収穫祭に向けて、今日もダンス教室が開かれている。
ケーリィンも年少者たちへの講師役を務めつつ、楽団の演奏に合わせて皆で踊る際には、ディングレイと共にその輪に加わった。
当初は気恥ずかしさが先行していたものの、今では彼との踊りも、収穫祭を心待ちにする理由の一つとなっている。
「教えるのも楽しいですけど、やっぱり踊る方が楽しいですね」
「そりゃ良かった」
ケーリィンがはにかめば、ディングレイも楽しげに目を細めた。
密着した状態でのこの表情は、なかなかの破壊力である。たまらず、ケーリィンは頬を赤く染めた。
「ギャー! ごめっ、エイルちゃん、ごめっ……ああああぁーっ!」
そんな、小さなときめきを吹き飛ばす断末魔の叫びが、だしぬけに後方から聞こえて来た。
踊りは止めずに二人揃って視線を向けると、エイルに見事な大外刈りを決められている、レーニオの無残な姿があった。
また、彼女の足を踏んでしまったらしい。
ダンス教室ではお馴染みとなった光景に、誰も動きを止めない。哀れっぽい悲鳴にも、もはや慣れてしまったのだ。
床に倒れるレーニオの尻へ、鋭い足蹴りをお見舞いするエイルの姿に、ディングレイは遠い目となる。
「さすがは、あのオッサンの子だな。良い蹴りだよ」
どこか達観した口調に、ケーリィンもつい噴き出した。
「エイルさん、レーニオさんを投げるのも上手ですよね。身長差も、ものともしませんし」
「確かに――というかあの馬鹿、伴奏は良いのか?」
そう、レーニオはあれでも楽団のメンバーなのだ。
「今さらですよ、そんなの。レーニオさんは、女の子が大好きですから」
肩をすくめたケーリィンを、ディングレイがまじまじと見つめる。
なんだか、珍獣でも眺めるような目だ。
「あの……レイさん?」
その視線に少し、ケーリィンが居心地の悪さを感じていると、
「悪ぃ。いや、あんたも言うようになったな、と思って」
苦笑と共に、こつんと額が重ねられた。
「生意気、でしたか?」
不安が首をもたげるが、すぐに笑い飛ばされる。
「んなわけねぇよ、まだお上品なぐらいだ。それより、ちょっと嬉しくてな」
「え?」
「憎まれ口叩けるくらい、ここに溶け込んでるってことだろ? だから安心した」
不意に優しい眼差しと声で、ケーリィンを包み込んでくれるから。
だから彼が好きなのだ、と自覚すると同時に気恥ずかしさが決壊し、とうとう彼女はうつむいた。
「おい、リィン。顔上げろ。つむじしか見えねぇぞ」
「……無理です。死んじゃいます」
「はぁっ?」
しかし、心の機微に疎い実年齢八歳児は、困惑気味の声を上げるだけだった。
「ばか」
ちろりと彼を見つめ、ケーリィンはつい悪態をつく。