神社に着くと、地元のプロサッカーチームの応援幕が飾ってあった。地域との結びつきは、相当強いらしい。中に入ると、広大な敷地に圧倒された。もう参拝客はほぼ居なかったが、念のため人を避け「イカヅチ様……いらっしゃいますか」と呼んでみる。
「あぁ、俺がそうだが……何の用だ」
僕の真正面に、光が溢れて大男の姿が形成されていく。髪は乱雑に伸ばされ、瞳は綺麗な橙色をしている。コキヌサマに比べると、随分と男性的な顔の造りだ。顔の一つ一つのパーツの主張が激しい。
「見つめても何も出ないぞ」
気がつけば、僕は見入ってしまっていたらしい。慌てて視線を逸らすと、イカヅチ様はふ、と口元を緩めた。
「巫女を、出雲をご存知ですか」
その名を出すと、イカヅチ様の一気に目つきが鋭くなった。
「勿論、知ってはいるが……。彼女がどうかしたのか。彼女は封印されたのではなかったのか」
「落ち着いてください」
僕は、出雲騒動の概要を説明した。友達が殺されたこと、出雲は復活していること。コキヌサマから加護を受けたことも。一通り話し終えると、イカヅチ様は一言。
「……厄介なことになったな」
それから、こちらを見据え
「青年、お前は何を俺に望む? 悪いが俺は封印されていて、旅に同行することは出来ない。そうだ、イキス。あれを持ってこい」
イカヅチ様が指を鳴らすと、コキヌサマの顔面とイカヅチ様の髪色を持った中性的な神様? が現れた。
「こちらでございますね。しかし、良いのですか? 渡してしまっても」
手元には、剣。こんなもの、僕に扱える訳がない。辞退しよう。
「これは、大昔の戦いで俺が使った剣だ。とはいえ、模造品だがな。本物は今でいうN県に保管されている。ただ、模造品でもあいつのお守りやら加護やらがあれば十分力を発揮するはずだ。持っていくといい。もし返せない状況に陥っても、イキスが回収に行くからそこは気にするな」
強引に手渡されると、やはりずしりと重い。これを持って歩くのは、骨が折れそうだ。
「ところで、イキス様って何者なんですか?」
いきなり現れたことを考えると、やはり人間ではないのだろう。
「僕は、……様をこの地に運んだ船です。神といえば神ですが、まぁ式神に近いですかね」
名前のところがよく聞き取れなかったが、恐らくイカヅチ様のことを言ったのだろう。
「ありがとうございます。封印、というのはやはり星男様が?」
「それ以外に誰がいる? そうだ。忌々しい……もうどれくらいの時間が経ったのかもわからん」
イカヅチ様は、伸びをした。見ると、辺り一面真っ暗だ。時間の流れは誰にでも平等である。僕も、今夜の宿を探さないといけない。
「イカヅチ様、ありがとうございました。僕はこれで失礼します」
一礼し、神社を出る。この辺りは街灯も少なく、駅に辿り着く頃には闇一色になっていた。