ケーリィンとディングレイの希望に沿って、昼食兼歓迎会はお肉とお芋尽くしだった。
調理の手伝いをケーリィンは申し出たが、主賓なのだから、とロールドにやんわり断られた。
お皿に山盛りの (しかも栄養価より欲望を優先した)料理も、時間を気にせずのんびり食事を楽しめるのも、彼女にとって初めての経験だった。
酒も手伝い、男二人はご機嫌である。
舞姫は原則飲酒が厳禁のため、ケーリィンは代わりにぶどうジュースを楽しむ。シャフティ市内にある、ぶどう農園で作られたというジュースは、すっきりとした甘さで美味しかった。
酒飲み二人のおかげで、十三時頃に始まった食事会はそのまま夕方過ぎまで続いた。
その頃にはロールドもケーリィンの扱いを覚え始めたようで、呼び方が「舞姫様」から「ケーリィンちゃん」に変わっていた。
「ケーリィンちゃん、もうお代わりはいらんかね? 果物もあるよ」
「はい、ありがとうございます」
口調も、完全に孫に対するそれだ。だが、年長者を侍らせる趣味も技量もないので、その気安さが嬉しい。
嬉しいが、それと眠気は別だった。
寝台列車では、初めてばかりの環境で気持ちが落ち着かず、熟睡できなかった。
少なくとも二人はケーリィンを邪険にしていない、と分かったことへの安堵も手伝い、睡魔が忍び寄って来ていた。
だんだん、目も開けているのが億劫になる。
半ば意識の飛んでいる彼女に気付いたのは、向かいに座るディングレイだった。
「船漕いでるな。ケーリィン、もう寝るか?」
「でも、お片付けが……」
「んなもん気にすんな。俺と爺さんでやるから」
「そんな……せっかく、歓迎会、を開いてもらったのに」
食い下がるも、頭はふらふら揺れている。律義過ぎる新米舞姫を、ロールドは優しく見つめる。
「気にせずに休みなさい。ワシらこそ、浮かれてお前さんを振り回してしまって、すまんのう」
「ううん、わたしも楽しかった、です……」
目は半分閉じているが、それでもなんとか笑い返す。
前後左右に揺れる彼女の椅子を引き、ディングレイが支えて立たせる。
「部屋は二階だ。ちゃんと階段上れるか?」
「だい、じょぶ」
「うん、大丈夫じゃねぇのは分かった。ちょっとじっとしてろよ――」
「わっ」
階段は上れない、と即断した彼に抱きかかえられる。
降りると言う暇も与えられずに、赤子のごとく縦抱きにされたまま、二階へ運ばれた。
普段であれば羞恥心待ったなしだが、脳の半分以上が寝ているため。
(これ、とっても楽だわ)
ケーリィンは素直に運搬技術に感嘆しつつ、うつらうつらと一時まどろんだ。衣服越しに感じる人肌が温かく、これもまた眠気を誘ってきた。