その後、城内の案内を受けて、時刻は十一時をすぎた。
お城って広いんだなぁ。まだ全部じゃないって言っていたけど、いったいいくつ部屋があるんだろう。
大広間や謁見の間を見たときはテンション爆上がりした。
玉座って本当にあるんだ……って感動したけど、座ってみる勇気はまだなかった。
いったん部屋まで戻ると、
「ご昼食の用意が出来ましたらお呼びしますので、先ほどの部屋でしばらくお待ちください。お飲物をお持ちいたしますね」
そうロミーナさんたちに言われ、私は今、部屋にあるソファーに腰かけていた。
にしてもこの部屋広い。すごく広い。
室内を探検したらちゃんとトイレやお風呂がついていたし、いわゆるウォークインクローゼットもあった。
お茶を持って来てもらい、私は再びひとりぼっちになる。
お茶は、いわゆるハーブティーみたいなものだった。色は紅茶と似ているけれど、味は全然違う。美味しいかと言われたらよくわからないけど、癖のある味なのは確かだった。
お茶を飲んで一息ついて、私はぼんやりと窓の外を見つめた。
はるか遠くにあの、青いドラゴンが飛んでいるのが見えるけど、いったい何をしているんだろう。
この国、わからないことだらけだし問題多すぎよね。
まだ詳しく教えてもらったわけじゃないけど、財政状況は今までの王たちのせいでよくないらしい。
国を支えるという柱は力を失い、国は物理的な意味で崩壊への道をたどっている。
ほころびってどういうものなんだろう。説明聞いた限り吸い込まれたら戻ってこられないって事よね、怖いなぁ……
私はネックレスをじっと見た。
石の光はさっき見たときとなにも変わっていない。
この石が全て輝けば大丈夫なのかな。この国は崩壊しなくて済むのかな。
出会った人たちが消える様な事になってほしくない。その為に私、皆の信頼を勝ち得ないと。
食事は十二時過ぎだと言っていたからまだ時間がだいぶある。ちょっと外、歩いて来ようかな……ここでじっとしていても暇だし。
私はお茶を飲み干すと、立ち上がって廊下に出た。
「あ」
「お前は……」
ドアから出た瞬間鉢合わせたのは、クローチェさんと私の前に現れた宮廷魔術師のルアンさんだった。
宮廷魔術師、っていうのは王の守護者であるらしい。
宮廷魔術師と、護衛騎士が常に王を守る為にそばにいるものなのだそうだ。
そしてその魔術師がルアンさんで、騎士はマルセルさん。どちらも私に対して敵意をむき出しにしてきた人たちだ。
彼は私を見るなり、顔をしかめて忌々しげに呟いた。
「まだいたのか」
そりゃあいますよね。来たばかりなんだもの。
私よりずっと背が高い男性に睨み付けられて正直怖い。
思わず半歩下がってしまうけれど、私はぎゅっと手を握りしめてルアンさんを見つめた。
「あ、えーと……ルアンさんですよね。よろしくお願いします」
と言い、私は頭を下げた。
こんな風に頭を下げる習慣はここにはない、って言われたけど身体に染みついた行動は、すぐにどうにかできるものではない。
彼を顔を見上げると、顔をしかめたまま彼は口を開いた。
「そんな態度で出られても、僕は貴方を認めることはない」
きっぱりと言われ、私はまた、怯んでしまう。
うぅ……私自身が何かしたわけじゃないけど、これはもう、なかなかどうにもならないんだろうなぁ。
「そ、それでも私はちゃんとやれるかはわかりませんけどでも、なんとか頑張りますから」
うまくやれます、とか大丈夫だとか、そんな言葉は嘘でも言えなかった。
でも受けたからにはやるしかないもの。
だって私が今このネックレスを持っているわけだし、私はこの国の王としてやるしかないんだもの。
ルアンさんは目を細め、私を値踏みするかのように視線を動かす。
うわぁ、怖いよぉ……
私の人生の中でこんな風に敵意を向けられたことなんてないもの。
とりあえず一週間で何とかこのふたりの信頼を勝ち得……いや、さすがに一週間じゃ無理かな。でも私、できる限りのことはしたいな。
いったいどうしたらいいんだろう。
うーん、わかんないけどとりあえず、町を見に行きたいなぁ。
まず情報を集めないと。私ができること、見極めなくちゃ。
ルアンさんは腕を組み、私を睨みつけながら言った。
「口だけなら何とでも言える。どうせお前も、他のやつらと同じように一か月ももたずこの国を去るだろう。これ以上、この国が食い物にされるのはまっぴらだ」
憎々しげな声で言い、彼は私に背を向ける。
「わ、私はそんなことしませんから!」
そう背中に叫んだけれど、彼はこちらを一切振り返らない。
あー、これは先行き不安だなぁ。
いきなり信じてくれ、なんて言っても信じてもらえるわけはない。だから行動でそれを示さないと。