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第10話 食事の後に

 お昼が終わり、私はクローチェさんに話しかけた。


「あの、町を見に行きたいのですが」


「町、ですか?」


 すこし不思議そうな顔でクローチェさんが答える。

 あれ、私おかしなこと言っているかな。

 クローチェさんは食堂を出ようとするマルセルさんの背中に声をかけた。


「マルセルさん」


 びくん、と肩を震わせてマルセルさんはこちらを振り返る。

 そして嫌そうな顔でこちらを見つめて言った。


「なんでしょうか」


「そういうわけですから、ささら様のご案内をお願いいたします」


 え、なんでマルセルさん?

 あわあわしつつ私はクローチェさんとマルセルさんを交互に見る。

 顔をしかめるマルセルさんに対して、クローチェさんは冷ややかな視線を向けている。


「私は仕事がございます。ですのでご案内はできません。マルセルさんは国王付の騎士でしょう。護衛と案内をしてください」


 お願い、ではなくこれは命令、なんだろうな。

 立場的にクローチェさんのほうが上、なのかな。

 しばらくにらみ合いが続いたかと思うと、マルセルさんの方が視線をそらし頷く。


「承知いたしました」


「では、ささら様。まず着替えをお願いいたします。そのお姿では少々目立ちますので。服はご用意しております」


「あ、はい、わかりました」


「では参りましょう」


 クローチェさんが歩きだし、私はその跡を着いていく。

 ちらっと振り返ると、マルセルさんが不満そうな顔でこちらを見つめた後首を横に振り、すたすたと私の後ろをついてきた。

 部屋に戻るとロミーナさんが待っていて、奥の部屋を示して言った。


「ささら様、ではこちらでお着替えをお願いいたします」


「あ、はい」


 言われるままについて行くと、そこはいわゆる衣裳部屋のようだった。

 でも服は余りおいていなくて、数枚のワンピースやシャツなどがかかっているだけだった。


「申し訳ございません。まさか女性が現れるとは思っていませんでしたので、女性物の服が余りないんです。職人を呼びますので少しずつ増やしていきましょう。ただ財政が厳しいのでドレスなどの用意は厳しいかもしれませんが」


 そんなにお金がないんだ……

 あんまりそんな感じはしなかったけれど。食事もたぶん普通なんじゃないかな。どうなんだろう。


「とりあえず外は涼しいのでワンピースにマントを羽織ってください。マントはいいですね、男女差なく誰でも着られますから」


 言いながら、ロミーナさんは紺色のワンピースを取り出し、ニコニコして私を見つめた。


「あ、ありがとうございます」


 礼を言い服を受け取ろうとすると、目を見開いてロミーナさんは私を見つめた。


「あ、あの、お脱ぎになってください。お着替え手伝いますので」


 なんですと……?

 あぁ、そうか……王族とかって自分で着替えたりしないものなのね。

 でも私は庶民。さすがに会って間もない人の前で着替える勇気はないし恥ずかしい。

 私は首を横に振り、


「ひ、ひとりで大丈夫です」


 と、必死な声で訴えた。


「そ、そうなんです、か? そうっしゃるのでしたらこちらをどうぞ。着ていらした服はそちらのカゴにお入れください。あの、お洗濯をしても大丈夫ですか?」


「それは大丈夫です」


 なんてことのない、ファストファッションの服だし。

 私がワンピースを受け取ると、ロミーナさんはにこっと笑って言った。


「では私はあちらで控えておりますので、何かございましたら声をおかけください」


 と言い、衣裳部屋を出ていった。

 この世界と私がいる日本、常識の違いがだいぶあるなぁ。

 ちゃんと学ばないとな。でもどうやって学べばいいんだろう……

 本を読むこと、かな。図書館とかあるんだろうか。伝承とか、神話とかまとめたりしてるのかなぁ。あとで聞いてみよう。

 私は着ていた服を脱いで畳み、言われた通りそれをカゴのなかに入れる。そして渡されたワンピースを頭からかぶった。

 ひざ下丈の青色の、シンプルなワンピースだ。胸のところに私がしているネックレスと同じマークが金色で刺繍されている。

 それに腰に黒いリボンがついているので、腰の左側で蝶結びにする。

 そして紺色のマントを羽織る。フードがついていて、縁の部分がふわふわしている。

 腰の下までのマントだけど、これだけでもずいぶんとあったかいんだな。

 あ、靴はスニーカーだけど、これでいいのかな。

 あんまり気にしていなかったけれど、ここ、みんな土足なのよね。

 でも館内はどこも綺麗だからゴーレムたちが常に掃除をしてくれているんだろう。

 ただ私は土足、抵抗あるから、この部屋だけはスリッパを用意しよう。

 衣裳部屋を出ると、部屋の片隅でじっと待っていたロミーナさんがこちらに歩み寄ってきて、手を叩いて言った。


「お似合いですねぇ。よかった。その色は王国のお色なんですよ」


「王国の色?」


 テーマカラーみたいなものかな。

 彼女は大きく頷き、


「はい、この国の紋章とか、制服とか、基本はその青い色を使うんです。ほら、私のエプロンにもその紋章が刺繍されています」


 言われて初めて気が付いた。

 ロミーナさんが着ているエプロンの胸のところに、青色の紋章が刺繍されている。

 そうだったんだ……全然気が付かなかったな。


「この国を守護してくれているドラゴンがいるんですが、そのドラゴンの色なんですよ。よく空を飛んでいるので見かけることはあると思いますよ」


 そういえばドラゴン、何度か見かけたっけ。

 たしかに青い色をしたドラゴンだった。あのドラゴン、この国の守護者なのね。覚えておこう。


「では参りましょう。廊下でマルセル様がお待ちです」


 そう言って、ロミーナさんは私に背を向け、ドアの方へと歩き出す。

 マルセルさんとふたりでお出かけって事よね。あぁ、緊張するなぁ。

 私はぎゅっと手を握りしめ、ロミーナさんの後ろをついていった。


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