桃華に「オスワサマ探しは俺一人でやる。だから、桃華も帰れ」と告げると、不服そうだったが何とか承諾してくれた。武田邸に桃華を帰らせ、一度状況を整理してみることにした。
オスワサマは、俺のご先祖様が封印した蛇神。今日からは俺が管理することになっていて、鍵のかかる引き出しに入れた。しかし帰ってきたら何故かその封印が解かれていて、今こうして探している……不可解なことが起きている。封印を解いた犯人は、どうやって俺の部屋まで入ったのか。それに、引き出しの鍵は壊れていなかった。つまり、力任せに開けた訳でもない。常識的に考えれば、あり得ない状況だ。なら、常識を打ち破って考える必要がある。それこそ、オスワサマ同じく人外であるなら、先ほど考えた不可解なことにも説明がつく。
今日はもう日が暮れてきたので、捜索は明日からにしよう。家に帰ると、夕飯のいい匂いが漂ってきた。これは恐らく、味噌汁の香りだろう。食欲が刺激される香りを嗅いだことで、少し元気が戻ってきた。オスワサマもきっと見つかるという希望的観測も出来るようになった。
「おかえりなさい、何だかバタバタしてたわね」
「悪いな、ちょっと色々あって」
母親には、言えなかった。
「そう。これ運んでくれる? お父さん、今日はそろそろ帰ってくるはずだから」
「わかった」
お盆に乗った料理は、どれも家庭的で調和がとれていた。父親の座る位置と俺の定位置にお盆を置くと、「助かったわ」と声をかけられた。その時だった。扉がガチャリと開いて父親が帰ってきたのは。
「今日は全然ダメだったよ」
ゴルフの道具を携えながら、父は言う。
「良いからさっさとご飯にしましょう」
華麗なスルースキルを発揮した母親につられ、「いただきます」と挨拶をし食べ始める。ほうれん草のお浸しはよく浸っているし、味噌汁には俺の好きな野菜類が沢山入っていた。
「ところで信、オスワサマのこと大切にしてあげてね。オスワサマは一族を守る、大切な神様なんだから」
一気に体温が下がる感覚があった。それを悟られない様に「わかってる」と言うのが精いっぱいだった。本当に、どう探したものか。今日は土曜日で、明日が日曜日。俺は学生だから、動けるのは実質明日だけ。今日は早く寝て、明日に備えるか。そんなことを考えていると、あっという間に完食していた。
「ごちそうさま」
お盆をシンクに運び、食器類を洗う。これからもこんな日々が続きますように、と願わずにはいられない。
風呂を出て部屋に戻ると、またオスワサマのことで頭がいっぱいになった。夢に出ないだろうな……という疑念を払拭できないまま俺はベッドに寝ころび意識を手放した。