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第9話 大海の蛙知らず

 ドンドドン!ドンドドン!


 まるで打ち鳴らす大太鼓のように、閉じ込めた箱の内部から打撃で脱出を試みる龍姫スロットル。


「あー、何度も言いやすがドラゴンが踏んでも壊れない合金製、抵抗しても無駄に体力を消費するだけっすよ」


 彼女を閉じ込めた功労者、“千罠”のディエゴが余裕綽々と言った表情でそう言う。


 ……バキッ!


「なっ、あの合金の壁をぶち破ったですかい!?」


 先程までの済ました態度は何処へやら、途端に慌て始めるディエゴと


「ふん。こんなガラクタで閉じ込めようなんて、わっちも舐められたもんだね」


 罠の箱に空いた穴をこじ開け、中から姿を見せる龍姫。 


「さあ”筋金入り”、今度はどんな奇策を使ってくるんだい?」


 ゲコ。


「げ、げこおぉぉぉ!?……きゅうっ」


 あ、龍姫が気絶した。


 僕が用意したのは、その辺で拾ってきた蛙。それを手のひらに載せて彼女に見せただけである。

 実は龍は蛙が苦手、という嘘のような伝承を僕がまだ帝国に聞いたことがあるのだ。


 言い伝えによれば昔々、大ガエルと戦った龍が勝利した後にその身体を丸呑みし、喉に詰まらせて死亡したから、ということらしい。

 半信半疑だったが、まさかここまで効果的だとは思わなかったよ。



「ふん、わっち一人を捕獲したぐらいでいい気になるなよ」


 ということでスロットル姫、今度は体に縄を巻き付けて拘束中。

 これは力を入れると逆に締め付けが強くなる特殊素材で、今度こそ脱出は不可能である。


 しかし気になる物言いだな。

 確かに”上洛の儀”に用意した切り札が彼女一人だけとは思えない。

 つまり仲間がいると言うことか。なら、その辺りを自白させ……


 ……るまでもなかった。

 空が暗くなり、僕らが上空を見上げると。


 そこには宙に浮かぶ長細い物体、白い体毛を持つ龍がそこに浮遊していた。


「わっちの相棒、”大海シグラ”だよ」


 あの巨体で空を飛び、それが我々に突っ込んできたらひとたまりも無さそうだ。おまけに。


「弓兵、撃てっ!!」


 という合図に僕の引き連れてきた兵士から一斉に矢が放たれるが、その体に到達する前に見えない壁のようなもので弾かれる。


「あの龍は巨体を魔法で浮かせていますわ。そして、その浮遊の応用で近づく物体を弾いているのですわ」


 と解説する鑑定スキル持ちのイヌカ。

 ふむ、浮遊スキルか。そう言えばうちにも同じスキル持ちがいたけど。


「いやいや規模が段違いであります!私に何かされようとするなら無理でありますよ?」


 そのスキル持ちの蜂系獣耳族、ロコクはそう言って全力で協力を拒否する。

 でもロコク……を……するのは?


「やったことはありませんが可能だと思うであります。しかし……」


「何をするつもりかしら?

 ああちなみに、わっちと同様に蛙を近づけても大海は動揺しないわよ?サイズが違いすぎるもの」


 まあそうだろう、もしそれが可能で”上洛の儀”でも蛙に屈服する聖龍とか見たくないぞ絵面的に。


「じゃあ、どうす……ええっ!?」


 僕の策に、目を見開いて驚く龍姫。うん、効果はてきめんだ。 



















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