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閑話2 シストルムとメニト

 シストルムは、振って音を出すラットル(打楽器)の一種です。持ち手の上にあるU字型の枠に金属製の横棒が入っており、シストルムを振ると横棒がスライドして音が鳴ります。横棒にはリングや輪が付けられる事もあります。儀式や祭など宗教的な場面でよく使われました。U字枠の部分にハトホル女神の顔が付いているナオス(聖堂)型の「セシェシェト型」(ナオス形シストルム)と簡素な形のU字枠を持つ「セケム型」(アーチ形シストルム)の2種類があります。


 アーチ形シストルムは、焼き物の一種ファイアンスか、ブロンズでできています。ファイアンス製アーチ形シストルムの一例は、メトロポリタン美術館の公式サイトで写真付きで見られます:

17.190.1957、プトレマイオス紀元前300~100年、https://www.metmuseum.org/art/collection/search/550893


 ブロンズ製アーチ形シストルムとしては、末期王朝時代紀元前664~332年に年代づけられる大英博物館所蔵のもの(EA36310)があります:

https://www.britishmuseum.org/collection/object/Y_EA36310


 ですがどちらかと言うと、ギリシャ・ローマ時代紀元前332年~紀元後395年のアーチ形シストルムの方が多く今日まで残存しています。イシス女神信仰が地中海地方で広まったローマ時代には、エジプト国外でもブロンズ製アーチ形シストルムが用いられました。その一例がニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵のもの(19.5)です:

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/545681


 ナオス形シストルムの一例としては、同じくメトロポリタン美術館所蔵のもの(17.190.1959)があります:https://www.metmuseum.org/art/collection/search/549513


 このナオス形シストルムは、我らがトトメス3世の時代紀元前1479~1425年よりも大分後の第26王朝ウアフイブラー王治世紀元前589~570年のものですが、長期にわたってナオス形シストルムの形はほとんど変わっていません。


 同じようなナオス形シストルムを持つ彫像を本作にも登場するセンエンムウトが作らせています。センエンムウトは跪いており、身体の前にデフォルメされた大きなナオス形シストルムを持っています。そのような彫像がメトロポリタン美術館48.149.7とミュンヘンのエジプト博物館ÄS 6265に所蔵されています:

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/544469

https://www.bavarikon.de/object/bav:SMA-OBJ-00000BAV80011835?lang=en


(2)メニト

 メニトは、ビーズを繋げたネックレスの束を板状の物でまとめた、何重連ものネックレスですが、振って音を鳴らす打楽器としても使われました。よくメナトとも呼ばれます。


 トトメス3世の曾孫のアメンヘテプ3世治世紀元前1386年~1349年の保存状態のよいメニトがニューヨーク・メトロポリタン美術館に所蔵されています(11.215.450)。これは同美術館が1910/1911年の発掘シーズンにアメンヘテプ3世の王宮のあったルクソール西岸マルカタで発見したものです。美術館の公式サイトで写真付きでご覧になれます:

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/544509


(3)まとめ

 シストルムもメニトも楽器としては宗教的なコンテキストでのみ使われ、主に女性が演奏しました。シストルムは、神々と繋がったり、喜ばせたり、鎮めたりするのに用いられました。メニトも神々を鎮めるのに使われましたが、復活再生と生殖にも関連付いています。


 シストルムとメニトには、よく一緒に用いられました。例えば、トトメス3世よりも150年ほど後の第19王朝セティ1世のために葬祭殿がエジプト南部アビドスに建造されたのですが、その壁面レリーフにもイシス女神がシストルムとメニトを同時に手に持っている描写があります。


 そのイシス女神のレリーフは、下記のサイトの記事の1枚目の写真で見られます:

https://historicaleve.com/temple-of-seti-i-abydos/


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