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 翌日。旅の疲れからか比較的よく眠ることが出来た。

『おはよう。ところで、君の名前を聞いていなかったね。なんて名前?』

「新井惣。これが、僕の名前だよ」

『良い名前だね』

 ホテルから出て、どうしようか考える。もっと沢山の怪異を味方につけておいた方が良いのは、明白だ。白兎は神とはいえ、巫女と戦えばただでは済まないだろう。

 とりあえず買っておいた朝食のサンドイッチを食べながら、白兎から話を聞くことにする。

「ねえ……他に仲間になってくれそうな存在って居ないかな」

「どうだろう。ここは、多分君が戦うことになる巫女の出身地から近いからね。この近辺は諦めて、別の場所に行った方が良いかもしれない。例えば、巫女が唯一敗北した東の武神とか。今も生きているのかはわからないけれど」

 いつの間にか人間の姿に戻っていた白兎が、駅の列車を見ながら言う。

「東の武神?」

「日本神話の時代にまで遡るけど、そういう神様がいらっしゃったんだ。国譲り神話って知ってるかい? あの時、巫女を崇めていた民から国を奪った……言い方悪いけれど、そうなるかな……神様だよ。僕は、その二柱にお会いしに行く価値はあると思う。仲間になってくだされば、それほど心強いこともないとも思うよ」

 僕が思っていたより、ずっと壮大な話で頭が追いつかない。ただ、何となくわかるのは長時間ここに居てもやることはないということだけだ。

「わかった、行こう。ところで何処に鎮座されてるの?」

「ええと……今の単位に直すと……C県とI県だね」

 ここからだと、大分遠い。夜行バスで行くのが一番早いだろうか。スマホで検索しても、そのルートが一番に表示される。僕は夜行バスの予約を済ませると、残金を確認した。当初は余裕だと思っていたけれど、意外とギリギリかもしれない。溜め息をつくと、「君には苦労をかけるね。ごめん」と白兎から謝られた。別にそんな意図はなかったのだけれど。

 夜まで暇になったので、白兎から巫女の詳細を聞くことにした。

「出雲の話? 前にも言ったけど、僕の親代わりで強大な力を持つ巫女だよ。今で言うと……N県に行った時にその力の強大さ故に封印して殺されてしまったけれどね」

「どうしてN県に?」

「国を奪い返そうとしたんだよ。返り討ちに遭うとわかっていても、やらずにはいられなかったんだろうね。それが民の願いでもあったから」

 僕の思い描いていた像と大分異なっていて、混乱してきた。元々は善良な人間だったのだろうか? 全くわからない。とりあえず、巫女のことを考えるのは武神にお会いするまで控えた方が良いだろう。今考えても、話が進まない。

「これくらいでいいかな。後は個人的な話ばっかりだし」

「ああ、うん。ありがとう」

 謎は残るが、話を打ち切られてしまっては聞けない。気分を切り替えて、今日一日はもう訪れることがないであろうこの場所を観光することにした。少しだけ西側に列車で移動して、牛骨ラーメンを啜ったり東に戻って砂丘を見たり。あれこれしている間に日は沈み、予定の時刻になった。バスに乗り込むと、意外と需要があるのかほぼ満席だ。眠れるかどうか不安なまま、バスは出発した。


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