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第8話 と遭遇した場合

 聖龍を打ち負かしその力を認めさせる事で、この大陸の覇者になり得る。

 そんな儀式、“上洛の儀”を行おうとするスルガン教国の野望を阻止するため、僕ドンカ・ダオは所属するオワリノ公国の王、親類という設定のナブノガ・ダオの命を受けて出陣しようとしていた。


「でもお兄様、阻止するどころか、もしうっかりドンカ様が聖龍に認められてしまったらどうなさいますの?」

「クカカカ、その時はワシに運がなかったと言う事よ。

 大人しくこちらから軍門に降ろう」


 そう尋ねるイヌカに、魔狼王は躊躇なくそう答える。


 いや、全力で要らないですそんな地位。

 まあ万が一にも、そんな事態にはならないと思うけど。



 さて今回の使命で与えられた兵はボクっ子猿娘チロキーの部隊を含めた俊足自慢の兵士が約五十名、元イシシシ盗賊団と力自慢の兵士が同じく五十名ほど、そこに耕国と工国から出向してきた兵士が各五十名づつと、計二百名あまりの総数。

 数千の兵を率いた国同士の戦いに比べたら見劣りするが、それでもこの兵数は僕の身に余る、とは言え。


「情報によると教国は龍族を連れてきているらしい。

 あの一族は一人で兵百人に相当する実力の持ち主だよ」


 とチロキーが言うのだから、この人数でも正直心許ないくらいである。果たしてどんな化け物を相手にするやら。



「わっちが化け物?ずいぶん酷い言い方だこと」


 不意にそんな声がして振り返れば、そこには鹿のような角を生やした獣耳族の女性が一人。


「いつの間に!?」

「プリンス様には指一本たりとも触れさせねえだよ」


 ボクっ子猿娘チロキーと猪乙女ノノシはそう言うと、いきなり現れた女性と僕の間に割って入る。



「いやそう警戒しなさんな。

 わっちはただ、様子見というか挨拶しに来ただけだから」


 あ、挨拶?


「ドンカさん、その方はスルガン教国の王の息子の婚約者、スロットル様ですわ」


 そう横から口を挟むのは、当然のようについてきた鑑定能力スキル持ちのイヌカ。


「そしてその能力は……ダメですわね、魔具アイテムによる認識阻害で私のスキルでは読み取れないようです」

「ふふん、残念だね。そう簡単にわっちの素性は探らせないよー」


 何が楽しいのか、ご満悦な笑顔のスロットル嬢。

 ただ彼女が龍族であるなら、おそらく今回の上洛の儀の鍵となる人物だろう。

 用心は必要だが、逆にここで無力化出来れば今後優位に働くのは間違いない。


「へー……どうやら、“毒入り”の使えない配下とは違うようだね」


 え、何の話?


「ううん、こっちの話。でも、そうなると困ったなあ」


 困った?何が。


「うん、ちょっと挨拶のつもりだったけど……もう少しだけ遊びたくなっちゃったかなあ」


 そう言うと彼女は、何かを“解放”する。


 ……くっ、なんだこの強烈な威圧感は!

 普通の人間が出せるレベルを遥かに超えた、まるで猛獣だ。


「私のお兄様の全力と互角ぐらいのレベルですわ」


 とイヌカ。

 いやこれと互角って凄いな、うちの殿様。


 それはさておき……チロキー、ノノシ。作戦”甲“だ。


「了解だよ、ドンカ!」

「プリンス様の仰せのままに!」


 と二人の戦乙女がうなづくと、チロキーがノノシを肩車する体勢になる。


「え、何それ」


 と目を見開いて驚く、何なら若干呆れてるまである敵の龍姫。確かに筋骨隆々の大女を小柄な女性が支える大勢で、見た目はかなり奇妙だ。だが。


「……なっ!?」


 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで二人に接近され重い攻撃を受ける事で龍姫の表情は一変する。

 二人のスキル、“超俊足”の脚力に“剛腕”の繰り出す攻撃。ほんの少しだが、龍姫の体が後ろに後ずさる。


「おっ、効いてる効いてる」

「よし次弾行くよ!」


 二人はそう言うと一旦距離を取り、再びスキルで突進する。


「くっ、これは」


 そして離れて突進してを繰り返すうち少しづつ少しづつ、彼女が後退していく。


「確かに強い攻撃だけど、この程度じゃわっちは倒されないよ?」


 ああ、元から倒すつもりなんてない。

 ただだけだ。


「それはどう言……わわっ!」


 ある程度押し込んだ所で、下がったはずみで踏んでしまったボタンを起点に、今度はノノシの部下“千罠”ディエゴの仕掛けたトラップが発動する。

 そして地面から箱のようなものが飛び出して、龍姫を中に閉じ込める。


「帝国屈指の合金でドラゴンが踏んでも壊れないって触れ込みだ。脱出はまず不可能でしょうよ」


 罠のエキスパートであるディエゴはそう言って胸を張るのだった。

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