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終幕「ハーレムなんていらない」


まぶたの上から日光が眼球を刺して、闇に沈殿していた意識が覚醒する。さっきまで見ていた世界がぶつ切りになるこの感じが苦手だ。


長くて壮大な夢を見ていたはずだけど、目が覚めたら奇麗さっぱり忘れてしまうのは毎度のことだ。なんだかもったいないよね、きっとネタの宝庫に違いないのに。


ボクは眠りから目覚めた――。


何度も言うけどボクは寝起きが悪い、今日も微動だにしないまぶたの隙間から世界をうかがう。

眩しくて、白いなという感想しかない。つまりは朝なのだろう。


なぜだか女の子のクシャミ音が聞こえるような気がしたけど、そんなことはなかった。

ここは埃っぽくもないし布団も温かくて枕はフカフカだ、クシャミの必要もない。


抱き枕がわりのお姫様もいないし大魔術師に不愉快な起こされ方もしない……。なんて、どうやらボクはまだ夢を引きずっているみたいだ。



「あら、やっと起きたのかい?」


ほら、聞こえてくるのはアルフォンスじゃなくて親し気な中年女性の声。


「……お母さん、今日は何曜日だっけ?」


ボクは寝ぼけた声で確認した。なんだかやたらと気怠くて、休日であることを願いながら返事を待つ。


しかし、返答は想定外の方向へ向かう。


「あらやだっ!? お母さんだなんて、この子ったら寝ぼけているのかい?」


あれ、母ではない? 確かに寝ぼけてはいるが、じゃあ誰? ってことになる。


ボクはゆっくりと重いまぶたを持ち上げる。そこは実家の自室ではなく、知らない部屋だった。


広くて豪奢すぎる内装にキョトンとする。


「…………?」


えーっと、胸は――ある。


ボクは見知らぬ中年女性に尋ねた。


「あの、どちら様でしたか?」


彼女は答える。


「アンタが寝てるあいだ身の回りの世話を任せられたメイドだよ」


お母ちゃん然とした風貌がメイドさんと呼ぶのを躊躇させる。


「お母さん」


「やだよ、あたしゃ独身、まだ独身なんだから」


浪漫が侵害されているような気はしたが、この際それはどうでもいい。


「ここはどこで、ボクはいったいどうなったのでしょう?」


その質問にお手伝いさんは答えてくれる。


「ここは王宮さ」


「……王宮?」


牢獄よりも縁のない場所に思えた。


「なんでもいまの王様が悪い人だったらしくてね、まえの王様の娘さんが戻ってきて退治したんだそうよ。お姉さん、政治のこととかよく分からないんだけどね」


不適切な部分があったけど聞き流した、ここで重要なのはたった一つ『退治した』という部分。


つまり、『革命が成功した』ということ。


――おいおいおいおいおいっ!?


「アンタ、お姫様の大切なお友達だから大切に扱うようにって任せられたのよ」


堪らなくなってベッドから飛び出した、そして飛び出した勢いを支えられずに床に浸り込んだ。


どれだけ眠っていたのだろう、関節がこわばって力が入らない、めまいがする。


「急にどうしたんだい!?」


オバチャンを驚かせてしまったみたいだ。


とつぜん転がり落ちたように見えただろうから仕方ない、実際転げ落ちたのだからそうなる。


「ティアンはどこ――?!」


ボクはヨタヨタと立ち上がった。なにを置いてもまずは彼女の無事を確認しなくちゃ。


「落ち着きなさい。アンタ、三日も眠り通しだったのよ。まずは身だしなみを整えなさい、そんな格好で外を出歩く気かい?」


言われてみれば、ボクは寝間着であろう薄い布を一枚被っただけの格好だ。

それを見て、改めてオバチャンに多大な世話を掛けたのだと思い知り大人しく従うことにした。



時間をかけて身支度を整えると王宮内へとティアンを探しに出た。


オバチャンの言いなりになっていたらいつの間にかお姫様みたいな格好にされていて、これから社交パーティにでも参加させられるかのごとくだ。

メチャクチャ恥ずかしかったけど、抗議するのも面倒で結局そのまま出てきてしまった。


ボクは一歩一歩を踏み締める。信じられない、生きてまた自由に歩けるだなんて。


フォメルス王との闘いを思いだす、確かに致命傷を負ったし死を体験したんだ。


湯につかって血行が良くなったおかげか、なんとか一人で歩けるくらいには回復したみたい。

とは言ってもまだ足元がおぼつかなくて、自分ってこんなにも頼りなかったっけって驚いてるところだけど。


――で、どこに行けばいいんだ?


なんの考えもなく飛びだしてきてしまった。


通行人に案内を頼もうかと考えていたら、すぐに見知った顔と遭遇できた。


「勇者様ぁぁ!!」


鬱陶しかった声がなんだかこそばゆいくらいに嬉しい。


「アルフォンス!」


正面からアルフォンスとヴィレオン将軍が歩いてくる。


「お目覚めになられたと報告があったので、お迎えに上がりました」


大魔術師は戦いのあととは思えない相変わらずのゆるさ、そしてオッサンは戦いが終わったとは思えない仏頂面だ。


「二人とも無事で良かった!」


駆け寄るとアルフォンスはまじまじとボクの姿を観察する。


「どうなさったのですか、そんな可愛らしい格好をして?」


「ばっ!? 羞恥心をあおるな、普通にしてられなくなるだろ!」


キョドるだろ!


それにゴミ袋を着ていた期間が長いアルフォンスや下働きをさせられていたオッサンだって、見違えた格好をしているじゃないか。


まるで貴族みたいだぞ?


「元気そうだな、イリーナ」


どうやらオッサンはもとの地位に戻れたってことで良いのかな、王宮にいるってことはきっとそうなんだよね?


「そりゃそうだよ! たったいま革命が成功したって知らされたばかりなんだから!」


興奮だってする、それどころか半ばパニック状態だよ。


「とにかく、誰かボクを安心させておくれよ!」


オバチャンじゃ話にならなかったんだよ!


「革命は成功した。フォメルスは死に、ティアン様はご無事だ」


そうか、本当にうまくいったんだ……。感極まってきた。


アルフォンスが補足する。


「捕縛した近衛兵長から七年前の事件の真相を聞きだせたので事後処理はスムーズでした。

国王暗殺はフォメルスと捜査の中心人物だった近衛兵長が結託して行ったことが明るみになり、ヴィレオン氏は現職に復帰することができたのです」


近衛兵長、生きていたのか。トドメを刺さなかったことがむしろ良い方向に転がったらしい。


「剣闘士の皆は?」


「生存者は全体の三分の一程度でした。彼らには恩赦が与えられ捕虜や奴隷はいったん釈放され、凶悪犯罪者は通常の牢獄へ移送され現在は手続き中です」


見知った顔はどれくらい残っているだろうか、扇動した結果、百二十人程が命を落とし六十人程が未来を勝ち取った。

それを良しとするべきかは分からないけど、彼らには感謝しなきゃいけない。


「ジェロイ氏は残念でしたね」


「うん……」


彼がいなかったら革命の成功はなかった。


――ありがとう、ジェロイ。


「そうだ、オーヴィルは?」


その質問にはオッサンが答える。


「ああ、やつならば元気なものだ。素性柄、王宮を自由に出入りさせる訳にもいかんのでな、他の闘士たちと釈放手続き待ちだ」


オーヴィルは生きていた。あの最強剣闘士と一騎打ちをして、無事だったんだ。


「まさか、ウロマルドに勝ったの?!」


その質問にオッサンはもともと渋い顔をさらに渋くさせる。


「それは本人から聞くことだ」


散々に手を焼いて勝てなかった難敵を他人に倒されて悔しいのか、けっきょく誰もウロマルドを倒せなくて悔しいのか、判断はつかないけれど心境は複雑そうだ。


でも、オッサンの長年の忠誠は報われた、お疲れさまでした。


「アルフォンスは王宮に入っていいの?」


オーヴィルは駄目なのに。


「もちろんですよ、私は勇者様の保護者ですからね」


「不愉快なんだけど?」


初耳だわ、そんなの。


「またまたぁ、私に再会できて嬉しいって表情をしていますよ?」


「不愉快なんだけど!」


強めに復唱した。


「そんなに嫌がらなくても……」


アルフォンスが情けない顔をした。


「チンコミルが話の通じるやつでな、われわれの復帰に賛同して手を尽くしてくれた」


「……えっ、急にごうした?」


唐突なチンコミル発言にとまどう。しかもオッサンに真顔で言われるとセクハラと勘違いして真顔になるわ。


「――ああ、軍隊の人の名前か。チンコの話はいいや……」


辟易して言うとアルフォンスが過剰反応する。


「突然の下ネタ!?」


「いや、違っ……!?」


チンコミルは人名だからそのままだけど、チンコは陰部の名称に変換されるのかよ紛らわしい!


「そんなことより、ティアンは?」


なんで皆と一緒に会いに来てくれないのだろう?


「なんだか恥ずかしげにしていましたよ、心の準備をしてくるって」


「そんな、たかだか三日ぶりでしょ?」


そりゃ、なかなか目覚めないことにヤキモキはしたかもしれないけど、だからこそすぐに会いたくならない?


不満を漏らすボクにアルフォンスは思案顔。そして、決心したように話し出した。


「ティアン嬢については勇者様に伝えて置くことがあります」


「え……?」


なんだか不穏な言い回しじゃないか。


「フォメルス王と闘った勇者様は再生困難な重症を負っていました、本来ならすでに死んでいたはずなのです」


結構重い話をアルフォンスはサラッと始めた。


思い当たる節があるのでボクは神妙に耳を傾けた。


「いま勇者様が存命なのは、ティアン嬢の治癒魔術のおかげです」


手足の裂傷に加えて胸部の半ばまでを切断され、多量の出血があった。


「そうなの? とてもそんな膨大な魔力の蓄積が彼女にあったとは思えないんだけど……」


「これは奇跡としか言いようがありませんし、同時に非情な現実とも言えるでしょうね」


アルフォンスの言い回しは、うまくいったのか、いってないのか判断に困る。


「結論をわかりやすく!」


彼女は無事なの?


「ジェロイ氏の炎をだす魔術はストックした炎を消費する原理でしたよね?」


「う、うん」


あらかじめ持ち込んだものを消費しているだけだって。


「ティアン嬢はおそらく、足りない魔力を自らの生命力を消費することで補い、治癒魔術を再生魔術に昇華して勇者様を蘇生させたと私は分析しています」


むちゃをしたってことか。


「それによる弊害とか後遺症はあるの?」


「治癒魔術は専門外なのでなんとも言いがたいのですが、現在でている症状としては魔力が蓄積されず、魔術が使用不能だということです。

可能性として、免疫や治癒力の低下、寿命の短縮などがあるかもしれません」


オーバーフローした結果、魔力が蓄積されなくなっている。いつかは回復するかもしれないし、今後魔法を使えない可能性もある。


なにより深刻なのは、寿命が短くなっているかもしれないということ。


「……何年くらい?」


ボクは恐る恐る聞いた。


「それを推測するには前例をいくつも調べる必要がありますね。ただ、なんの対価も払わず人間を生き返らせることができないのは確かです」


ただでさえ奪われてきた人生の時間を、ボクのために短縮させてしまったかもしれない――。


言葉を失ってしまったボクにオッサンが声を掛けてくれる。


「気に病むな。おまえにその価値があったからこそ、望んでそうされたのだ」


少なくとも処刑を待つだけの日々からは開放された、人生を謳歌する資格を得たんだ。


そこは前向きに捉えていくべきか。


「ティアンに会いに行かなきゃ」


人生のやり直しをさせてあげなきゃいけない。


「姫は中庭の庭園にてお待ちだ」


オッサンがティアンの居場所を教えてくれた。


「オッサン、本当になにからなにまでありがとう!」


ボクは最後まで口先だけのやつだった。


だけど、大国一の将軍でフォメルスに屈しなかったオッサンとその仲間たち。

大魔術師アルフォンス、最強剣闘士と渡り合ったオーヴィル、完璧な準備をしてくれたクロム隊の皆と、ボクらを鍛えてくれたクロム。


命を賭けて闘ってくれた剣闘士の皆、最後のチャンスを作ってくれたジェロイ。


そして、その勇気で自分の運命を切り開いてボクの命を救ってくれたティアン。


皆がすごい人たちばかりだったから、この革命を成功させることができた。


どんなに感謝をしてもし足りない。


「ボク、行ってくるよ。じゃあ、またあとでね!」


ボクは二人に手を振ってその場を離れた。


足元はおぼつかないけど気にしてなんていられなかった。いま気持ちを伝えないで、いつ伝えるんだ。


ボクはティアンの待っている庭園へと走り出した。




そこには色とりどりの花が咲き乱れていて、ボクは感嘆の声を漏らした。


「ふああああ……」


何度もつまずいたり壁にもたれたりしながら、なんとか中庭にたどり着いた。


青空と緑にカラフルな花弁のコントラストが美しい、なんだか幻想的な風景だ。


きっとフォメルスの趣味が反映されているのだろうなと思うと、芸術に理解のある偽王を憎めないところもあった。


話がはずんだこともあったしね。独裁者じゃなければ案外、仲良くなれたのかもしれないな、なんて思ったり。


人の意見を聞かないやつだったから衝突自体は避けられなかったろうけど……。



庭園に足を踏み入れて行くと、その先にティアンの姿を発見した。

待ち構えていたのか、あちらもこちらに気付いている。


ボクらはなぜだか無言のまま距離を詰めていく、見知った間柄なのになんだか緊張してしまうのだ。


途中、彼女がボクの格好にクスリとしたのを遠間からでも見逃さなかった。


「あ、笑ったな」


「ごめんなさい。とっても、可愛らしくてよ?」


それは喜んで良いのか複雑なところ。


一方、ティアンの姿には明確な変化があった。髪の毛の色が真白に変化している。


きっと、それも魔力消費の副作用。


「ビックリしたでしょう? 一目で分かるくらいに色が落ちてしまって……、変よね」


ティアンは取り繕うように笑った。


きっと、それが恥ずかしくて心の準備をしていたのだろうと納得する。


そんなことはどうでもいい。


囚われのお姫様が、抜けるような青空の下、緑に囲まれ、大地を踏みしめている。


感無量だ。


「変じゃないさ、とても奇麗だよ」


そのたたずまいが、この顛末が、その髪の色さえもが、ここに至るまでのすべてが美しい。


駆け寄ってくるティアンをボクは両手で受け止めて抱きしめた。


「イリーナ、本当によかった!」


「うん、ティアンのおかげだよ」


一頻り抱擁をして、ティアンが離れる。


「すてきな花壇でしょう、庭師の方にいろいろ聞いて手入れを手伝ったのよ。本で読むのと実際に触るのとでは大違いね、たくさん勉強しなきゃ」


ティアンは生き生きとしている。


監禁生活の長かった彼女にとっては、なにもかもが新鮮にちがいない。


その姿を見ていたら、なぜだろう。なにも言えなくなってしまった。


ボクは彼女をここから連れ出しにきたのに――。


「これから、どうしようか?」


ついさっきまでは明確な答えのあった質問だ。


ティアンは不安を察したかのように、優しくボクにほほ笑みかける。


「イリーナは、わたくしと二人で広い世界を旅したいって言ってくれたわよね」


「うん」


その光景にどれだけ思いをはせたか、どれだけ心の支えにしたか、そのためにボクは戦い抜いてきた。


「わたくしも同じ気持ちよ。でも、ね……」


ティアンが申し訳なさそうに言った。


「気が変わった?」


ボクにはなんとなく彼女の考えが分かっていた。だって、一番大切な人の考えることだから。


「ううん。変わったというよりも、増えたの。あなたと二人で旅立ちたいという気持ちと同時に、わたくしはここに残るべきだという気持ちがせめぎ合ってる……」


フォメルス亡きいま、彼女には国家元首としての責任が求められるだろう。


ボクはそんなの知ったことじゃない。と、思った。


冤罪に問われ牢獄に幽閉され続けていた彼女をこれ以上、拘束する権利なんてあってたまるか。


自由にしてやったらいいんだ。と、そう思っていた。


「今回のことでたくさんの人々がわたくしのために命を賭け、多くの命が失われたわ。その人たちをあざむく形で姿をくらませて、わたくしだけが楽しい日々を送ることが咎められるの……」


ティアンは握った拳を自らの胸に押し当てて言った。その拳の中には責任が握られているのだろう。


「誰もが自分の未来のために命を賭けたんだ、べつに君のためじゃない」


ティアンの存在は皆にとっても都合が良かったんだよ。


でも分かってる。皇族の名を掲げて闘った以上、ティアンはもう、ボクだけのものじゃなくなってしまったってことを。


そして、ティアンはボクへの愛情と皇族としての責任のあいだで板挟みになっているんだ。


ボクは一つ、深呼吸をして問いかける。


「さらってほしい?」


鼓動が早鐘のように打って痛みが走った。答えを待つボクに彼女は遠慮がちに聞き返す。


「さらってくれますか?」


伏し目がちに、うるんだ瞳でボクをジッと見つめて答えを待っている。


われながら意地が悪い質問だった。


彼女はそれを望まない。それでもボクが駄々をこねれば、彼女は聞き入れてくれるのだろう。


ボクのために他を手放してくれるだろう。


――ああ、でも思い出しちゃったな……。


命懸けで掴みかけたこの夢は、はじめからかなわない夢だったんだ。


だってボクは異世界の人間なんだから。ずっと、側にいてあげられる保証はどこにもないんだから。


ボクは本音がすけて見えてしまわないよう、努めて明るく振る舞った。


「いやだよ、ボクが加害者でキミが被害者になるなんてゴメンさ」


「イリーナ……」


ティアンはなんだか残念そうで、それがボクにとっては救いだった。


「一番はじめに言ったろ、ボクと友達になる条件は対等であることだって。だから、ティアンは胸を張って生きてボクはそれを応援する」


ティアンが王女様になるなら後継ぎの問題からは逃れられないだろう、その相手がボクって訳にはいかない。


だから、彼女を諦めなくてはいけない。


ティアンは少しうつむいて、なにかを吹っ切るようにして顔をあげた。


「イリーナが応援してくれるなら、わたくし頑張るわね。最初はなにもできないだろうけど、ヴィレオンたちに教わって、きっと皆に報いられるようになるね」


出会ったときには未来のことなんてこれっぽっちも口にしなかった、生きることを諦めていたあのティアンが、目標を持って頑張ろうとしている。


ボクはそれで満足だ。


胸を張って言えるさ、ボクは王女様の親友なんだって。


彼女は依存から、ボクは同情から、二人の関係はいびつなはじまり方をした。

だけどいま、彼女は自立しボクにとってかけがえのない存在になった。


「約束、守れなくてごめんなさい。それでもわたくし、イリーナにはそばにいてほしいの」


結局、伝えたい言葉は言えず終いになるけれど、きっとこれで良かったんだ。

彼女の選択をボク自身が尊いと感じている。そんな気高い彼女をボクは好きになったんだから。


「水臭いな、ボクたちは永遠に最高の友達だよ」



ボクはねティアン、誰よりもキミを愛しているよ――。


お姫様はいつもみたいに優しく笑っていて、だけど涙が一滴、彼女のほほを伝っておちた。


「わたくしもアナタが大好きよ、イリーナ」


ボクたちは永遠の友情を誓って陽だまりの中で笑い合う。


たとえどんな未来が訪れたとしても、その風景はボクらにとって一生の宝物だ。





『殺戮コロシアムでボクは序列七位に恋をする』終幕

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