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第12話【 "それ" をするという事 】

 ◆


 一体どれほどの時間が経っただろうか。


 リオンは寝台に横たわるクラウディアを眺めていた。


 頬に触れ、手櫛で髪をとかし、額と両頬、そして唇に極々軽いキスをした。


「魂は、時を遡ることもあるという」


 突然リオンがそんなことを言った。


 リオンが口にしたのは、おとぎ話に出てくる、いわゆる「設定」だ。


 前世の恋人に会う恋物語だとか、その類の話。


 しかし今の彼にはその「設定」がとても魅力的なものに思える。


 思えてしまう。


 ──もし僕が時を遡ることができたならば、あの木の下で本を読んでいる君を迎えに行こう。


「少し待っててくれ、クラウ」


 リオンは台所へナイフを取りに行った。


 そして再び寝室へ戻ってきたリオンは、クラウディアのそばに横たわり、両手でナイフの柄を握って自分の胸を──


 突き刺すことを躊躇った。


 なぜならば、音がしたからだ。


 リオンが音のした方を見ると、そこにはシーラが佇んでいた。


 瞳がやけに黄色い。


 まるで満月のようだとリオンは思った。


 ・

 ・

 ・


「シーラ」


 リオンは静かにシーラの名を呼ぶ。


 シーラは答えない。


 あの日以前は、名前を呼べば喉を鳴らしながらやってきたというのに。


 まるで犬のようにしっぽを振りながらやってくるものだから、リオンなどは「お前は本当は犬で、猫のふりをしているんじゃないのかい?」などと大真面目に問いかけたりもしていた。


 そんなリオンとシーラを、クラウディアは眩いものを見るような目で眺めていたものだった。


 しかしあの日を境に、シーラはリオンやクラウディアの呼びかけに答えることはなくなっていた。


 寝室の入り口に佇み、リオンを見ている。


 あるいはクラウディアを。


 シーラの体から腐った肉の臭いが寝室へ広がるが、今この時ばかりはリオンはその臭いが全然不快ではなかった。


「シーラ、お前はシーラなのか。本当に?」


 今度のリオンの声にはどこか懇願のようなものが滲んでいた。


 もし本当にシーラがシーラならば。


 をしても、シーラのままならば。


 ──クラウ、君もクラウのままでいられるっていうことじゃないか。


 をすることを心に思い浮かべたその瞬間、シーラがあの日以来初めてリオンの呼びかけに鳴いて答えた。


 まるで「私はシーラだ」と答えているようなタイミングで。


 しかし、リオンはシーラの鳴き声を聞かなかったことにした。


「シーラか?」と尋ねた時に応えてくれたのだから、喉の奥からごぼりごぼりと水が湧き出ているような、そんな不気味な声は些細なことだと思ったからだ。


 リオンの頭の中に、ジャハムの声が響く。


 ──前にも言ったが、時間が重要らしい。オジーは時間をかけすぎた。遅かったんじゃ。少なくとも……コトリの奴はそう言っておった

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