翌日、ついに犠牲者のニュースを聞いた。ただ変死したというだけなので確証はないが、俺にはオスワサマの仕業に思えた。
「物騒ね、信。気をつけるのよ」
「何に気をつけるんだよ……」
変死体のニュースで、一気に気分が悪くなった。朝食を残し、家を出る。桃華を迎えに行くと、第一声で「今朝の事件って、やっぱりオスワサマの仕業?」と訊かれた。
「わからないけど、そうじゃないかと俺は踏んでる。今日帰ったら、母さんにオスワサマが居なくなったこと伝えてみようと思う」
「うん……」
話をする気にもなれず、無言のまま学校に着いた。そのまま別れ教室に入ると、変死体の話でもちきりだった。
「S湖で発見されたらしいぞ……あ、信。おはようさん」
「おはよう、佐久間。今朝からこの話題でもちきりって感じか?」
佐久間はうっすら緑がかった黒髪に触れ、
「そうなんだよ。まぁ、こんな田舎であんな事件があったらニュースになって当たり前だけど」
と一言。確かに都会に比べ刺激に飢えている俺たちには、格好の餌だ。
「それにしても、気味が悪いよな。頭蓋骨が破壊されてるんだとよ。人間の所業とは思えねえよな」
その言葉にドキリとしてしまったが、佐久間には当然ながら俺を責める意図はなさそうだ。
「本当にな。これ以上犠牲者が出る前に逮捕されてほしいよな」
多分、俺のせいなのが確定した訳じゃない。頭蓋骨を割る猟奇的殺人犯がこの町に潜んでいる可能性もある。その可能性はかなり低いが。
「なあ佐久間、これが……本当に人間の所業じゃなかったらどう思う?」
「何だお前……信らしくねえな。人間がどうにかやったんだよ。ああでもそっか、お前の家特級呪物があるんだっけ」
「オスワサマは呪物……ああ、そんな考え方もあるか」
あまり深く考えたことはなかったが、そういった捉え方も出来る。神様を封印って、やっぱり曰く付きなんだろうし。担任が教室に入って来たので、この話は打ち切りになった。
昼。屋上で桃華と弁当を食べている時のことだった。彼女は唐突に
「……ねえ、今朝の事件。本当にオスワサマのせいだったらどうする?」
「どうしよう……」
珍しく弱気になっている自分に気がつく。食欲も湧かないし、気を抜けば涙が零れそうだ。
「大丈夫。信のせいじゃないよ。ちゃんと説明すれば、おばさんも事情分かってくれるって」
「そうかな……」
桃華はそう言うが、どうもそんな風には思えない。怒られるくらいで済めばいいのだが。
「そうそう! 凹んでるなんて信らしくないよ。ほら、これあげる」
俺の弁当箱に、卵焼きが一切れ追加される。桃華の家の卵焼きは、俺の家のものより甘い。砂糖の配合が違うのだろう。ルーツを辿れるようで、少し興味深い。
「うまいな、これ」
「でしょ? 今日の私は調子が良かったから」
桃華は、弁当を毎朝一人で作っている。好きなものを詰められるから、というのが一番の理由らしいが……親孝行娘だ。
弁当を食べ終え、屋上からS湖を望む。人が死んでいたとは思えないほど綺麗に、そこにある。
「……そうだ、S湖だ! あの周辺は探しに行かなかった!」
車でしか行けない距離にあるS湖の近辺には、居るかもしれない。オスワサマが。
「確かに、私も行ってない! おばさんに話して連れて行ってもらおう」
「だな」
昼休みが終わりを告げたので、俺たちは教室に戻った。