雨は不快だ。しかも、大雨ときている。私が一番嫌いな気象かもしれない。私の故郷も雨が多かった。あの地は今、どうなっているのだろう。白兎を迎えに行った時足を伸ばして行けばよかった。白兎は居なかったけれど。白兎自身の意思で居なくなったとするのなら、お仕置きする必要がありそうだ。
「ねえ、出雲」
雨を反射して、翡翠姫が立っていた。彼女が祀られている場所からは多少距離があるのだが、どうしてここにという疑問の前に彼女は話し続ける。
「やっぱり、あなたのしていることは良くないと思うわ。やめない?」
「やめない。私がやめない性分だっていうのは、よくわかっているはずなのにどうしてそんなことを言うのかしら」
逆らってくるのなら、翡翠姫と言えど処理しなければいけない。
「残念だわ、痛めつける以外に止める手段がないというのは」
翡翠姫は、歌い始めた。決して大きな声ではなく、雨にかき消されそうなほどの声量で。しかし、それが攻撃であることはわかっている。彼女は肉弾戦が出来ない代わりに歌で相手を攻撃できるのだ。私が神の力を借りているのと同じ様に。
頭が痛くなってきた。割れるように痛い。その場に蹲ると、彼女の口ずさむ旋律が変わった。
「終わりよ、出雲。今度という今度は、封印じゃなくて滅してあげる」
身体が焼けるように熱い。内臓から何かがこみ上げてくる。吐き出すと、それは大量の血だった。まだ身体が今の状態に馴染みきっていない、人間の部分があるのを翡翠姫は見抜いていたのだろう。恨めしい。こちらも、神力で反撃しなければ。指先に力をこめ、彼女に照準をあわせる。翡翠姫は、全身が翡翠なのだから粉砕しようと思えば出来るはずだ。その姿を思い描き、彼女に神力を注ぎ込む。
「出雲、なんということを……!」
ヒビが入った瞬間、翡翠姫の身体はバラバラになった。もう、元に戻ることはないだろう。一箇所ならまだしも全身が粉々だ。今話せているのも、神力の一部に過ぎない。
「こちらも痛手を負ったもの。これくらい、されても文句は言えないわ」
私と蛇神は、壊れた翡翠姫を背に再び歩き出した。白兎の居るであろう方角へ。探知は出来ている。あとは、会うだけだ。