映画は無事に終幕を迎たので、昼ご飯を食べることにした。桃華はたこ焼き、俺は蕎麦。フードコートの店はどこも美味しそうなものを売っているが、俺たち学生には少し高い。よって、俺らの食事は簡素なものになる。桃華はそんなこと、気にしている素振りはないが。
「ねえ、信。一個食べる?」
桃華はつまようじにたこ焼きを刺し、こちらに向けてくる。これは、あれか。あーんというやつか。据え膳食わぬは男の恥、俺は口を開きたこ焼きを頬張る。まだアツアツの中身に思わず水を飲むと、桃華はケラケラ笑っていた。
「昔から変わらないな、ほんと」
「だって、面白かったんだもん」
失態を見せてしまったが、今更なので気にすることはないだろう。俺はざる蕎麦を啜った。
「ねえ、これ食べ終わったらショッピング行こうよ。ここにはあんまり来ないから」
「いいぞ」
桃華の趣味に付き合うのも、また一興だろう。
ショッピングモールの中は、人だらけだ。県の中心部にあるからだろうか。カップルも多い。
「あ、ここ見たい」
桃華が立ち止まったのは、シンプルな服が売られている服屋だった。確かに、彼女らしいと言えばらしい。店の中に入ると、ワンピースが割り引かれていた。もうこの季節でないことを実感するのは、案外服屋での配列かもしれない。そんなことを思いながら、桃華の方を見ると早速服を物色していた。
「試着も出来ますよ」
店員が桃華に声をかける。
「ええと……じゃあ、これとこれ、お願いします」
「かしこまりました」
桃華が試着室で着替えている最中、店員に話しかけられた。
「目がチャーミングな彼女さんですね」
「ああ、まぁ……」
何と返答するか迷っていると、デニムスタイルの桃華が姿を現した。
「どうかな?」
「動きやすくて良さそうだな」
しかし、Tシャツ姿だと桃華の大きな胸が強調されている様にも見える。またドキドキしてしまった。
「信がそう言うなら、買っておこうかな。すみません、これ買います!」
試着室に戻り、先ほどまでの服に着替える桃華。ワンピースだと体型がわかりづらいから、俺としてはこちらを着ていて欲しい。趣味を束縛する気はないが。
会計を終え、荷物を持ってやると「ありがとう」という言葉が返ってきた。
「満足したか?」
「うん、とっても。じゃあ、そろそろ帰ろうか。オスワサマも気になるし」
俺からしたらただの厄介物なのだが、桃華にとってはそうではない様だ。それにしても、そんなにオカルトに興味を持っていたわけではないのに何故オスワサマだけ? 謎は深まるばかりだ。駅に着くまで、そのことを悶々と考えていたせいで恋愛映画の話なんて、する気にならなかった。
最寄り駅に着くと、どっと疲れがこみ上げてきた。それを悟られない様に、
「オスワサマ、見に来るか? 今から」
「行く!」
桃華の扱いには慣れている。昔から変わらず単純だから。家に帰ると、無防備な母親が出迎えてくれた。
「あら、桃華ちゃん一緒ならそう言ってくれれば良かったのに……。お茶用意するから待っててくれる? まったくこの子はもう……」
母親が台所に消えたのを確認し、「ちょっと待っててくれ」と自分の部屋に行く。朝鍵をかけた引き出しを開けると、
「あれ? 封が解かれてるな……」
朝は確実にされていた封印が解かれていた。その証拠に、箱が開いたままになっている。これでは、桃華に見せる以前の問題だ。オスワサマを見つけ出さなくては。幸いなことに、俺には少しだが霊感がある。それを使って探知すれば、見つけ出すことも不可能ではないだろう。
「信? どうかしたの?」
桃華の声が聞こえた。桃華には話しておくべきか。言いふらしたりすることもないだろうし。
「俺の部屋に来てくれ」
階段のギシギシ鳴る音が、緊張を加速させる。
「何かあったの?」
俺は、単刀直入に切り出すことにした。
「オスワサマの封印が解かれていた」
「……それって大丈夫なの? 皆に相談した方が良いんじゃ……」
当たり前の反応を見せる桃華。俺だって、逆の立場ならそうなるだろう。
「三日だ。三日で必ず見つける。だからそれまでは黙っていてくれないか」
「信がそこまで言うなら……。わかった。言わない」
桃華は口が堅いので、とりあえず安心だ。しかし、オスワサマは何処へ消えたのだろう。そもそも、封印は誰が解いたのだろうか。鍵のかかる引き出しに入っていたものの封印を解くなんて、それこそ超常現象だ。
「信、桃華ちゃん。お茶が入ったわよ」
階下から声が聞こえたが、俺は「悪いけど、要らない。桃華送ってくる」と居間をスルーして玄関へと足を運んだ。
「あ、ちょっと! 本当に急なんだから……」
困惑する母親をよそに、俺と桃華は家を出た。