俺は
なんということはない。高校卒業をしてそのまま何もせず、ニートになった。
ニート歴はまだ二年目だが、実家暮らしで不自由はなし。
友達はみんな就職なり進学していって忙しいのか、だんだんと疎遠になっていった。
いまではチャットで話をする程度の付き合いになっている。
ガリチビで体力もない俺が建設現場や警備で働けるはずもなし。
コンビニはじめ接客業も持ち前の人見知り能力でできる自信も一切ない。
ネットを徘徊して暇を持て余していたところ、とあるニュースを見つけたのだ。
今度発売になるVRMMO「ファンタジー・ワールド」には、何と言っても世界初、ファームウェアアップデートで三倍加速機能、そして表立ってはあまり宣伝していないものの最近流行り出した「公式RMT」サービスがあるのだった。
三倍加速機能は、ビジネスシーンや学業での応用も注目されて、今からハードを買うのは至難の業だ。
世界初となる五感体感型VR装置であるバーチャルギアは2年前に発売され、バーチャルアイドルによるライブ、バーチャル彼女、バーチャルチャットなど、小物系タイトルがいくつも発売されたものの、ヒットに恵まれなかった。
マニアには好評だったガンシューティング、FPSものがプチヒットしていて、高三の夏にハードとともに購入済みで遊んでいたが飽きてしまい、今は部屋の隅に置いたままにしていたのだ。
俺はマイナーだったハードをすでに持っている時点でアドバンテージがあった。
公式RMTは、昔は一部のMMOゲームなどではすでに採用されていた。しかし現金でポイントを購入することはできても、ポイントを現金化することができなかった。
このゲームでは、手数料は取られるもののポイントを現金化できる。
つまり一切の後ろめたい要素なしに、公式RMTで「稼ぐ」ことができる。
これしかない。ゲームで遊んで一攫千金。
今は六月。特に意味もないが今日は水曜日。
ファンタジー・ワールドのソフトもバーチャルギアのオンラインショップで購入済みだ。ソフトを発売日にお店に並ぶとかもない。直接買えるが第一陣の分はネット上で抽選になった。そしてその抽選に当たって、購入後、ダウンロードしてくるだけでいい。
ダウンロードといっても、ほとんどの処理はサーバー側ですべて行われるので、ひと昔前のゲームのように大量のテクスチャ、マップ、アイテムデータとかもなく、一瞬で終わるだけだったりする。
はははは。まってろファンワー。
オープンベータなるものは行われなかった。そのため、トレイラー情報などはあるが、全員が一斉スタートになる。
ベータユーザーが有利のような不公平なものはないらしい。
よく「廃課金」して「無双」「俺最強」というが、よく考えるとそれを売った側がいるはずだ。
ガチャ系では売るのは運営そのものだけども、MMOでは売るのは他のユーザーに他ならない。
だから真の最強は俺たち「売る側」だ。
まぁまだ始まってもいないので、最強もなにもないのだけど。
母親が用意した昼ごはんを食べ、ヘッドギアを装着し接続、部屋のベッドに横になる。
目はつぶっていないが前は見えない。
「リンクスタート!」
伝統ある掛け声を上げると、VR装置が接続を開始、仮想空間へ。
まずはゲーム内のホーム画面で「ファンタジー・ワールド」を選択する。
『ファンタジー・ワールドは三倍加速世界です。ご注意ください。定期的な休憩をしましょう』
「OK」
注意画面がポップアップして、それを音声入力で承諾する。
よくVR装置では連続ログイン制限があるというのが定番らしいが、このゲーム機では特に設定されていない。
ただおしっこしたくなると、ゲーム内でもおしっこしたくなり、警告が出るので、一度ログアウトしないわけにはいかない。
お腹がすく、眠くなるのも同様だった。
シンプルな英語とカタカナそして白地に黒の文字で「Fantasity World -ファンタジー・ワールド-」と書かれている。
その下に表示されているマスコットキャラクターは、ミニエルフちゃんで剣と盾を持っている。
ログイン操作は必要がない。これは国が発行した個人電子証明書を使っていて、サブで脳波認証で個人を識別している。
外国人はこの国内版では遊べないし、他人と偽ることはできない。
例外としては、緊急時に家族が操作する特別モードがあるだけらしい。
まだゲーム内にはインできない時間なので余裕がある。今できるのはキャラクリと、ムービー鑑賞と説明書の閲覧と、フレンド、SNS機能だけだ。
オープニングムービーを見る。見なくてもいいが、こういうところに攻略のヒントがあるかもしれないので、あるものは「情報」として見ておいたほうがいいだろう。
ゲームのムービーなんてどこも同じようなものと言えなくもないが、さんざん見て情報を記憶したトレイラームービーとほとんど同じだった。
これは遊びであって遊びではない。ニートは卒業だ。これからはRMTerとしてプロゲーマーみたいなもんだから、真剣にやらないと。
方針はもちろん楽しく遊んでお金を稼ごうだ。
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ワイバーン、スライム、ゴブリン、魔法使い、王女様、そんなのがいることが分かる。
よし見終わった。特に新しい情報はなかった。ただ格好いいから満足だ。ははは。
キャラクター作成に進んだ。
このゲームは単一サーバー制に今のところなっている。ので、色々選んだりすることもない。
キャラ作成空間に出ると、個人の部屋というか宿屋みたいな部屋だった。
よく「何もない空間」だったりするが、宇宙と同じで落ちそうな感じがしてけっこうあれは怖いんだ。
それは以前やったFPSで体験済みだった。
目の前には、自分の分身と、そしてエルフの女の子が一人立っていた。
「ファンタジー・ワールドへようこそ。私はガイドのトエルですよ~」
十六歳ぐらいだろうか。金髪碧眼。緑のワンピースを着ていてなかなか可愛い。
「よ、よろしく、トエル」
「まずは、お名前を決めてくださいね。重複不可、エッチなやつとか変な名前はだめですよ~」
「はい」
名前を決めるらしい。
エッチなやつって、いったい。「チンポ湖羽目太郎」とかだろうか。
名前か、なんだろうな。
「あ、忘れてました。名前と苗字、両方お願いします。もちろん本名以外を推奨していますですよ~」
「あっ、はい」
俺考えろ、ノゾムだから新幹線とかどうだ。
いやぁファンタジー世界だからそれっぽいほうがいいな。
「ウルベウス・ニューウェストとかどうだ。かっこいいし」
「名前がウルベウス、苗字がニューウェストですね。重複チェック問題ありません。あ、キャラクリエイト完了前なら変更できるので言ってくださいね」
「はい」
「性別は基本リアルの性別が適用されます。見た目はリアルを基準としてカスタマイズが可能です」