翡翠姫は、少し遅れてこちらに歩み寄ってきた。
「むごいことするの、変わってないのね」
彼女からすれば、守るべき人々が死んでいるのだから良い気分ではないだろう。
「でも、二人揃って殺したのは慈悲よ」
死んだ二人は、顔もよく似ているしきっと姉妹だ。姉妹、という単語で思い出しそうになったことがあったが、いいことではないのでまた記憶に蓋をした。
「……残念だけど、私はあなたに協力できない。ここで祀られている方が、私の性には合っているみたいだから」
「そう」
流石に、彼女と交戦したらこちらも無事ではいられないだろう。人材は、また新しく探せば良いだけだ。ここは、神とまじないの宝庫日本なのだから。
「じゃあね、少しの間だけど楽しかったわ」
「うん、また会えたらいいわね」
翡翠姫は、恐らく本心ではない言葉で私たちを見送ってくれた。さあ、次は誰を探そうか。
***
大分、現代の事情もわかるようになってきた。私の故郷から人が都市に流出していること。やっぱり、藤原氏が世間を牛耳っていた時期があること。私が封印されている間に、様々なことが変わってしまった。私そのものが、生ける都市伝説みたいになってしまったことは、不本意ながら受け入れるしかないだろう。
T県には、兎神が鎮座している。昔は大層私に懐いていたが、今ははたして。私も随分変わってしまったから、認識してくれないかもしれない。
まだ鎮座していると良いのだが。