私がしているネックレスの石は、ひとつだけ、弱々しい光を放っている。他の石は全然輝きはない。
とりあえず、即追い出されることはなさそうだけど、さっきの魔法使いの人の感じやクローチェさんの説明を聞く限り、私、行動を間違えたらすぐに追い出されそうだな……
私は荷物を置くと、クローチェさんに向かって深く頭を下げた。
「私、王として皆さんの信頼を得られるよう頑張りますのでよろしくお願いします」
「本当に、今までの王とは違いますね。文化の違いなのでしょうか、そんな風に頭を下げた方、いないですよ。まあ、この国の習慣にもないですけど」
あぁ、そう言っていたっけ。
クローチェさんが頭を下げたとき、本当に軽くだったものね。
習慣の違い、と言われたらそうなのかも。
恥ずかしくなって私は思わず頭に手を当てる。
「城内を案内いたしますが、貴方に敵意を向けてくる相手もいるかと思いますのでご承知おきください」
う……そうなんだ。今までの王はいったい何をしたんだろう。
部屋を出て廊下に出たとき、こちらに近づく足音に気が付いた。
「キアラ殿、王が現れたと聞きましたが本当ですか!」
太く低い声と共に現れたのは、鎖かたびらを着た、短い金髪の青年だった。一重の緑色の瞳が、値踏みするかのように私をじっと見つめると、きっ、と目つきが鋭くなった。
「こいつが王?」
こ、こいつ呼ばわりは酷くないですかね?
「マルセルさん、王相手に失礼ですよ」
きつめの口調でクローチェさんが言うと、彼はふん、と言って視線をそらしてしまう。
あぁ、この人も私を歓迎してないんだな。当たり前よね。
「わ、私は木鋤ささらといいます。よろしくお願いします」
そして私は頭を下げる。
でも、マルセル、と呼ばれた彼は黙ったきりで何も言わない。
すると、クローチェさんが呆れた様子で言った。
「ささら様、こちらはマルセル=デュラン。国王付きの騎士のひとりです」
騎士?
言われて私は改めて彼を見る。
よく見たら彼の腰には剣が入っているであろう柄がぶら下がっていた。
手甲をつけているし、足の防具も着けている。
あれ、何の金属だろう?
剣はあれ、ロングソードかな? ブロードソードかもしれないよね。グレートソードはもっと大きいだろうし……
あぁ、いろいろ聞きたいし触りたいけど、いきなりそんなことを言ったら失礼だよね? 特に剣は騎士にとって重要な物だろうし。
あー、うずうずするなぁ……
私が剣をじっと見ていると、その視線に気が付いたらしいマルセルさんがいぶかしげにこちらを見た。
「何を、見ているんだ? お前」
「マルセルさん、失礼ですよ」
さっきよりももっときつい口調でクローチェさんが言うけれど、マルセルさんは気にする様子もなかった。
「え、あ、あの、私の国にはその、剣とかチェーンメイルって身近になかったので気になってそれで……」
と、しどろもどろになりながら答えた。
「お前の国はずいぶんと平和なんだな」
と言い、彼はこちらに背を向ける。
「俺はあんたを認める気はない。さっさと帰るんだな」
そう告げて、彼は廊下の向こうに消えていった。
これは……とても大変そうだな……
いったい今までの王は何をしたのよ全く。
マルセルさんが消えた後、クローチェさんがこちらを見て、困ったような顔をして言った。
「彼と、魔法使いのルアンは特に消えた国王陛下への忠誠心が強いので、なかなか貴方を受け入れないと思います」
「まあそう、ですよね。いきなり現れた異世界人を、王と認めろって無理な話ですし」
「それはそうなのですが、そのネックレスがこの国の王の証であり、もつ者には我々は逆らえないのです。だから我々がどう思おうと、どうにもならない部分がございまして。それがそのネックレスのもつ魔力なのでしょう」
魔力……そうか、ここは魔法王国だから、魔力によって支配される、って事なのかな。
「皆、魔法を使えるんですよね?」
「え、えぇ。当たり前ですし、ささら様も使えるはずですよ。そのネックレスがあるわけですから」
「え?」
私は驚き、ネックレスを見る。
これを身に着けていると魔法が使える? え、どういうこと?
「今までの王は、そこまでしようとしませんでしたけど、使えるはずです。よろしければ時間をつくってお教えしま……」
「おねがいします、クローチェさん!」
彼女が言い終える前に私は思わずがしり、とクローチェさんの手をつかみ、目を大きく見開いてじっと、彼女の顔を見つめた。
すると、クローチェさんは驚いた顔になって戸惑い気味に頷く。
「え、あ、はい。かしこまりました。まあ、私でなくても誰でも大丈夫なのですが……」
「はーい、私もお教えできますよ! ただ皆さん、得意不得意はありまして、私は家事関係中心になりますが」
家事関係の魔法って何?
それは気になりすぎるんだけど。
私はクローチェさんの手を掴んだままばっと、ロミーナさんの方を向いて言った。
「お願いします」
するとロミーナさんはにっこりと微笑み、
「はい、かしこまりました!」
と答えた。