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第4話

飯は粗方食い終わって締めのデザートをルクスが頼んで、残っている飯を食っているときだった。

マスターが襖を開けて、後ろに知らないやつらを連れてきていた。


「坊。お客さんがこの座敷を使うんだが、奥を使っても大丈夫かい?」

「オレは大丈夫だ!二人はどうだ?」

「大丈夫」

「僕も大丈夫です」

「そうかい、ありがとな。じゃあお客さん方、奥の方お使いください」

「ああ、ありがとう」


そう感謝を述べる声に聞き覚えがあった。そう、つい三日前に聞いた声だ。オレたちが憧れた声だ。

オレとアーサーがその声を聞いてそっちを向いたのは同時か、それともオレが少し早かったかもしれない。

靴を丁寧に脱いで中に入ってくるのはダークブラウンの髪に白が混ざったにオールバックの、冷たい印象が強く出る鋭い目つきの聞き覚えのある声のおっさんと長いのに一本一本がチリチリした太い髪を高い所で一つにまとめてる蛇みたいな目のおっさんと、真っ白の髪を短く切りそろえてる髭が格好良いおっさんの三人だった。


「な、なあ!オレたちのこと覚えてるか?!」

「僕たち、あなたに助けられた子どもです!」


こんなところで会えたことがすっげえうれしくてつい声をかけてしまう。

かけてから何してんだとハッとしたオレたちは焦って謝ろうとすると、優しく頭に手を置かれる。


「緋色の少年と、白緑の少年。元気そうで何よりだ」

「あ?グラン、このガキンチョと知り合いか?」

「少し前にパトロール中に事件が発生したと言っただろう。この子たちは被害者だよ」

「あぁ~、そんなことも言ってたっけか?」

「シャンティ、それぐらいは覚えてろよ。仕事だろ」

「あーあー、おっさんに言われると耳が腐る~」

「お前もすぐに年取るぞ!」

「現実を押し付けんな!」


グランって呼ばれたオレたちを助けてくれたその人は騒ぎながら奥に歩いていく二人のおっさんを見ながら苦笑を浮かべて、オレたちに軽く謝ってくる。もう少し話したかったけどおっさんたちに呼ばれてグランさんはオレたちの頭を一度ポンと叩いて奥の座敷の方に向かって行った。

その様子を見ていたルクスはびっくりした様子でオレたちを見ていた。


「お前ら、グラン隊長と知り合いなのか?!」

「助けてもらったんだよ。てか、あのってなんだよ」

「そうだよ、あの人に失礼だ」

「いやいや。グラン・ジョーカー、モンスタースレイヤーの総括だぞ?そんな偉い人に助けてもらったって何があったんだよ!」

「いや……ちょっとモンスターに襲われて、助けてもらったんだよ」

「あの時は死ぬかと思ったけどね」

「すっげえ…ってか、モンスターに襲われるってヤバイじゃん!」


まったく周りを見てなかったからどんな奴だったとかは言えないが、それでも助けてもらった時の衝撃はまだ昨日のことのように思い出せる。花みたいな匂いと一緒にキャロルって女の人にオレとアーサーは空中から助けてもらって、さっきのグランさんはオレたちを空中に浮かしたモンスターを捕まえてくれた。あんときは名前までは聞けなかったし、今も聞けなかったけど近くのヤツが言ってたのが名前なのは分かったから次合うときは名前をちゃんと呼べる。


「坊、甘味だ」


いつの間にか居たマスターはオレたちが注文したデザートをテーブルにおいて、空になった皿を手早く片付けて厨房の方に持っていく。ルクスが事件のことを話せと言っていることすら頭から抜けてつい、マスターを観察してしまう。

大皿や何枚もの皿を一括に持っていけるその筋力や体を支える足腰には驚くが、どちらかと言えばそんな足腰や筋力はどうやって身に着けたのかが気になるところだ。


「義兄さん、見すぎ」

「あ?そうか」

「マスターのこと気になるのか?」

「いや、そういうわけじゃない」

「???」


オレとアーサーの会話に入って自分の疑問をぶつけるも、何もわかりませんってわかりやすく顔に書いたアホ面のルクスにアーサーが簡単に説明をする。


「ルクスさん、気にしないで大丈夫ですよ。どうせ義兄さんのことですから、どうやってあの筋力をつけたんだろう、とかそんなことですよ」

「へ~!」

「お前なんでわかるんだよ」

「長年一緒だからね。わかるよ」


ニコッと悪意のない笑顔を向けられてしまえば、流石のオレもこれ以上は言及できない。けど、長いこと一緒だとしても考えていることまでわかるか?普通。確かに一緒にいるようになってからだいぶ経つけど、オレはアーサーの考えてることはわからないしわかろうなんて思ったことない。むしろこういうのを知ろうとするって、ちょっと怖いヤツな気がする。


「まぁ、とにかくコレ食おうぜ」

「そうだな!」


ついさっきやってきたデザートは桃がたっぷり使われたスイーツだった。甘い桃の香りと優しい甘さが美味くておかわりしたいぐらいだが、凍ってる桃が少し入ってるせいで大量には食えない。器も小さいせいかオレたちはあっという間にスイーツを食いきって、近くに置いていた荷物を持って座敷から出てルクスが会計をする。金額については見るのも怖かったし見てない。

会計が終わると店から出るとちょうど目の前に来た乗ってきた車が止まる。黒服がまた扉を開けてオレたちを車の中に入れるとルクスの指示で車を動かす。


「お前らの家ってどこなんだ?」

「ケーパビリティホーム。真っ白な壁と蒼い屋根の孤児院だよ」

「あぁ!あの綺麗なとこだろ?知ってるぜ」

「…まあ、見せかけは綺麗ですね」

「見せかけ?」

「外面だけはいいんだよ。中は掃除してるけど、オレたちが寝てるとことかはあんま綺麗じゃない」

「そうなのか?!うちの従者、5人くらい連れてくか?」

「大丈夫です。そんなの来たらみんな驚いちゃいますから」

「そうか……」


ありがたくも面倒なルクスの申し出をアーサーがすっぱりと断る。最近はめったに院長室からでなくなったけど、それでも部外者が勝手に入って来たってなったらそりゃもうカンカンになって飯を食うための金が減っちまう。それだけは避けたいのはオレもアーサーも同じだ。

最近、2コ下のガキどもはすぐ腹減ったっていうから金がなきゃそれすら叶えてやれなくなる。そんな変に暗い空気にするわけにもいかないとでも思ったのかアーサーが別の話題に切り替える。


「そういえば、明日からは通常授業ですね。どういったものをするんでしょう」

「トーアとアーサーは学校に行ってなかったんだよな?」

「おう」

「じゃあそこから合わせてく感じになるかもな!文字の読み書きとか文章の作り方とか……あと計算の仕方とかか?」

「じゃあホームで小さいころからやってることと変わりはなさそうですね」

「そうなのか?」

「そうだな。昔、義兄貴アニキが院長に頼み込んで絵本を買ってもらったって絵本をくれてさ、それでみんな文字の読み方とかモンスターについても知ったよな」

「懐かしいね。もう9年とか10年も前じゃない?」

「だな」


カイトが院長に呼び出されることが多くなった時期に「院長に買ってもらったんだ。みんなで読もう」なんて笑って持ってきたあの日が懐かしい。そういえばあの頃はよく半袖を着てたのに最近はずっと長袖だな?今度理由でも聞いてみるのもいいのかもしれないな。

そのまま昔のオレたちの話をしていればいつの間にかケーパビリティホーム近くまで来てて、とっさに車を止めてもらう。院長室から正門は丸見えで、いつ院長が見ているかわかんないから十分に注意しなきゃいけないんだ。


「ごめんルクス。オレたちここで大丈夫だ」

「え?でもまだ少しあるぞ?」

「こっちも複雑な事情がありまして、すみませんルクスさん」

「そうか……わかった。じゃあまた明日な!」


車から出ればルクスはそう笑って手を振ってくるからそれに軽く返す。

すれば車の扉が自動で閉まって綺麗にUターンをして遠くに走り去っていく。

さっきまでのいつもよりもにぎやかだった時間が終わったんだと感じるほどに静かで虫の音がうるさい道をアーサーと一緒に歩いていく。疲れることなんて何もなかったはずなのに体は疲れていて、でも嫌な疲れ方じゃなくて満足感であふれている。


「なあ、アーサー」

「どうしたの、トーア」

「オレたち、二人で。絶対にホームを出ような」

「うん。それと、お金をうんと稼いでみんなをおっきくて……綺麗な家に招待しよう」

「みんなで住むための、イイヤツを選ばなくちゃな!そのためにも、MSモンスタースレイヤー目指して頑張るぞ!」

「……勉強、大丈夫?じっとするの苦手じゃなかったっけ」

「……あ、アーサーこそ、運動とか大丈夫かよ。動くの得意じゃないだろ」


互いに互いの心配をしながら歩いていく。相手アーサーの苦手な事、相手オレの得意な事、オレたちが苦手で得意な事を言い合っていると、つい笑いがこみあげてくる。まだ小さいころ、アーサーがホームにきた頃に教えてもらった 『信頼し合えば、いろんな苦手や得意が見える』 って言葉にまんま当てはまる。アーサーはどう思ってるか知らないけど、オレと喋ってるときは取り繕わずに喋ってるって感じがする話し方になるのは信頼してるってオレは信じてる。


「トーア?」

「なんでもねえよ。ホームにさっさと帰んねえとガキどもにまた引っ付かれるぞ」

「ふふ、トーアって引っ付かれるの苦手だよね」

「オレより体温低いやつばっかだし、冷たいもの触るとぞわってするんだよ……」

「トーア、子ども体温だもんね」

「アーサーは低すぎなんだよ。なんだよ35度ってひっきい」

「ソレを言うなら平均が37度5分のトーアは高すぎなんだよ」


そうやって言い合っていればホームの門が見えてくる。門前にはケイタが腕を組んで待っていて、オレたちに気づくと軽く笑いながら大きく手を振るからそれに返すように大きく手を振って走ってケイタのもとまで行く。


「よーし、トーアとアーサー」

「ケイタ、ただいま!」

「ただいま、ケイタ」

「おう、おかえり。んで今何時だ?」

「え?」

「あ…」


アーサーと一度顔を合わせて唾を飲み込む。

そっとホームの外観に飾られた大きな時計を見ればもうすぐ16時で、学園を出た時間が13時だったのを考えるともう3時間は経っていて。

そしてオレたちはケイタとカイトに何一つ報告していなかったことを思い出す。


「じゅーろくじ…」

「そうだな?時計が読めて偉いなぁ、トーア」

「ご、ごめんなさい、ケイタ義兄さん……」

「おう、何についてだ?アーサー」


あからさまな怒っている雰囲気につい体が縮こまる。

このままだとホームに入る前にココでケイタ義兄の説教が始まって、入るころにはもう17時は過ぎて寒くて体が凍えちまう。

どうしようもない現状にそっとアーサーの方に目をやれば、アーサーの居る方角から手提げを持った子どもが二人こっちに向かってあるいている姿を見つける。楽しそうに笑ってるのと静かに頷いてるのを見る限りうちのガキどもだ。


「あー!にーにだ!」

「義兄さんたち、おかえり。ご飯買ってきたから作るの手伝ってよ。サム、そろそろ疲れて座り込んじゃうし」

「サム、ルミ。ただいま」

「サム、ルミのいうことちゃんと聞いた?」

「きぃたよ!えらい?」

「偉い偉い。偉い子は抱っこしてやる」

「やった~!にーに好き!」


ケイタが特に弱いまだまだ小さいガキどもが来たのを利用して説教から逃れるためにかまってやる。普段オレが積極的にかまわねえもんだから驚いたように目をまんまるく開いたかと思えば嬉しそうに笑う。


「ちょ、お前らな!まだ話はっ!」

「ケイタ義兄さん、このままだとトーア義兄さん凍えちゃうよ。それに、ご飯の後でも大丈夫でしょ」

「それは、」

「にーに、ぷんぷん?」

「うっ……ぷんぷんしてないぞ、サム。美味しいご飯作ってやるからな…?」

「うん!」


サムのウルッとした瞳には流石のケイタ義兄もなすすべはないのかいとも簡単に折れた。

嬉しそうに笑うサムには誰にも勝てないのか、みんなでホームの中に入っていく。アーサーの腕の中でご機嫌に歌うサムと行き場のない怒りを抱えるケイタ義兄とオレたちのそばを歩くルミというなんとも愉快な光景になったが、それでも説教から逃れられたのはルミたちのおかげだ。


「ねえ、トーア義兄さん、アーサー義兄さん。学園どうだった?」

「まだなんもしてねえよ。説明だけ」

「面白い先生方ばっかりだったよ。ルミは学園に通うの楽しみ?」

「もちろん。だってカイト義兄さんもケイタ義兄さんも行ってるし、学園に行けばお昼も会えるし」

「授業のことじゃないのかよ」

「にーにたちいないとねー?ねーね、さみしそーだよー?」

「ルミは昔から変わらないね。グゥシィとかもいるでしょ?」

「でも義兄さんたちがいるともっと楽しいし……」


不貞腐れるように俯くルミはアーサーが拗ねたときみたいでちょっと面白い。頭に手を置いて、顔が上がったときにニイッと笑ってやればルミは控えめに笑う。先頭を歩いていたケイタ義兄がホームの扉を開ければほかのガキどもも待っていたのか大勢が出迎えてくる。小さくても数が多すぎて声が大きく感じる 「おかえり」 に胸が熱くなった。


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