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PCI-愚煉小隊録
ハツカ・ボイオルクト
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年09月10日
公開日
63,834文字
連載中
AI・ロボット技術が発達し完全に情報社会となった世界で常軌を逸した存在が確認された。
「彼ら」 は超常現象・超自然的現象を巻き起こし、現代技術では到底理解ができない技術知識を持つ。

──そんな 「彼ら」 を世界は「パラノーマル(Paranormal)」と呼んだ。

世界各国の要人たちはパラノーマルの持つ技術を取り込もうと様々な行動をし、とあるパラノーマルの不興を買い、争いを生んだ。
幾年経ち世界が崩壊を始めた頃、国家非公認の軍事組織であるPCI(Paranormal case investigation)が介入したことにより次第に争いは終息へと向かい、やがて人間とパラノーマルたちは共存することが可能となった。

だが人間との共存を望まぬパラノーマルたちが超常現象・超自然的現象を巻き起こし、人々を恐怖の渦へ突き落す。
そんなパラノーマルの対処のため、PCIは人々に害するパラノーマルを「モンスター」と称しMS(Monster Slayer)という組織を作り人々の安寧を護った。

XXXX年、ケーパビリティホーム(Capability home)と呼ばれる孤児院で生活を送っている子どもたちの中には、特異な子どもがふたり仲睦まじく過ごしている。
ひとりやや黄色みのある鮮やかな赤色の短い髪に漆黒の瞳を持つ少年、ひとりは爽やかな白緑色の長い髪に薄浅葱の瞳を持つ少年。
まるで本物の兄弟のように仲が良く、思い描く将来も同じものとなるのだった。

プロローグ - 第1話

ある日突然に平穏な日常は崩れ去った。

地面が隆起しては生物のように蠢き、高粘度の黒々とした液体が人や動物の肉体を貫いては取り込み、木々や建物までも風は空へ巻き上げ切り裂いては地に落とし、海は鉄塔ほどの高さを持つ津波とともに奇妙な生命体が姿を見せ、轟々と燃え盛る煌めきが波に落ちれば水蒸気による爆発が起こった。


もはや災害でしかないそれらに対処ができず畏怖と絶望にまみれた人類は 「人類と友好な関係を築きたい」 という人ならざるモノのその言葉を、言葉のままに受け取ることしかできなかった。


けれど時も経てば、そんな畏怖は大勢の記憶の中から葬り去られてしまう。


人々は人ならざるモノを、超常現象を起こす存在 「パラノーマル」 と呼称し共に暮らしを営んできた。国の要人が何度か挿げ替わり、さらなる欲を抱いた各国は各地に散らばり生きる 「パラノーマル」 たちを利用しようとあの手この手と手段を変えては接触し、時には手荒な手段すらも使って 「パラノーマル」 を手に入れようとしていた。

しかし、それに怒った一体の 「パラノーマル」 は同士を募り 「人間はやはり浅ましく愚かな種族だ。」 と声を上げ、ひと月も経たぬうちに 「パラノーマル」 と国の争いが起こったのだ。

 「パラノーマル」 と国の合間に起きた戦火はやがて人類全体に及び、「パラノーマル」 と人類の戦争にまで発展することとなった。また国の要人が挿げ替わり、怒りに身を任せた 「パラノーマル」と長年の戦で疲労した人類の戦況は著しくなく、わずかに 「パラノーマル」 が有利とはいえ戦線は拮抗していた__



「そんなときに、パラノーマル・ケース・インヴェスティゲーションがやってきて、パラノーマルと人が仲良くできるようにお話したのよ」


 小さく息を吐く白緑色の長い髪の少年と少し呆れたような表情の緋色の短い髪をあちこちにはねさせた少年は少女の持つ絵本を横から覗き込み、少女の声に耳を傾けていた。この子どもたちがいる場所はどこか埃っぽく、電気をつけていないためか薄暗い。


「なぁ、これ何回目だよ。もうオレらそんな年じゃねえって」

「何言ってるの。私の可愛い弟たちには、必要なお話なのよ」

義姉ねえさん……僕ら、もう10歳を過ぎているんですから、絵本なんて……」


そう長い髪の少年がゆるゆると頭を振り呆れたようにため息を吐く。その様子を見て微笑を浮かべる少女から短髪の少年は絵本をさっと奪い、ぱらぱらと中を流し見る。


「おい、トーア、アーサー。今日お前らが買い出しじゃなかったか」

「あっ、やべえ。アーサー、いそいで買いに行くぞ」

「ちょっとトーア。まってよ」


 ぼさぼさの黒髪を一つにまとめた少年に声をかけられた二人の少年は急いで仕度を始める。少年たちの暮らすそこはケーパビリティホームと呼ばれる孤児院で、表向きは清潔で子どもたちが何不自由なく暮らせる場所だと言っているが、子どもたちに問えば満場一致で嘘だと答えるだろう。

ケーパビリティホームでは料理・洗濯・掃除すべてを子どもたちがすることとなっており、孤児院に住まう者すべての食事を当番制で回している。食材費はもちろん院長が出しているがそれでもギリギリ足りるかどうかの瀬戸際のため、子どもたちはどんなに幼くとも節約する術を持っている。

 手提げ袋を片手に二人は今日のご飯はなんだろう、と話しながら楽し気に付近の直売店へ歩いていく。直売店へ着けば商品を手にとり、机の上に置かれた貯金箱にお金を入れる。荷物を詰めればまた道なりに歩き始める。アーサーが持っていた野菜の入った手提げ袋をトーアは奪うように取り、肩にかける。


「え、どうして」

「オレより力ないんだから、遠くまで行くのに邪魔だろ」

「そうだけど……いつもそうじゃん。たまには僕も持つよ」

「途中でへばるだろ。帰るの遅くなったら怒られるんだぞ」


 反論ができないのかアーサーは頬を膨らませしぶしぶといった様子でついてくる様子にトーアはクスクスと笑いだし、アーサーもつられて笑う。ごく平凡な、なんてことのない日常を謳歌するように。少年たちは道端に咲く花を見て、優雅に舞う蝶を見て、青い空を見て眩い笑顔を見せる。

少年たちにとっては遠い場所であろうスーパーへたどり着けばカートに籠を乗せ、鮮度重視・安さ重視で商品を手に取っている。手提げ袋に入っていたメモ用紙をしっかり見ながら二人であれはどうだろう、これはどうだろうと相談しているその様子はまるで主婦の様だ。

店員と顔なじみなのか挨拶を交わし今日は何のセールをやっているかを聞くなど、いたって普通の世間話を繰り広げる。食材を籠に入れ終わればレジまで持っていき、レーンへ籠を置き会計を済ませる。手提げ袋に次々と入れ早く帰ろうかと声を掛け合って帰路へ着く。

帰り道ということもあるのか二人の歩くペースは行きよりも速く、お腹空いたね、なんて言葉を交わしていた。 


ふと、ふわりと風が吹く。風になびいた髪を邪魔そうにあしらいながらアーサーはトーアの手を繋いだが、突風に吹かれ二人の足は地面からあっという間に離れていき宙へ飛んでいた。びゅうびゅうと吹き荒れる中、あたりのゴミも巻き上げているのか頬に何かが掠り一筋の傷を作る。

急な突風、子どもが宙に浮いているという状況に周りの人は悲鳴を上げる。

しかしその中で晴れているというのに黄色の傘を差す男性とも女性ともとれるような人物は高笑いをして浮き上がる子どもたちを見ていた。


「アッハハハハ!さあ、惑え、叫べ、恐怖に堕ちよ。人間共!」


ぐらり、と走行中の車なども宙に浮き始めさらに悲鳴は大きくなる。

初めに宙へ浮かされたトーアとアーサーは持っていた荷物を手離しぎゅっと互いの体を抱きしめ、恐怖から目を背けるために目を閉じ浮遊感に堪えていた。隣から鼻をすする音が聞こえれば 「大丈夫だ」 と言い聞かせ、冷たい水が頬に当たれば 「大丈夫だよ」 と言い聞かせ、何かが近くを飛来したときは体を縮こまらせて耐える。


そんな時だった。

大きく乾いた音が鳴った後、何かが傘を貫き地面に弾き飛ばされる。


ゆっくりと振り返ろうとするソレの懐に気づかぬうちに居た黒にグレーのラインが入ったジャケットに、PCIのロゴが刺繍された藤色のバンダナを腰に据えた男は刀を首に当て、芯まで冷えてしまいそうな冷たい視線でソレを見ていた。


「Stier Regenwind《スティア レーゲンウィンド》、国際法違反だ。拘束する」


「何を」 とスティアの口から零れ出たと同時にガシャンと両足を黒のボルトのような拘束具で拘束される。しかし彼女が拘束から逃れようと暴れ出せば再び突風が吹き荒れる。

未だ宙に浮かされていた子どもたちはさらに強い突風に悲鳴を上げ、刀を持った男は小さく舌打ちをする。そのまま小さく何かを呟いたかと思えばその刀をスティアの肩へ突き刺し、周囲に堪えがたい高音の絶叫が響き渡る。逃げまどっていた人々の中には気絶してしまう者や腰を抜かす者が続出し、悲鳴や泣き声、怒号がそこらに溢れかえる。

刺された痛みからかすべてを巻き込むような突風は乱れ、辻のように吹き荒れる。トーアはアーサーを護るようにぎゅっと力いっぱい抱きしめ、小さく助けを呼んだがそれはごうごうと吹き荒れる風の中では意味をなさず、誰もが逃げ惑う。

そんな中、ふわりと優しい花の香りが二人を包み風の中から救い出した。

艶のあるブロンドをなびかせながら華麗に着地し優しく「もう大丈夫。助けに来たからね」と笑いかけると、安堵したのか二人はとうとう泣き出してしまった。


「キャロル、子どもたちは」

「かすり傷が少々。でも、ほかに傷はないみたいですよ、リーダー」

「そうか」


あっという間にスティアの全身を拘束したリーダーと呼ばれた男は未だ泣きじゃくる少年二人の頭を撫でながら 「無事でよかった」 と笑いかける。ひとしきり泣いたあと、一番に立ち直ったトーアはしっかりとアーサーの手を握りしめながらリーダーとキャロルに 「ありがとう」 と感謝を述べ、続くようにアーサーも少々小さくはあったが感謝を告げた。

そんな二人を微笑ましそうに見てから、スティアを運ぶ三人へ「帰還する」と勇ましい声で告げてその場を去って行く。その勇ましくその場を去る様子にキラキラと瞳を輝かせトーアはアーサーを見る。


「なあ、かっこよかったな!」

「うん……優しくて、いい人だった」

「かっけぇ……オレもああなりてえ!」

「うん。僕も、あんな人になりたい」


顔を見合わせ笑い合い、今日あった話をするために二人は孤児院まで駆けていく。走り出してすぐに手提げ袋を忘れていたことを思い出し急いで慌てて拾いに行き、日が傾き始め暗くなり始めた帰路につく。

肩で呼吸をしながらケーパビリティホームの扉を開け、奥にある生活区域に入ってキッチンに向かう。中にはちょうど手を洗い終えたのか手拭いで手を拭いている黒い髪を括った少年がおり、まだ呼吸が乱れている様子の二人に笑いかける。


「よう、おかえり。だいぶ髪がぼさぼさだけど、どうしたよ」

「聞いてくれよ、ケイタ。オレたち、MSの人たちに会ったんだよ!」

「助けてもらったんだ!」


興奮した様子で話す二人に仰け反るが、どうどうと二人を落ち着かせケイタは買い物中に何があったのかを聞き出そうとキッチンの端に置かれた丸椅子を人数分取り出す。

興奮しながらも何があったか話す二人に比べ、話を聞いているケイタはだんだんと険しい表情を作っていく。


「な!すごいだろ?!」

「……あのなぁ」

「モンスタースレイヤーの人たち、すっごいかっこよかったよ!」

「『かっこよかった』 とか 『すごかった』 とかはどうでもいいんだよ。お前らなにヤバいのに巻き込まれてんだよ!怪我無いのか、無いよな!助けてもらったんだもんな!」


頭を抱えながら叫ぶその様子に驚いたアーサーは体を縮こまらせ、トーアはケイタのその言葉に目線を逸らしてどこかバツが悪そうにしているがケイタの情動は収まらないのかトーアの肩を掴み前後に振りながら怒っているのか嘆いているのかわからないような声色でまくしたて始める。


「お前、特にトーアだよ。お前よくわかんねえ体質なくせになんでそんな事件に巻き込まれんだよ。前も変なのに巻き込まれかけたし、ふざけんなよ。どれだけ俺ら年上組が心配してると思ってんだ。グゥシィもお前が変なことに巻き込まれかけたって聞いたときヤバかったんだからな!それとアーサー。お前もお前だよ。なんでそんなに冷静でいるんだよこの野郎。お前大人びてるせいでトーアとはまた別のベクトルで心配なんだよ、モンスターの事件なら仕方ないかもしれないけどッ……」

「ケイタ」


声を聞きつけたのかはたまた時間を見てなのか、長い白髪を揺らしながらキッチンの扉を開けそこに少女が立っていた。少女はトーアとアーサーを視界に入れ嬉しそうに表情を綻ばせるとパタパタと近づいてケイタを引き剝がし二人を抱きしめた。


「わっと、グゥシィ。ただいま」

「グゥシィ、ただいま」

「おかえり、トーア、アーサー。ケイタ、ご飯作らないの」

「おわっ、もうその時間か!」


慌てて立ち上がり、トーアとアーサーが買ってきた食材を取り出しては使う食材と使わない食材と分けてしまっていく。戸棚からまな板や包丁を取り出し、ぎゅうと抱きしめられている二人に用意を手伝うように声をかけながら野菜を洗い始める。

声をかけられた当の本人たちはグゥシィの腕の中から抜け出し腕をまくって洗剤を使ってよく洗い、洗われたニンジンやジャガイモなどの根野菜の皮を器用に包丁で剥き一口サイズに切っていく。大鍋に根野菜を入れ、かぶる程度に水をそそぎゆっくりと火にかけながら隣に水を入れた鍋を置いて塩を一つまみ入れたのちに強火で沸騰するのを待つ。

その間にブロッコリーを食べやすい大きさに切り揃え、戸棚からIHコンロを取り出しフライパンを火にかけ、みじん切りにしたニンニクをオリーブオイルで軽く炒めてから一口大の鶏腿肉をざっくりと焼き始める。沸騰した水にブロッコリーを入れ、大鍋にワンカップの水を追加しスプーン一杯のコンソメの元を入れてニンニクとオリーブオイルを入れないように軽く油をきってから鍋に入れていく。

コトコトと中火で大鍋を煮詰めながら、深緑から鮮やかな緑色に変わったブロッコリーをザルに移し流水で冷ましていく。大鍋が軽く沸騰し始めた頃合いに牛乳をカップ二杯分そそぎ弱火で煮ながら塩コショウを軽く振り、市販のシチュールーをぽとぽとと入れてかき混ぜていく。

その間に白米を炊いたりとキッチンに立つ三人は大忙しで準備を進める。


ふんわりとキッチンからシチューの良い匂いが立ち込めた頃合いに、5~6歳ほどの少年少女が四人ほど扉の隙間からキッチンの中をまじまじと見ている。


「ケイタ。ケーシーたちが見てるよ」

「ん?おぉ。どうしたお前ら、ペコペコか?」

「にぃちゃん、きょうごはんシチュー?」

「あたしのごはんにブロッコリーはいれないで、ケイタにぃ」

「なんでトーアにぃたちもいるのー?」

「買い物から帰ってきてそのままケイタの手伝いしてたんだよ」

「トーアにいさんえらい」

「ルタお前相変わらず生意気だな?そんなやつには……ガーリックトーストを食わせてやる!」

「やったー!トーアにいさんふとっぱら~!」


ワイワイと騒がしくなったキッチンが気になったのか覗きにくる子どもたちはだんだんと増えていき、それを見たアーサーはくすりと笑みをこぼす。パンパンと手を叩き、子どもたちの後方から背の高い他の子どもたちに比べ黒い肌をした長袖の少年が口を開く。


「ほら、そろそろ夕食の時間だ。みんなで力を合わせて仕度をしよう」


柔らかな口調で発せられたその言葉はその場の子どもたちの耳にすんなりと届き、きゃいきゃいと話しながらバケットや白米を運んだり食器を出しカトラリーを持って行ったりと支度がちゃくちゃくと進んでいく。


「カイト、ありがとな」

「いやいや。院長に夕食を持って行ってくるから、先に食べていてくれ」

「カイト、また院長のとこかよ」

「そうは言ってもね、トーア。院長もご飯を食べなければ悲しくなってしまうよ」

「……別に、院長が悲しくたって僕らに関係ないよ」

「アーサー。ここで暮らせているのは院長がいるからだよ。賢いからわかるだろ?」


拗ねたように顔を背けたアーサーの頭をわしゃわしゃと撫で、ケイタがついだシチューとロールパンが三個入ったバケットをトレイに乗せて廊下の奥へと消えていく。まるで嫌なものを見たというように苦い顔をしたトーアの頭を軽く叩き、ケイタはシチューが入った大鍋を持つ。何かを言うでもなしにケイタはそのままキッチンから出て食堂に歩いていくのを見て、アーサーはトーアの手を握りついていく。


食堂にある長机に置かれた鍋敷きの上にケイタが大鍋を置くと待っていた子どもたちは次々に自分の皿を持って一列に並んでいく。その様子と蓋を開けられたことにより食堂に広がったシチューのいい匂いに空腹感が擽られ、くうと鳴った腹にキョトンと二人は顔を見合わせたのちに噴き出す。そうして自分の席の前に置かれた皿を持ち、列の最後尾に急ぎ足で並ぶ。

一つ以外の席が埋まり、皆で手を組み食事の祈りを捧げ食事が始まる。ちらほら大鍋からおかわりをつぎ始める子どもが出始めた頃、トーアとアーサーのもとにケイタがやってくる。何かを持っているのか両手は背に隠されていた。


「お前ら、明後日から学校だろ?」

「うん。そうだよ」

「それがなんだってんだよ、ケイタ」


そういぶかし気に答えるトーアにケイタはニッと笑いかけ、後ろに隠していた物を見せびらかすように前へ突き出すと周りの子どもたちも少し声を大きくして二人を祝う。ケイタが二人へ見せたのは新品の肩掛けカバンのようで中には教科書やノート、筆記具も入っており二人は目を輝かせて大事そうにそれを受け取る。


「なあ、これって!」

「お前らのカバンだ。学校に行くなら必要になるだろ?」

「で、でも。これ新品じゃ……」

「そんな気にするな。にいちゃんがやるっていってんだ、素直に受け取っておけって」


ケイタがよしよしとアーサーの頭を撫でれば、少々不服そうな顔をしていたがすぐに破顔する。大好きな家族からのサプライズで二人はありがとうと心底嬉しそうに笑い、食事中だというのに教科書をぺらぺらとめくっては筆記具をまじまじと見つめている。ケイタも「わからないことがあれば教えてやるからな」と新しい生活に胸を躍らせている二人を微笑ましく笑っていた。

カチャリと食堂の扉が開き、本を二冊抱えたカイトが入ってくる。食事をする子どもたちに味を聞きながらトーアたちのもとへとやってくるとトーアには赤いブックカバーがついた、アーサーには緑のブックカバーがついた本を手渡す。疑問を隠さず顔に出す二人にカイトは柔らかく笑いかける。


「少し早いけど、入学おめでとう。俺は先にホームを出ることになるから、こうしたプレゼントは最後になる。受け取って」

「カイト……」

「これ、もしかして専門書?」

「アーサー、だいぶ前にパラノーマルが使う力に興味あるって言ってたろ?カイトが贈る物に困ってたから教えたんだよ」

「お、オレのこれ、図鑑じゃね?!」

「図鑑と言っても武器について詳しく書いてある専門書だよ。トーアは昔からそういうものが好きだったでしょ」

「「ありがと、カイト!」」


ぱあっと顔を明るくさせた二人は貰った本を抱きしめながら元気よく感謝を述べる。

微笑を浮かべ本を抱きしめる二人を見ながらケイタに耳打ちをするとゆっくりと来た道を戻り、他の子どもたちに声をかけながら食堂を出ていく。それを見送るとケイタはさっさと食ってさっさと寝ろよ、と言って使った皿を集めキッチンに運びに食堂から出ていく。

笑みが零れて仕方がない様子の二人は少しだけ冷めたシチューを食べ、食堂に残っている子どもたちを先導して風呂へと向かっていった。


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