目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
8

 ———帰り道。うちが、余計なこと華に訊かなかったら良かったんかな。後悔先に立たず、とは言うけれど。後悔せずにはいられない。

「あの、そこの貴女」

 黒髪を一本に結っている女性に引き留められた。彼女は巫女服で、一瞬「まさか……」とは思ったがうちは無関係なはずなのでその考えは捨てた。さっきも、うちは狙われる要素がないって言われたし。早歩きで無視すると、急に足に力が入らなくなった。

 立てない。恐る恐る足の方を見ると、ない。その部分だけ綺麗に切り取られたかの様に、血の一滴もなくうちの足はなくなっていた。バランスを保てず前に倒れ込むと、アスファルトの突起部分が各所に刺さり痛い。うちは自分に何が起きたのか、認識できずにいた。これでは、逃げることなど出来ない。

 殺される! と思ったが彼女は少し猶予をくれた。

「藤原、と姓がつく人間に心当たりは」

ここで答えなければ、今度こそ確実に死ぬだろう。だけれど、千秋の件もありこれ以上犠牲を増やしたくなかった。

「知らん。うちに訊かんといて」

 彼女は諦めたのか、後ろを向いた。足がないので這って移動することしか出来ないが、これで「イズモサマは復活している」ことを伝えられればまた対策も練れるだろう。

「……嘘を、吐いた?」

 彼女の顔が目の前にあった。呪いだと言われても信じることの出来ない美貌に、思わず見惚れてしまう。長い睫毛、意志の深い瞳。唇は薄く、儚い印象も同時に与えられた。

「嘘つきには、お仕置きを」

 彼女の手は、手というか指はうちの右目を抉り取った。ブチブチと、神経が破壊される感覚。痛くて、絶叫しても誰も来ない。やがて完全に右目が見えなくなると、彼女は満足そうに

「もう、嘘は駄目。二度目は無いからね」

 と言い残し去っていった。命だけは助かったが、明日からのことを考えると絶望しかなかった。車椅子で過ごすのは確定だし、右目も抉り取られているし。とりあえず家族に電話して、病院に連れて行って貰おう。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?