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第7話

終わりのホームルームが何事もなく終わり、アーサーと一緒に学園の門付近でカイトとケイタを待つ。

帰る道中で二人から体育のカテゴライズについて聞きたいってのもあるし、ついでに今日の飯は何かも聞きたいところだ。昼飯はバケット一本だけだったし、今も腹は減り続けている。朝はコンソメスープだったし、夜はジャガイモのガレットとかか?それともジャーマンポテトととか、カレーとか!そう考えていると自然と腹が鳴る。


「義兄さん、お腹減ったの?」

「昼飯、バケット一本だったからな。そりゃ減るだろ」

「それもそっか。今日のご飯、なんだろうね」

「カレーとか、ガレットじゃね?」

「いや、もしかするとガーリック炒めかも」

「いんや、今日はキーマカレーだ」


今日の夕飯について門の外をぼうっと見ながら話していると真横から声がして驚く。

悪戯が成功したガキみたいに笑うケイタがダブルピースをしやがってムカつくが、その後ろからカイトがケイタを軽く小突いたからその場は収めてやる。ちら、とアーサーの様子を見れば同じような反応をしてるみたいで顔がムッとしてるアーサーがそこにいた。


「ほらほら、二人が待っててくれたんだから揶揄わないの」

「ははは!いやぁ、お前らもかわいいことすんなぁ!」

「驚かせないでよ、ケイタ。ただ聞きたいことがあったから待ってただけだし…」

「てか、今日の夕飯キーマカレー?!オレ大盛りがいい!」

「はいはい。じゃあ手伝えよ、トーア」

「ったり前だろ!」

「それで、聞きたいことって?」


ホームへ歩き出しながら話しをしていく。それそうになった話題をカイトが戻してくれたおかげで本題を思い出し、カバンから体育の授業でもらった紙を取り出して四つのカテゴライズを見ながら口を開く。


「この四つのカテゴライズってなんだ?戦闘って書いてあんのが三つと、運動は一つだけど」

「あぁ、体育のヤツか!俺らは 『一般運動』 選んだからなぁ…」

「それでも初めのうちはキツイからよく考えた方がいいよ。戦闘カテゴリにいった友人は毎回ズタボロだったし」

「なんだそれ…?」

「本当に授業ですか…?」


そう驚いていれば、カイトはオレたちの頭に手を置いて笑う。

ケイタはその光景を思い出しているのか明らかにげっそりとした表情をしていて、どんな姿だったんだろうかとぞっとする。だけど、オレたちの夢に向かうためには必要だって、斜め読みしただけだけど紙に書いてあったのをオレは見逃してない。


「お前ら、確かMSモンスタースレイヤーかっけぇとか言ってたよな」

「おう!いつかMSに入るんだ!」

「なら近接戦闘か遠隔戦闘じゃないか?」

「入隊率が高いのは近接戦闘を学んでる生徒じゃなかったかな。スカウトされてる子を見たことあるよ」

「へぇ。ちなみに二人は授業内容とかって聞いたことあるの?」

「あー…なんか、相当ハードらしいぜ。近接戦闘は格闘技と柔道と合気道と、あとカンフー?とか。それと隠密行動とかの授業もあるって話だ」

「しかも、近接戦闘の中でも尖頭武器・刃物武器・打撃武器・素手って4種で別れるらしくて。今の戦闘学科の子からも授業というより訓練じゃないかって愚痴を聞かされるくらい厳しいみたいだよ」

「うへぇ……ヤバそうだな…」


話しを聞くだけでもヤバそうな雰囲気がビンビンしてるせいか今すぐに思い直したいところだが、それでもモンスタースレイヤーになりたいっていう憧れはだれにも止められない。授業の内容がどんなにキツくてもオレはモンスタースレイヤーになって、グランさんと一緒に戦えるようになるぐらいに強くなって、それでオレたちみたいなヤツや助けを読んでいるヤツを助けるんだ。


「あ、そういえばなんだけどな?お前らを襲ったってモンスターなんだけど…」

「ケイタっ!」


ふと思い出したように口を開いたケイタに被せるようにカイトが叫んだ。

カイトがケイタを突き飛ばしたかと思えば、カイトが宙に吹き飛ばされて地面に叩きつけられ血を吐く。

周囲の人々が叫びオレたちが来た方向へと逃げ出すが、オレとアーサーは倒れたカイトに駆け寄り声をかける。

薄く開けられた瞳は焦点が合わず空を見続けているのにオレの胸元を確かに掴んでケイタの安否を確認しようと掠れる声を発している。


「カ、カイト…?」


突き飛ばされたせいで尻もちをついたのか地面に座り込みながら事態を把握しようとカイトの姿をじっと見つめて思考するケイタを見て、大きな怪我がないことを確認する。アーサーはすぐにケイタの方に駆け寄って痛む場所がないか、逃げられそうか聞いているみたいだが時間はまだかかりそうだった。

そのうちにカイトは逃げれるのか確認するためにカイトの体を少しずつ丁寧に押し、怪我のひどさを確認していく。


「ットーア、俺のことはいいから三人で逃げて」

「でも、カイトの怪我酷いしっ…置いてけねぇよ!」

「トーア!」


カイトの聞いたことのないような声に肩が跳ねる。置いて逃げる、なんてできるわけないんだ。

足も腹も痛そうに顔を歪めて血反吐を吐いておいて、オレたちだけ逃げるなんてできっこないんだよ。

本当に血がつながってるわけじゃない、それでもカイトはオレたちの義兄でオレたちはカイトの義弟でなんだ。

誰か1人欠ければ、それはもう知ってる家族じゃなくなる。そんなのは嫌だ。


「トーア逃げろ!!」

「義兄さん逃げて!!」


ケイタとアーサーの悲痛にも似た叫びが聞こえた瞬間、オレの体が宙に浮いた。

カイトが首元を掴んでたけど簡単に外れて、オレはいつの間にか住宅の屋根までの高さまで浮かんでいた。

強い風に吹かれて体勢が崩れ、地面に戻ろうと藻掻いてもさらに高く風に飛ばされていく。オレを助けようと手を伸ばしたのか地面に倒れるケイタはなぜか血まみれで、すぐそばにいたはずのアーサーは近くの塀に打ち付けられたのか小さく丸まって倒れていて……


だよ。キミが生まれてきたせいだ」


耳のすぐそばで聞こえる声に静かに驚く。背からそっと抱きしめられ、ずっと耳元でささやく声にどこか聞き覚えがあって記憶の中を探す。

誰だ、コイツは。どうしてこんなことをするんだ。

血塗れの家族の姿を見せつけるように、オレの顔は掴まれてずっと視界に収めれる。


「一目ではわからないあたり、本当に気持ち悪い。キミの存在が鬱陶しくて仕方ないんだ」

「だ、誰だよ。お前!」

「キミのことが大っ嫌いなんだよ。騒々しくて、熱苦しくて、勝手に乗ってくる。そんなヤツ、嫌われて当然じゃない?」

「だから、誰だよ!オレはお前のこと知らねえって!」


どんなに藻掻いてもソイツは離れることなく、まるでオレの声が届いていないかのような素振りで話しを続けていて気味が悪い。初めて会ったような顔も知らねえヤツにここまで言われる覚えはない。


「ねぇ、轣ォ轤。今度こそ、滅んでよ」


顔を覗き込まれる。憎悪と激しい怒りで歪んだその顔は目が落ち窪み、開かれた瞼や口の中は漆黒でもはや人間ではないことは明らかだった。音を立てて吹き荒れる風は周辺を切り裂き、倒して被害を大きくしていく。顔を掴んでいた手がオレの首を掴みゆっくりと絞めていくせいで呼吸がだんだんとままならなくなっていく。

手を外そうと叩いても引っ掻いても、段々と強くなるばかりで意識はだんだんと薄れ始める。


「ジュリアス!」

「任せて」


その声が聞こえた瞬間、何か引っ張られる感覚がして首を絞めていた手の力が緩む。

ソイツの腹に向けて肘打ちをして離れれば高いところからの自由落下が始まり、迫る地面に目を瞑るが一向に衝撃は来ない。

誰かに抱きかかえられた感覚がしてそっと目を開ければグレーに白のラインが入ったジャケットが目に入り、息を飲む。


「お、昨日の坊主じゃねえか。大丈夫だったか?」

「あ、ありが…そうだ、アーサー。アーサーとケイタ義兄、カイト義兄が!」

「あっと…そっちもヤバそうだな」


そういうとオレを片手で抱えながらすぐにカイト義兄の近くまでやってくると肩に担ぎ、アーサーの元まで走りだす。

ガシャガシャと金属や布の擦れる音を鳴らしながらもオレたちを抱えているとは思えない速度で走るおっさんは倒れたアーサーの横にカイト義兄を置いて、すぐそばに倒れていたケイタ義兄も寄せるとオレを三人の前に座らせる。


「terram mando. exsúrge, et factus sum clypeus meus.」


じっと地面を見つめながら言葉を発したかと思えば地面が割れて盛り上がり、目の前に壁ができる。

今し方できた壁を軽く小突くと胡坐を掻いたおっさんは大声を出す。


「イザベル、カイン。被害者はこっちに任せとけ!」

「感謝する、シャンティ!」

「ちょっとシャンティ!なんで麗しのレディを呼び捨てにしてるのさ!」

「今はモンスターに集中しろ、カイン・ジュリアス!」

「はぁい、女王様!」


戦っているとは思えない話し声にそっと覗けば、カインと呼ばれた白銀の男は吹き荒れる風に乗ってオレを殺そうとしたソレに向かって短剣を振るっていた。風で舞い上げられた瓦礫をいなし、アイツに近づけば斬りかかって遠ければ何かを唱えている様子で時々悲鳴が聞こえ、近くの家の屋根には赤い髪を風になびかせた女が睨むようにアイツを見上げ、腰にある剣に手をかけている。

初めてみる戦闘に興奮していると、シャンティと呼ばれていたオレたちを助けてくれたおっさんがオレの肩を強く引っ張り地面に座らせてくる。


「坊主、名前は?」

「と、トーア」

「あのモンスターはモンスターだ。だが前と違うのはということだ。」

「さ、最悪…?」

「そうだ。だからお前はここを動いちゃいけねぇ」


ニヒルと笑うその口とは裏腹にシャンティさんの目はオレを射抜くように鋭く、真面目だった。

話しに出てきた最悪な変化についていくら聞いても 「話せねぇ」「いいから大人しくしてろ」 ってオレにおしえてくれねぇ。

その最悪の変化はオレが引き金で起きちまったのか、それともそうじゃねぇのかくらいは教えてもいいじゃねぇか。

だって、現に今アーサーたちはこんなにも酷い怪我をしてる。オレを殺そうとしたのはつい最近暴れたパラノーマルだって話しで、今はなぜかオレに憎悪と怒りを向けていて。どうにも飲み込めない状況に、オレはただ茫然と見ていることしかできなかった。






事態が収束したのはすっかり日も落ちた19時頃で、アーサーたちは大事をとって病院に搬送。

あの中で一番軽傷だったアーサーですら骨に罅が入ってるらしくて1日は入院が必要だって医者が言ってた。

病院に呼び出された院長は少しの間入院が決定した2人の身体について聞かされたのか、手に力が入ってプルプルと震えていたがそれでも外面良く受け答えをしていたようだった。院長に連れられて孤児院に戻ることになってもオレは何も話さず、静かに院長の車で大人しくしていた。


「トーア、夕食を持って私の部屋に来なさい」

「え」

「その時必ず私の夕食も持ってくること」


有無を言わさぬようなその声音で 「わかったね」 と言われ、オレはただ頷くことしかできなかった。

これまでずっと院長室に呼ばれることは無かったのに、どうして急に?いやでも、アーサーたちの怪我がどうしてできたのか知るためにもその場にいたオレを呼んで話しを聞くのは当たり前か。

その後に続く会話なんてなくしばらくすればホームに着き、ようやく肩の力が抜けた気がした。


「あ、トーア義兄さん!…と、院長先生。おかえりなさい」

「おう、ただいま」


ホームの玄関を抜ければルミが出迎えてくれるが、院長はまるでルミが見えていないように院長室に向かって歩いていった。

感じの悪い院長に少しだけイラつくがルミの前でイラついてるのを見られたくなくて1度深呼吸をするが、やっぱりまだイラついてる。


「そうだ、トーア義兄さん。アーサー義兄さんたちは?一緒じゃない?」

「あー……アーサーは明日には帰ってくる。カイトとケイタは、ちょっとの間帰って来れねぇ」

「え?な、なんで…?」

「ちょっと事件に巻き込まれちまって、な。怪我しちまって休んでんだ。しばらくすればまた元通りだから、な?」

「じ、事件って…しばらくって……」


オレの言葉に動揺しているのか言葉が少しだけ震えているのに気づいて、教えるのはしくったか?と少しだけ心配になる。

けれどその心配は無用だったようで1度深呼吸をしてから俺の手を取って食堂の方へと歩き出す。


「ご飯、できてるんだ。義兄さんも食べよう?」

「あー、わりぃ……今日は院長と食べねぇとなんだ。オレと院長の分をお盆に乗っけといてくれね?」

「…わかった」

「オレだいぶ砂まみれっぽいから風呂入ってくるわ」

「うん」


ルミの手を解いて風呂へ入るために準備をしてさっさと入る。

院長を待たせたらどんな嫌味を言われるかわかんねぇし、面倒なことになるのはもっと嫌だ。

風呂から上がって軽くタオルドライをした後、食堂でルミからお盆を受け取って院長室に向かう。

いつも院長室に飯を持って行ってるカイトはどんな気持ちで運んでたんだろう、なんて普段考えないようなことを考えながらゆっくりと階段を上がっていく。廊下に差し込む月明かりのお陰で歩きやすいが、それでも明かり一つついていないこの廊下が不気味で仕方がない。

院長室に辿り着いて、両手が塞がってるから足で軽く3回ノックしてから少しだけ大きな声で院長を呼ぶ。


「院長先生、夕飯持ってきました」

「トーアか。少し待っていなさい」


カタンコトンと物音が聞こえたかと思えば中から院長の焦ったような声が聞こえてくる。中で何をしてるのか気になるが両手が塞がってるせいで扉が開けられない。お盆を床に置けば開けられるだろうけど、ここら辺は掃除が行き届いてないし床も綺麗とは言えないからどうしても置きたくない。

時計がないからどれぐらいたったかはわからないけど、体感5分ぐらい壁にもたれて待っていると院長室の扉が開いて院長が出てくる。いつも通り不気味なぐらいに動かない真顔でオレをじろじろと見つめてから、オレが入りやすいように扉を押さえてくれる。


「トーア、入りなさい」

「はい」


部屋は別に暗すぎるわけでもないが明るいわけでもなかった。

スイッチ一つ押せば明かりが灯るっていうのに燭台が何台も設置されて、たくさんの蝋燭ひとつひとつに小さな灯が揺らめいてどこか不気味さを感じさせる。中央にあるテーブルとソファー以外は黒いシーツか何かをかぶせられていて何が置いてあるのかはわからないが、嫌な雰囲気は相変わらず漂っている。

部屋の中央にあるテーブルの上にお盆を乗せながら院長の様子を見るが、蝋燭の灯りによっていつも不気味なその顔がさらに不気味さを増していて6歳以下は絶対泣き出しそうな雰囲気を感じる。


「今日起きたことについて説明してくれるな、トーア」


オレの意思なんて関係ないとでもいうように高圧的に聞いてくる院長にイラつきはするが、それでもケーパビリティホームの院長として知っておかないと面倒なことになってこのホームがなくなるのは嫌だからこそ、ゆっくりと口を開いて話していく。



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