に取っていいらしい。