———帰り道。うちが、余計なこと華に訊かなかったら良かったんかな。後悔先に立たず、とは言うけれど。後悔せずにはいられない。
「あの、そこの貴女」
黒髪を一本に結っている女性に引き留められた。彼女は巫女服で、一瞬「まさか……」とは思ったがうちは無関係なはずなのでその考えは捨てた。さっきも、うちは狙われる要素がないって言われたし。早歩きで無視すると、急に足に力が入らなくなった。
立てない。恐る恐る足の方を見ると、ない。その部分だけ綺麗に切り取られたかの様に、血の一滴もなくうちの足はなくなっていた。バランスを保てず前に倒れ込むと、アスファルトの突起部分が各所に刺さり痛い。うちは自分に何が起きたのか、認識できずにいた。これでは、逃げることなど出来ない。
殺される! と思ったが彼女は少し猶予をくれた。
「藤原、と姓がつく人間に心当たりは」
ここで答えなければ、今度こそ確実に死ぬだろう。だけれど、千秋の件もありこれ以上犠牲を増やしたくなかった。
「知らん。うちに訊かんといて」
彼女は諦めたのか、後ろを向いた。足がないので這って移動することしか出来ないが、これで「イズモサマは復活している」ことを伝えられればまた対策も練れるだろう。
「……嘘を、吐いた?」
彼女の顔が目の前にあった。呪いだと言われても信じることの出来ない美貌に、思わず見惚れてしまう。長い睫毛、意志の深い瞳。唇は薄く、儚い印象も同時に与えられた。
「嘘つきには、お仕置きを」
彼女の手は、手というか指はうちの右目を抉り取った。ブチブチと、神経が破壊される感覚。痛くて、絶叫しても誰も来ない。やがて完全に右目が見えなくなると、彼女は満足そうに
「もう、嘘は駄目。二度目は無いからね」
と言い残し去っていった。命だけは助かったが、明日からのことを考えると絶望しかなかった。車椅子で過ごすのは確定だし、右目も抉り取られているし。とりあえず家族に電話して、病院に連れて行って貰おう。