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おまけ2:ダンス教室

 収穫祭に向けて、今日もダンス教室が開かれている。

 ケーリィンも年少者たちへの講師役を務めつつ、楽団の演奏に合わせて皆で踊る際には、ディングレイと共にその輪に加わった。

 当初は気恥ずかしさが先行していたものの、今では彼との踊りも、収穫祭を心待ちにする理由の一つとなっている。


「教えるのも楽しいですけど、やっぱり踊る方が楽しいですね」

「そりゃ良かった」

 ケーリィンがはにかめば、ディングレイも楽しげに目を細めた。

 密着した状態でのこの表情は、なかなかの破壊力である。たまらず、ケーリィンは頬を赤く染めた。


「ギャー! ごめっ、エイルちゃん、ごめっ……ああああぁーっ!」


 そんな、小さなときめきを吹き飛ばす断末魔の叫びが、だしぬけに後方から聞こえて来た。

 踊りは止めずに二人揃って視線を向けると、エイルに見事な大外刈りを決められている、レーニオの無残な姿があった。

 また、彼女の足を踏んでしまったらしい。

 ダンス教室ではお馴染みとなった光景に、誰も動きを止めない。哀れっぽい悲鳴にも、もはや慣れてしまったのだ。


 床に倒れるレーニオの尻へ、鋭い足蹴りをお見舞いするエイルの姿に、ディングレイは遠い目となる。

「さすがは、あのオッサンの子だな。良い蹴りだよ」

 どこか達観した口調に、ケーリィンもつい噴き出した。

「エイルさん、レーニオさんを投げるのも上手ですよね。身長差も、ものともしませんし」

「確かに――というかあの馬鹿、伴奏は良いのか?」

 そう、レーニオはあれでも楽団のメンバーなのだ。


「今さらですよ、そんなの。レーニオさんは、女の子が大好きですから」

 肩をすくめたケーリィンを、ディングレイがまじまじと見つめる。

 なんだか、珍獣でも眺めるような目だ。

「あの……レイさん?」

 その視線に少し、ケーリィンが居心地の悪さを感じていると、

「悪ぃ。いや、あんたも言うようになったな、と思って」

苦笑と共に、こつんと額が重ねられた。


「生意気、でしたか?」

 不安が首をもたげるが、すぐに笑い飛ばされる。

「んなわけねぇよ、まだお上品なぐらいだ。それより、ちょっと嬉しくてな」

「え?」

「憎まれ口叩けるくらい、ここに溶け込んでるってことだろ? だから安心した」

 不意に優しい眼差しと声で、ケーリィンを包み込んでくれるから。

 だから彼が好きなのだ、と自覚すると同時に気恥ずかしさが決壊し、とうとう彼女はうつむいた。


「おい、リィン。顔上げろ。つむじしか見えねぇぞ」

「……無理です。死んじゃいます」

「はぁっ?」

 しかし、心の機微に疎い実年齢八歳児は、困惑気味の声を上げるだけだった。

「ばか」

 ちろりと彼を見つめ、ケーリィンはつい悪態をつく。

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