詩龍のもとに戻ると、『待ちかねたぞ』と声をかけられた。詩龍の答えも決まったみたいだ。
『力を貸してくれるってことで、いいんだよね?』
『構わない。元々、他の龍の動向を窺っていただけだ。答えは最初から決まっていた』
何とも人が……いや、龍が悪い。疲れがどっと押し寄せる。表情にもそれが出たのか、『少し休んでから残りの話をするか。残りの龍をこちらに呼び寄せよう』と気を利かせてくれた。やっぱり根は悪くないのかもしれない。大人しく詩龍に寄りかかると、眠気が襲ってきた。秋晴れの空って、良いなぁ……。
「おい、助けを求めてきた張本人が寝てるぞ」
随分と長い間寝てしまったみたいだ。僕の目の前には南雲の姿があった。普段と変わらず、人の姿のままで。翠龍は本来の姿に戻っており、水色の綺麗な鱗が特徴的である。
『では、皆揃ったので出雲への対策を考えたいと思う。時に兎神、お前は確か大昔は出雲と仲が良かったな。弱点など知らぬか』
詩龍は僕に意見を求めた。他の龍も、僕を見る。
『出雲の弱点、か……』
言われてみれば、ないはずが無いのだ。彼女とてこの世に存在する怪異なのだから。
『一度味方だと認めたら、徹底的に守ってくれるとか。ああ見えても彼女は情に熱い部分があると思う』
「味方じゃない俺たちにも有益な情報はねーのか?」
怒られた。しかし、一度対峙したけど強さは全くと言って良いほど変わっていない。
『藤原家がやったように、囮を使うとか。僕は見たんだ、白蛇神が出雲と行動を共にしているところを。蛇神を囮に使えれば、出雲の力を十割出せなくする条件を突きつけるとか出来るかも』
『なるほど、白蛇神とはまた懐かしい名前だね。良い案だと思う。ただ、そのためには白蛇神を捕まえて来なければいけないけど……。ここは気配を消すのが上手い僕が行こう。出雲がどこにいるかさえ分かれば、出来ると思う。蛇は龍の下位互換のようなものだから、力負けはしないと思うし』
翠龍は、そう言うと一度人間の姿をとった。
「……で、出雲一行は何処にいるの?」
『この近くには居ないみたい、気配を感じない。そういえば星男が『いずれ出雲の方から俺に会いに来るだろう』みたいなこと言ってたな……』
惣と交渉しに行って、唯一不発だった星男。その元に出雲が向かっているのなら、方角は絞れる。
「本当? じゃあ、ここから東北東に行く感じだね。あと、悪いけど兎神にはついて来てもらうよ。出雲を探知する役割は、君にしか託せない。勿論全力で守るからさ」
『待って、僕が出雲を探知できるように向こうも僕を探知できるかもしれないんだ。それが任務遂行の、妨げになるかも……』
龍とはいえ、出雲相手に戦ったらタダでは済まないだろう。無益を背負う必要はない。
「じゃあ、仕方ないけど僕が単独で行くよ。蛇を捕まえたら戻ってくるね」
翠龍はまた龍の姿に戻り、飛び去っていった。残された僕らは、ただ待つことしか出来ない。