海岸の東側には、打ち上げられているゴミ以外のモノは見つからなかった。ということは、もしかして西側?
その予感は的中し、妹が帰ってきた。片腕が何故かなくなっているが。
「桜子!? どうしたの、それ……」
見間違いかと思って、自分の頬を抓る。しかし、そんなことはなく私の妹は本当に片腕を失くしてしまったみたいだ。
「あ、はい。ちょっと……」
桜子は多くを語ろうとしない。それだけ嫌な経験だったのだろう。
「でも、ヒスイサマは見つけました」
「……どうだった?」
恐る恐る訊いてみる。
「この傷は、ヒスイサマのせいではないのです。もう一人居た、巫女のせい」
「巫女?」
「はい……」
ようやく桜子は、全てを説明し始めた。ヒスイサマと謎の巫女、逆らったら片腕がなくなったこと。
「……こっちでも、仲間を集める必要がありそうだね」
「でも、どうやって」
そう言われると手詰まりだ。私の周りには当然ながら、巫女に対抗できるような特殊能力を持った友人はいない。友達の友達、とかなら居るかもしれないが。
「桜子、後ろ!」
「え?」
桜子を振り向かせると、そこには恐らく彼女が言っていた巫女服の女性が立っていた。
「やっぱり、見られたのはこちらにも痛手だったわ。あなたたちは、今ここで葬る。ちょうど海もあるし、綺麗に死ねるはずよ」
どう抵抗すれば、彼女に勝てるのかわからない。立ち尽くしていると、
「抵抗しないのね」
まずは、桜子に狙いを定めたのか巫女はそちらを向いている。
「……」
桜子は、怯え切った表情で微動だにしない。先程植え付けられた恐怖が、そうさせているのかもしれなかった。
「うわああああああ!!」
と、思ったら巫女に突進していった。流石に想定外だったのか、それをモロに食らった巫女は倒れ込んだ。
「春妃、逃げて! 一人でも助かれば、希望があるかもしれないから」
私は、姉として失格だ。これから確実に殺される妹を見捨てて、ただ走って逃げた。
「逃がさないわよ」
もう、桜子の声は聞こえなかった。それはきっと、そういうことなのだろう。私は、自称霊感のある友人にこのことをメッセージで伝えた。それが効果を発揮するかはわからない。だが、この巫女にそれを悟られなければそれでいい。私はスマホの電源を切った。
「私は、逃げない。どんな呪いだって受け止めて見せる」
それが、桜子に対するせめてもの罪滅ぼしだ。
「そう。じゃあ、遠慮なく」
自分の首が飛んだことに気がついた頃には、意識が途切れた。