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 結果から言えば、出雲はお見事なくらい罠に引っかかった。やはり、根にあるものは昔から変わらずだったらしい。

「……これは、白兎。貴方の仕業?」

 詩龍の尾に絡めとられた出雲は問う。

「そうだよ、全て僕が仕組んだことだ。出雲、もう現世に復讐なんてやめようよ。現世は君の思い通りには、ならないんだから」

その途端、爆発音がした。見ると、詩龍の尾が焼け焦げている。自由になった出雲は、まず僕の方へ向かってきた。その気迫に後ずさると、南雲が間に立ってくれた。

「まあまあ、出雲。ゆっくり話でもしようぜ。今のお前は人質をとられているんだ、あまり派手な行動を起こす様なら……人質ごと抹殺するぞ」

 南雲の瞳は、下等生物を見る様なものだった。いや確かに、龍からすれば人間なんて簡単に命を落とす愚かな生物なのかもしれない。僕は神だけど、出雲との時間が長かったせいかあまりそういった感情や考えを持ったことはない。それにしても、南雲は人好きだと思っていたのに意外だ。

「そうだよ、出雲さん。僕は話でしか君を知らないけれど、暴れるのは得策じゃない。ねえ、お宮さんもそう思うよね?」

 お宮さんは返事をしなかった。南雲が連れてきたこの伊波という男は、執拗に自分の腕から生やした刀に語りかけている。本人たちの間にしかわからない何かが、きっとあるのだろう。そしてきっとそれに、僕らは踏み込んではいけない。

「出雲、詰みなんだよ。だから、もう終わりにしよう。わかるよね、これがあの時の再現だってこと」

「——さい、うるさい! 私にはまだ協力者が居るのよ!」

 出雲は空を指さす。すると、空から石の雨が降り始めた。勿論出雲とて無事ではいられないだろうが、これは僕らにも効く。頭上に石を受けながら、攻撃を解析する。出雲にこんな芸当は出来なかったはずで——

「これで満足か、巫女」

「ええ、ありがとう」

 忘れていた。忘れてはいけないことを。黄土色の髪の、星神。その瞳には夜空を宿したように、キラキラと星が舞っている様に見える。

「……ふっ、面白い。上等じゃねえか。出雲、ここでお前を殺せれば皆平和に過ごせるんだよ。悪いけど、死んでもらう」

 南雲は刀を取り出し、出雲に斬りかかる。俊敏性に欠ける出雲は攻撃を避けきれず、彼女の左腕が犠牲になった。南雲の剣裁きは、見ていて爽快だった。人間の形態であることが、龍には相当な負担であるはずだ。南雲は相当努力したのだろう。

「……痛いじゃない」

 出雲の左腕があった部分からは、鮮血が溢れ出ている。このまま放っておけば、失血死しそうなものだが——それは龍たちが許さないだろう。

「極力痛くしねーようにしたつもりだったんだがな。悪い悪い。で、次にお前は何をする? そこの兎に治療でも頼むのか?」

「そうだ、白兎、白兎は本当は味方よね? この傷、治してくれるのよね?」

 出雲の視線は僕に固定されている。だが、ここで治療なんてする訳がない。

「出雲、本当に終わりにしよう。僕には治療以外のことは出来ないから、南雲にとどめをさして貰おう」

「……嘘、嘘よね白兎! 貴方、私が居なかったらどう生きていくの⁉ ねえはく」

 そこから先の声は聞き取れなかった。何故なら、南雲が出雲の首を撥ねたからだ。首から血が噴出しており、噴水の様になっている。身体は倒れ込み、もう動かない。

「……終わったんだね」

「まだだと思うなあ。だって、今回の死体はどうするの?」

 伊波は僕に耳打ちしてきた。

「使う予定がないなら、お宮さんの餌に欲しいんだけど」

 確かに使う予定はないが、伊波に制御できるのだろうか。いささか不安なので、南雲に訊いてみることにした。

「出雲の死体、お宮さん? の餌にしたいらしいんだ。大丈夫だと思う?」

「お宮さんは悪食だからな。どうせ河奈と二人で分けるんだろうし、良いんじゃねーの。おい、伊波。使っていいぞ、この死体」

 そういえば、と白蛇と星神のいた方角を見る。星神は既に帰ったらしく、そこには居なかった。白蛇は急に弱腰に、『殺したりされないよな……?』と縮こまっている。

「……どうしような?」

南雲は困ったように頭を搔いた。


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