目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
1

 白兎の式神が、突然話しかけてきた。

『ご主人様がやることを終えたので、帰ります。さようなら!』

「あ、ちょ……」

 挨拶する間もなく、式神は消え去った。入れ替わる様にイキス様がやって来た。

「お久しぶりですね、どうですか。使いこなせました? この剣」

「いえ、全く……」

 イキス様はそうでしょうね、と言うと剣を抱えた。

「これはカシ……ああ、この名前は言うなって言われているんでした。イカヅチ様の為の剣ですから。扱えなくて当たり前です。では」

 イキス様はそう言い残すと、窓から出て行った。皆には見えていない様だが、船の姿になって。

 良かった。解決したんだ、これで春妃も少しは報われるかな。墓参りにでも行こうか。そうだ、そうしよう。そうしないと、何となく前に進めない気がする。


***


 春妃の墓には、ジュースが供えられていた。僕も生前春妃が好きだったジュースを供える。

「春妃、惣だよ。遅れてごめんね、全部解決したから。安心して成仏してね」

『ああ、何だいるのバレてたんだ』

「一応霊感持ちだからね」

 薄く透けているが、そこに確かに春妃はいる。足の辺りがぼやけているけれど。

『そうだったね。ジュース、ありがとう。桜子は一足先に逝っちゃったから、本当は私もそうすべきなのはわかってる。でも、最後に一つだけ』

 春妃はこちらに向き直り、『目、瞑って』と言われたので瞑る。何をされたかはわかるけど、幽体からだったからか実感がない。でも、好きな人にキスされたという事実で心に花畑が咲き誇った。

『じゃあ、私は逝くね。また、数十年後に』

 春妃の姿は、景色と同化してなくなっていった。これ以上ここに長居しても仕方ない。僕は墓地を出た。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?