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第8話 ひとりでお散歩

 お城の廊下には大きな窓があって、外の景色が良く見える。

 城自体も壁に囲まれ、その外にはお堀があるみたいだった。

 廊下は木のタイル張りになっていて、廊下の中央に点々と、私がしているネックレスと同じ五芒星のマークが埋め込まれている。

 窓と窓の間の壁にはガラスの傘がついたランプがあるけど、今はもちろん灯りはついていない。

 さっきは床や周りを見る余裕、あんまりなかったのよね……

 天井は高い。三メートル以上はあるだろうな。部屋によっては絵画や甲冑が飾られていたっけ。

 すごくお城っぽい。

 扉は重厚な木の扉で、蔦や木の実と思われる模様が彫られている。持ち手は金属でできていて、装飾が施されている。

 このフロアは王の部屋と玉座の間、それに魔法使いのルアンさんと、騎士であるマルセルさんの部屋があるだけだそうだ。

 ここは四階で、階段のほか、塔にあったエレベーターみたいな装置で移動できる。

 ただの丸い板に乗って上下移動するんだけど、壁がないから怖いのよね……

 お城の中はとっても広くて、全部の部屋を見て周ってはいない。あの、青い柱にも近づいていないし。気になるんだけど行く時間、あるかなぁ。

 時計を見ると十一時半ごろだった。

 外に出る時間はないかなぁ。

 窓の外をみると、ドラゴンは見えなくなっていた。あのドラゴンに会う事、できないかなぁ。

 いろんなところ見たい、話しをしたい。うずうずしてしまうけど、ひとりで外に出るのは危険かなぁ。

 好奇心が、私に外に出るよう語りかけてくる。

 廊下を行き、外へ出ようとエレベーターの方へと向かった。


 外に出ると広い庭があって、兵士と思われる人たちが見回りをしているし、ゴーレムたちが相変わらず掃除をしている。

 季節は秋……なのかなぁ。四季の概念があるのかわからないけど、吹く風は乾いていて涼しいし心地いい。

 木々は低いし、常緑樹は見当たらない。

 深い森と山に囲まれていて、交易は海だけで行われているって言っていたけど、雪は降るのかなぁ。

 日本で言うとどこに似ているんだろう? って思ったけど、私、自分が住んでいる関東のことだってよくわかんないから比較のしようもないわね。

 そんなことを考えつつ私は中庭を歩き回った。

 誰もが私を驚いた顔をして見つめ、慌てた様子で敬礼したりしてくれる。正直どう挨拶していいかわかんなくて私は笑顔で頭を下げた。

 すると、また驚いた顔をして戸惑うものだから、なおさらどうしたらいいのかわかんなくって、私はそそくさとその場を離れ、例の柱へと向かった。

 国を支えるという、青い柱は近づいてみるとかなり大きかった。

 辺りには見張りと思われる兵の姿があって、私を見てあたふたとしている。私はそんな彼らに頭を下げ、柱へと近づいた。

 石でできているであろう柵の中に、その柱はあった。

 淡く光る柱からはたくさんの魔力が溢れているのを感じる。だけど、その光は弱々しく、よく見るととろこどころにひびが入っている。

 かなりまずい状況、っていうことはわかった。

 にしてもなんで小田切さんはこの国の売買なんてしていたんだろう。お金の為、かな? このネックレスだって、どうやって手に入れたのか謎すぎるし。

 ほころびの話も気になるしなぁ。

 あぁ、気になるが多い。


「おい、何をしている!」


 鋭い男の声が後ろから聞こえ、私は驚きばっと、背後を振り返った。

 現れたのは騎士のマルセルさんだった。

 彼は私を睨み付け、すごい勢いでこちらに歩み寄ってくる。そして、私の目の前で立ち止まると、


「なんでお前がこんなところにいるんだ?」


 と言った。

 うぅ……私より大きい男の人にこうやってせまられるの、怖いんですけど?

 恐怖で思わず後ずさりつつ、それでも私は勇気をふりしぼり言った。


「な、なにって、見回り? 見学? です。お昼まで時間があるので、この柱が気になってそれで」


 と、震える声で言った。


「どうせすぐに追い出されるのだから、そんなことする必要、ないだろうに」


 うぅ、そんなきつい声で言いながら睨み付けるのやめてほしいんだけど?

 でも、負けないんだから。

 私は恐怖を抑えつけながら、じっと、マルセルさんを見つめて言った。


「ま、まだきたばかりだし、なんにもわかんないですけどでも、私、ちゃんとやりたいんです! 大変だろうし、問題だらけみたいですけど、でも、私、この国のために何ができるか考えて頑張りたいんです!」


 なんか、頭の中ぐちゃぐちゃだしひっしだし、声は裏返って震えているしボロボロだ。

 それでも私としては頑張ってこの国をどうにかしたい、っていうことを伝えたかったんだけど……

 伝わった、かな。

 ドキドキしながらマルセルさんの様子をうかがうけれど、彼は私を睨み付けるだけだ。

 怖いなぁ……

 でも負けない。

 そう思って私はマルセルさんを見つめ続けた。

 たぶん大して時間は経っていないと思う。

 だけど、何十分にも感じられたにらみ合いは、マルセルさんが目をそらしたことで終わりを告げた。

 騎士でも、兵士でもない足音がこちらに近づいてくる。


「あ、こんなところに。ささら様! お食事の支度が出来ましたよ! マルセルさんもご一緒にいかがですか?」


 そう言いながら現れたのは、メイドのロミーナさんだった。

 彼女は私たちに近づいてくると、ニコニコ、と笑って会釈した。


「お部屋にいらっしゃらなかったので探しましたよ、ささら様。まさかマルセル様とご一緒だなんて……」


「たまたま会っただけだ。食事は別でとる」


 と言い、マルセルさんは私たちに背を向けて足早に去っていってしまった。

 マルセルさんといい、ルアンさんといい、今まで何があったんだろう。

 なんとか彼らの信頼を得たいけれど、どうしたらいいんだろう。

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