うちの学校では、最近怖い噂が流れている。夏も終わりだというのに。うちは怖いのが苦手なので、極力その話題は避けていたのだが。
「なぁなぁ、“イズモサマ“って知っとるー?」
昼休み早々、ついにこの時が来てしまった。問いかけられてしまうと逃げることは出来ない性質なので、「名前だけは」と返しておく。
話しかけてきた浅井
「最近有名やで、華ならもっと興味示してくれるかと思ったわー」
「うち、怖いの好きやないし」
愛里の残念そうな表情に、少しの罪悪感が芽生える。
「イズモサマ、ってあれやろ。お札を剥がして魔物から逃げ切れたら願いが叶うっちゅーやつ」
うちらの友人である
「イズモサマは、悲運の死を遂げた巫女とか魔物とかその正体ははっきりせえへんけど、この世のものではないという点だけが共通しているって話やね」
「へえ、随分賑わったはるなぁ。そない気にしはるなら見に行けばええのに」
これまた、友人である藤原千秋が割って入ってきた。
「あぁ、悪いけどうちは行かれんのよ。夜は出歩いたら怒られてまうから」
愛里が残念そうに言うが、絶対そうは思っていないだろう。
「ほなら、うちが愛里の代わりに見てきたろか? 千秋と華も一緒に」
真矢の提案は突飛なことが多い。千秋はまだしもうちまで巻き込まれたらたまったもんじゃない。
「いや、うちは……」
「うちは折角やし行かせて貰おうかなぁ」
千秋まで乗り気だったら、二人の面倒を見るために行くしかなくなる。
「……うちも行く」
その言葉を発した瞬間、何処からか視線を感じたのは気のせいだと思いたい。
「なら、零時に御山の麓……イズモサマが封印されとるところで待ち合わせしよか」
真矢がどんどん予定を決めていくのを、うちは考えることをやめてぼーっと見ていた。