白兎の式神が、突然話しかけてきた。
『ご主人様がやることを終えたので、帰ります。さようなら!』
「あ、ちょ……」
挨拶する間もなく、式神は消え去った。入れ替わる様にイキス様がやって来た。
「お久しぶりですね、どうですか。使いこなせました? この剣」
「いえ、全く……」
イキス様はそうでしょうね、と言うと剣を抱えた。
「これはカシ……ああ、この名前は言うなって言われているんでした。イカヅチ様の為の剣ですから。扱えなくて当たり前です。では」
イキス様はそう言い残すと、窓から出て行った。皆には見えていない様だが、船の姿になって。
良かった。解決したんだ、これで春妃も少しは報われるかな。墓参りにでも行こうか。そうだ、そうしよう。そうしないと、何となく前に進めない気がする。
***
春妃の墓には、ジュースが供えられていた。僕も生前春妃が好きだったジュースを供える。
「春妃、惣だよ。遅れてごめんね、全部解決したから。安心して成仏してね」
『ああ、何だいるのバレてたんだ』
「一応霊感持ちだからね」
薄く透けているが、そこに確かに春妃はいる。足の辺りがぼやけているけれど。
『そうだったね。ジュース、ありがとう。桜子は一足先に逝っちゃったから、本当は私もそうすべきなのはわかってる。でも、最後に一つだけ』
春妃はこちらに向き直り、『目、瞑って』と言われたので瞑る。何をされたかはわかるけど、幽体からだったからか実感がない。でも、好きな人にキスされたという事実で心に花畑が咲き誇った。
『じゃあ、私は逝くね。また、数十年後に』
春妃の姿は、景色と同化してなくなっていった。これ以上ここに長居しても仕方ない。僕は墓地を出た。