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第13話 騒ぎ

「新しい、王……?」


「うそ……女の人?」


「若くない? 大丈夫なの?」


 そんな声が方々から聞こえてくる。


「女でもなんでもいい! 王よ! 国に発生している歪みを何とかしてくれ!」


 そんな大声をあげる男の人がいて、私は思わずびくう、と身体を震わせてしまう。

 いったい何人に囲まれているんだろう。十人以上だろうか。大人たち囲まれている状況は、正直怖い、としか言いようがなかった。

 その声のあと、次々と別の声があがる。 


「あのさけめが出来てから、うちの人は寝込むようになってしまいました!」


「歪みに吸い込まれて帰ってこない人もいる!」


「王! あんたなら何とかできるはずだ!」


 鬼気迫る表情で大人たちが迫ってきて、子供たちは怯えた目をして私にしがみ付いてくる。

 なにこれ怖い……

 ど、どうしたらいいんだろう。

 私は怯える子供たちを守ろうと手を伸ばし、子供たちに声をかける。


「大丈夫だから」


 そうは言ったもののどうしたらいいかなんて何にもわからない。 


「そもそもそうなったのは今までの王のせいでしょ?」


 そんな声がどこからか上がり、人々がざわめきだす。


「そうだ! 異界だか何だか知らないが、どこからかやってきた王がこの国を滅茶苦茶にしたんだ!」


「そうよ! きっとこの王だって他の奴らと一緒よ!」


 人々は沸き上り、不満を口々に叫びだした。

 な、な、何これ怖い……

 こんな風に悪意を向けられたことなんてないよ……

 怯えた子供たちは私にしがみ付いてきて、泣き出す子まで出ている。

 どうしよう、これ……私に何が言えるだろうか。

 子供たちは怯えているし、これ、何とかしないと。

 そう思って私は頭の中で言葉を考えてそして、ばっと立ち上がって声を上げた。


「わ、私はささらといいます! 皆さんのいう通り異界からきました!」


「ほらやっぱり異界から来たんだ」


「きっとまた同じことを繰り返すぞ」


 そんな人々の不満の声が聞こえてきて私は怯んでしまう。

 でもここで負けたらダメだともう。

 私は子供たちをかばいつつ、大きく息を吸って声を出した。


「町の様子を知りたくて、今日は見に来ました! 歪みのことも耳にしましたし、そのせいでこの町に活気がないことを理解しました! 私はこの国をよくしたいし、消えた国王を捜し出したいと思っています!」


 するとまた、ざわめきが大きくなる。


「国王……アルヴァン陛下を捜す、だと?」


 あ、消えた国王の名前初めて聞いた。

 アルヴァン国王ね。覚えておかないと。


「そんなことできるわけがない! ドラゴンだって見つけられていないのにどうやって陛下を捜し出すんだ!」


 ドラゴンってあの青いドラゴンのことよね。

 この国の守護者って言っていたけれどそのドラゴンも見つけられないってことはこの世界にはいない、とか?

 そもそもドラゴンは何を手掛かりに国王を捜しているんだろう。ドラゴンから話聞けたりしないかなぁ。 


「でも! 私には今このネックレスがあります。私ならドラゴンと協力して国王を捜し出せるんじゃないでしょうか?」


 このネックレスはもともと国王の持ち物だと聞いた。だとしたら何かしらの方法であの人がこれを国王から奪い取ったのよね?


「それもそう、なのか……?」


「もう二年も行方不明なのに、陛下を捜し出せるの?」


 あ、ちょっと私の方に心、傾いてきた?

 ネックレスを見ると、石の輝きが増している気がした。


「私にしかできないことがあるのは確かでしょう。私はこの国のために最善を尽くし、国を発展させることを皆さんに誓います! どうかよろしくお願いいたします!」


 そう大声で叫んだあと、私は大きく頭を下げた。

 辺りがシーン、と静まり返る。

 うう、この沈黙が怖い。人々の視線が怖すぎる。でも、ここで私が怯えた表情を見せたらダメよね。握った手の平に汗が溜まるのがわかる。

 気が重くなるような沈黙を破ったのは子供たちだった。


「王様! ささら様は陛下を捜してくれるの?」


「今までの王様、そんなことしなかったよ?」


「ほんと? 本当に陛下を捜してくれるの?」


 口々に声を上げる子供たちの方を見て私は頷きながら言った。


「う、うん。今は私、このネックレスを国王様から借りているの。だからちゃんと、持ち主に返さないとね」


 そう答えると、子供たちは目を輝かせて頷いた。


「そうだね! 借りたら返さないとだよね!」


「ねえねえ、ささら様って呼んでいい?」


「私もささらさまってよぶー!」


 これ、私、完全に子供たちに助けられているわね。

 人々の顔を見ると、半信半疑な表情ではあるものの、非難の声を上げる者はいない。ありがとう、子供たち。あとで何かお礼しよう。


「いいよー、ささらで。だから皆もお手伝い、よろしくね!」


 その場にしゃがんで子供たちにそう声をかけると、彼らは大きく頷いた。


「うん!」


 これ、子供たちの心を掴んだ、ってことかな?


「じゃあ、仲良くなったから私といっしょにお菓子食べない? 私、おごるから。ねえ、マルセルさん!」


 ずっと黙って様子を見ていたマルセルさんに声をかけると、彼は驚いた顔になる。

 彼は私の顔と子供たちの顔を交互に見た後、


「かしこまりました、ささら様」


 と言い、私に近づいて来たかと思うと、手を差し出してきた。


「参りましょう。ささら様」


 あれ、さっきまではため口だったのに敬語だし、名前で呼び出した。

 どういう心境の変化があったんだろう。

 そう思いつつ私は彼の手を取り、立ち上がった。

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