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2. ハズキ


 俺はそのまま、面倒くさいという理由で、リアルのアバター準拠で、髪の毛を青に変更。瞳は灰色に変更して、あとはそのままにした。

 見た目はチビガリだが、仮想世界だからパラメーター次第では隠れ筋肉とかもできるはずだ。

 まぁ趣味的には筋肉マッチョマンにはしたくないので、他の方針でいく。

 チビが不利かというと、実は隠れやすいし、隠密行動とかとるならそのほうがいい。適材適所というやつだ。


 キャラメイク完了。


 普通のゲームだとSTR、INT、DEFとかのパラメーターの設定があるのだろうけど、このゲームにはないらしい。

 初期武器、初期防具、初期スキル、種族の設定、とかすべてなくて、ヒューマンのままだった。


「アバターはこれでよろしいですか? では変更がなければこれで終わりです。あとはゲーム内でスキル習得や剣技などを覚えてください。時間までしばらくお待ちください」


 部屋の中には、椅子と机、そしてベッドがあってゆっくりできる仕様になっている。

 ここは待機ルームというやつで、ゲーム内ではない。

 三倍加速を利用して、宿題をしたりできる便利な部屋だった。

 とりあえず、ガイドブックを読んで時間をつぶす。


「ログイン時間になりました。では転送してもよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「では、いってらっしゃいませ」


 視界が黒く染まり真っ暗になった。



 次に暗闇が晴れてきて転送された先は、表示されているマップ名によれば【首都トライセン】。場所は噴水広場だった。

 周りにも同じ簡素な服を着た冒険者風の人たちが何人もいた。

 一般的なMMOでは、アイコンが表示されるがこのゲームでは表示されないので、名前は分からないようだ。


 所持品は1,000Eエスタ、初心者ポーションx10。

 装備は初心者の短剣、初心者の服、初心者の靴。


 中には女性プレイヤーもいて結構可愛い。そしてミニスカートにブーツだった。

 もちろんいきなり声をかけたりはしない。

 あ、目があっちゃった。


 近づいてくる。どうしよう。文句つけられたら困る。「なにこっち見てるのよ」とか言われたらどうしよう。

 ちなみに緑の黒髪、さらさらロングヘアー。幼顔で、二重で目が大きい。

 小さめの俺よりさらに一回り小さい。ミニマムボディ。しかしおっぱいは大きい。


「ちょっと、いいですか?」

「は、はいぃいいい。なんですか」


 ぼそぼそと返事をする俺。


「あなたもプレイヤーですよね?」

「はい。そうですね」


 そういうとぱっと笑顔になる。

 今までは少し不安そうな顔つきだった。


「このあと、あの、どうしたらいいんでしょう? ガイドとかもないですし」

「ああ、冒険者ギルドとかいけばいいんじゃないかな。俺は外にいくけど」

「あ、ギルドですか。でもあなたは外に行くんですよね?」

「どうせ、登録するにも混んでるし、外で薬草とってこいスライム倒してこいとか言われるんなら、最初から外へ行ったほうがいいと思ってね」

「なるほど」


 値踏みするように、二重の大きな目が細められて、俺へ視線を注いでいる。


「あなた、平日の昼間だけど、暇なの?」

「な。俺はニートさ。これからゲームで儲けてやるからニートは卒業するけど」

「私はハズキ。ニート、ではないけど、まぁ似たようなものね。一緒に行っていい?」

「嫌だ」


 途端に、悲しそうにするハズキさん。


「あ、ああ、いや反射的に。別にいいよ。プレイヤー同士仲良くしよう」


 今度はまた嬉しそうに、笑顔で。

 可愛いな、こんちくしょう。


「ええ、それで何て呼べばいいのかしら」

「俺はウルベウス・ニューウェスト。ウルでいいよ」

「分かったわウルさん」


 外はどっちだろうな。

 道が分からん。


 ここは広い空き地がある噴水広場だけど、道の先までは見通せない。

 マップは自分を中心にしたレーダーマップというやつで、人がたくさんいるのは分かるが、どういう道になってるかは分からない仕様らしい。


 広場の隅を見ると露店の食べ物屋があった。

 リンゴがワゴンに積まれている。


「あの店で聞いてみよう」


 彼女、ハズキは黙って後ろをついてくる。

 すぐに右隣りに移動してきて、周りをきょろきょろしている。


「おばちゃん、リンゴ一つください。いくら?」

「一つ50エスタだよ。はい。まいど」

「それで、町の外に行きたいんだけど、モンスターが出ないか弱い方角はどっちかな?」

「お客さんたち渡来人だろ。外の世界から来たって言う」

「ええ、そうです」

「ほほん。モンスターがいないのは西方向、ほらあっちの道、まあーすっぐいったら門があるからそこから外に出るといいよ」

「なるほど。ありがとうおばちゃん」



 おばちゃんに礼を言って道を進む。

 すでに俺にとって一番大切な存在である、公式RMT機能、バザールはガイドブックで確認済みだ。


 広場の隅にある、バザール用アクセス掲示板で、実際の中身を見る。

 商品はまだほとんどなかった。

 ここはNPCは介入せず、プレイヤー同士だけの取引所になる。

 初心者の短剣を早速うっぱらおうという強者がいて、55ptで販売されていた。

 バザールは手数料10%が取られる。55ptということは50ptが売り上げで5ptが手数料になる。

 この中央広場は復活地点で、門の前などにも同じバザールにアクセスできるはずだ。


 バザールの通貨単位はpt、ポイントで、ゲーム内通貨はE、エスタの二本立てになっている。

 1ptは1円で、換金時にさらに10%の手数料が取られる。

 ポイントの購入時は額面の金額+消費税で金額分のptを買える。

 運営はこの手数料で運営していくつもりらしい。


 俺はリンゴを短剣で二つに切り、うまくいった。


「はいリンゴ。半分あげる」

「あ、ありがとう」


 笑顔が相変わらず決まっている。ハズキさん。


「美味しいね。ゲームなのに不思議」

「おう」


 二人でリンゴをかじりながら、まだそれほど人のいない道を門の方へ向かって進んでいく。

 直線の道なので、かなり向こうのほうに門があるのが見える。

 他の人たちは、反対方向のギルドのほうへ行ったようだ。


 他人と同じことをしていては、出し抜けない。

 違うことをしてこそ、一歩リードまたは我が道を行ってオンリーワンの商売繁盛ってもんだろう。


 ハズキさん横顔も整っていて、ゲームだから補正があるとはいえ、元の顔もいいんだろう。

 肌はこちらもゲームだからとはいえすべすべの白い肌がまぶしい。

 そんな風にチラチラ盗み見をしつつ、門までたどり着いた。


 門のところには衛兵が何人もいて、槍や剣と盾を装備している。

 軽く頭を下げて外へ出る。


 門を出ると、城壁がずっと続いているのが見えて、そして反対側にはただの平原が広がっている。

 背の低い草が一面に生えていて、なかには採取可能そうなやつもそれなりにあった。

 一番乗りではないが、人はまだ少ないようだ。


 ギルドで何かもらえたりするかもしれないし、スキルとか装備してこなかったけど大丈夫だろうか。

 まあ、なるようになるだろう。


 採取は採取ポイントが光って取れるというゲームもあるにはあるが、ここではほぼすべてのオブジェクトが取得可能だ。

 もちろん他人のアイテムを盗むと泥棒になる。

 門の外は、領主の持ち物だが、そこにあるものは自由に取っていいらしい。


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