子供たちにお詫びを、と思い、私はマルセルさんにお願いして焼き菓子を売るお店でクッキーを買い、子供たちにあげた。
ちなみに店番をゴーレムがしていて驚いたんだけど、子供たちいわく普通のことらしい。
「ゴーレムたちは簡単な仕事なら出来るんだよ!」
「学校でもお花の水やりとかしてるよ」
「そーそー、朝ごはんも作ってくれるし」
すごいなあ、ゴーレムってそんなこともできるのね。
小説やマンガでは敵としてでてくることが多いから不思議な感じだった。
子供たちと別れ、私はマルセルさんに礼を言う。
「すみません、私、お金を持っていないので……ありがとうございました」
そして私は頭を下げる。
「それは承知している。だからキアラ殿からいくばくかの金銭を預かってきた」
そう答えたマルセルさんの表情はむすっとしていた。
うぅ、怖い。
さっきは敬語だったのに、元に戻ってしまった。
「俺は、謝ることがある」
マルセルさんの意外な言葉に私は不思議に思い彼の顔を見つめる。
マルセルさんは私から目をそらし、何かを考え込むように視線を下に向けている。
なんだろう、謝る事って。
不思議に思っていると、彼はばっと、顔を上げて私の顔をじっと見つめて言った。
「先ほど、人々に囲まれた時なにも声をかけなくてすなまかった」
そして彼は深く頭を下げた。
え、あ、え? そ、そんなこと?
あれ、こっちの人たちって頭を下げたりしないんじゃなかったっけ?
私は慌ててマルセルさんの方に近づき、
「だ、だ、だ、大丈夫なので顔を上げてください」
と、焦る声で言った。
すると彼は顔を上げたけれど、その表情は晴れない。
「お前……いや、貴方を試してしまいました。彼らに囲まれて貴方がどう対処するのかと」
あぁ、そういうことか。
私を試すようなことをして、それで後ろめたい気持ちがある、ってことなのかな。
ということは、さっき憮然とした表情だったのは私に怒っているのではなく、自分に怒っている、ということなのかな。
私は首を横に振り、笑顔で答える。
「大丈夫ですよ。あれくらい自分で対処できないと、王になんてなれないと思うんです。それに、皆私の言葉を聞きたいんじゃないかなって思うんですよ。皆ずっと異世界から来た王に振り回されてきたんですよね。そして国は荒れてしまい、病気になったりいなくなったりしている人がいる。そんなの不安になるに決まっています。私の言葉でその不安が少しでも和らいだならいいんですけど」
実際どうなんだろう。
あんな震えた言葉が人々の心に響くとはあんまり思えないのよね。
マルセルさんは私をじっと見つめる。
正確には私の胸元辺りを。
「そのネックレスの石、そんなに光っていなかったと思いますが」
その言葉を聞き、私ははっとしてネックレスの石を見る。
その石のひとつが、弱々しいながらも光り輝いていた。
これって……
「国民の信頼を得ると、光るんだっけ……」
そう私が呟くと、マルセルさんが答える。
「えぇ。この国に住む人々が貴方に心を寄せると、その石は光り国を支える柱の力の源となります」
「そう、ですよね。ということはさっきので……」
「えぇ。わずかながらでも信頼を得たのでしょう」
そうなんだ。
本当に私、あれで信頼を得られたんだ。
私は思わずマルセルさんに抱き着き、顔を見上げて言った。
「よかったぁ……私、すごく怖かったんですさっき。囲まれて袋叩きになるんじゃないかって」
そう私が不安を口にすると、マルセルさんは目を丸くして驚いた表情で私を見下ろしてくる。
「え、あ……」
「よかったぁ! なんとか乗り切れて。まだまだ始まったばかりですけど、少しずつ皆さんの信頼を得られるように私、頑張ります!」
私が声を上げると、マルセルさんは目をきょろきょろと動かした後、何度も頷いて少し笑い、
「あぁ……はい、そう、ですね」
と、戸惑った声で言った。
あれ、なんだかマルセルさん、様子がおかしいような。
目がすごく動いていて、私を見ないようにしているような?
変なの。
とりあえず他にも見たいなぁ。
「マルセルさん、もっと町、歩きたいので案内、お願いしますね」
そう言って笑いかけると、彼は戸惑った顔をしてぎこちなく頷いた。