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 惣と別れて、誰を連れてこようか考える。そういえば東国には、龍の伝説がいくつかあった様な。それが今の何県だったかまでは思い出せないが、東に行けばいずれ巡り合うだろう。この世の物でないものは、それ同士で惹かれ合う性質にある。封印されていない僕は、自由にこの島国を移動できる。信仰が及んでいない海外は無理だけれど、結構重宝している能力だ。信仰が途切れない限り、消滅することもないし。それが僕と出雲の大きな違いの一つだろう。そんなことを考えながら、僕は跳んだ。元々が兎だから、跳ぶ力には自信がある。一跳びで、県を跨ぐ移動ができるのは本当に楽だ。

 僕はS県の山の中に降り立つ。記憶が確かなら、ここには三対の龍の一匹が住んでいたはずだ。

『無礼を承知で、ここまで来てみたけど……おやすみの時間かな』

 三龍のうち、最も夜が早いのがこの龍だ。名前は人間によって、詩龍と名付けられたと聞いている。

『何かと思えば兎神か。最後に会ったのはいつだったか……思い出せん。今まで何をしていた? 随分と人間臭い』

 詩龍は、人間のことを嫌っている訳ではない。むしろ、龍使いの人間と契約を交わしていた過去もあるくらい、好きなのだろう。人間が。

『うんまあ、少し過去と決着をつけるためにね。出雲って覚えてる? 大昔の巫女のことなんだけど』

『それがどうした。彼女のことを、忘れる方が不可能だろう。彼女は生きている時から、負の力が強かった』

 太古から生きている神々、その他人外の中で出雲を知らない者がいるなら会ってみたい。それくらい、有名人なのだ。良くも悪くも。

『……その出雲が蘇った、って言ったら?』

『本当か?』

 詩龍の声の調子が変わった。

『本当だよ。もう何人も犠牲になってる』

 僕は話した。惣のこと、恐らく全滅であろう藤原家のことを。被害がこれだけなはずがないが、確認がとれていない以上話すのはやめておいた。

『ふむ……藤原家がそんなことに……つまり、お前は我々の力を借りて出雲を封印したいのだな』

『うん、その通りだよ。僕は兎だから、もっと強大なものに頼るしかないんだ』

 話が早くて助かる。詩龍からしても、出雲の復活は喜ばしい事態ではないみたいだ。

『良いだろう、と言いたいが我の力も全盛期に比べて衰えている。他の二龍が良しというのなら、我も力を貸そう。貸して負けたら、こちらが殺されるからな』

 今すぐにでも残りの二龍の元へ向かいたい。しかし、今日はもう夜だ。

『今日はここで休んでいくと良い。この山そのものが、我の領地故。お前の神力も回復するだろう。お前の領地からここまでは、疲れただろうからな』

『流石に疲れるよ。人間の形も何回かとったしね。じゃあ、今日はここで休ませて貰うよ』


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