狛が二人の前に立つと、猫田と
その傍らで、京介は神奈の体調を診ていた。怪我自体はそれほどでもないのだが、三つもの神通力を同時使用して戦ったのは、相当な負荷がかかったらしい。精神面でかなりのダメージを負っているようだった。京介は
「……君は、しばらく戦わない方がいい。これ以上負荷をかけすぎると脳が深刻なダメージを負う可能性がある。無茶をし過ぎだ」
「そ、そんな…!?でも、狛一人に任せるのは……」
「大丈夫、俺も戦うさ。……とにかく治療が終わったら、君はナツさん達の所まで下がるんだ。いいね?」
「は、はい……」
そう言われてしまったら、神奈にはそれ以上食い下がる事は出来そうにない。実際には、神奈自身も自分の限界が近い事を理解していたからだ。
京介の
最初に動いたのは、猫田だった。どうやら、大型の猫化をするつもりはないらしく、人型のままで狛に襲い掛かって来る。狛は複雑な思いを抱きつつも、猫田と戦うことに迷いはない。猫田の突撃にも、真正面から受けて立つつもりだ。
「シャアアアアアッ!!」
猫田は人型のままでもその鋭い爪を発現させることが出来る。一本一本が大型のナイフのように研ぎ澄まされていて、力が爪の先まで漲っているかのようだった。飛び掛かりながら左腕を振りかぶり、狛を引き裂こうとする一撃を放つ。狛は冷静に一歩前に出て、爪ではなく手の部分を右腕で受け止めた。
「んんんんっっ!!」
ズシンと重い一撃を受けると、狛の足が地面に数センチめり込んでいた。そのまま力づくで押し込もうとする猫田に対し、狛は負けじと全身に霊力を循環させて耐えている。一瞬、互角に見える状態だったが、徐々に狛が押し返し始めているのは、決して見間違いではないだろう。
猫田がすかさず空いていた右手にも爪を生やして追撃をしようとするも、狛はそれを先読みしていたのか、素早く左手で手首を掴んで動きを止める。すると、狛が動けなくなった隙を突いて、
「させるかっ!」
そこに飛び込んで
「狛ちゃん、こっちは任せろ!猫田さんを頼む!」
「はいっ!」
背中合わせに声をかけて、今度は京介が少し離れた
「おおおおおっ!!」
まさに
「ぬうううううッ!」
対する
「な、なんだ…?京介のやつは攻撃しているのか?早すぎて全然見えんぞ……」
「あのお爺ちゃん相手に反撃させないほど打ち込むなんて…アイツ本当に人間……!?」
互いに一歩も譲らぬ攻防の最中、京介の方がじりじりと優勢に押し込み始めていた。元々、
(このまま押し切れれば……いけるか!?)
しかし、当の京介は自身の有利を認識しながらも、楽観的な観測が出来ずにいた。京介は補助魔法によって、自らの身体能力を大幅に強化し底上げして戦っている。今風に言えば、バフがかかっている状態だ。その為、本来の能力も相まって、常人とは比較にならないパワーとスピードを発揮しているのだが、問題はパワーの方である。
これまでの打ち合いで、単純なパワーで言えば
刀と刀のぶつかり合いで、文字通り火花散る攻防が続く中、遂にその瞬間が訪れた。京介による壮絶な連撃により、京介の右袈裟斬りが
「お、お爺ちゃんッ!!」
「入った……!…何っ!?」
そのまま倒れ込むかに思われた
「くぅっ!こ、これが彼の真の姿…なのか!はっ?!ぐぁっ!」
吹き飛ばされないように踏ん張っていた京介の身体に、岩のように大きく硬く握り込まれた拳が牙を剥いた。咄嗟に刀で防いだが、それでも威力を完全に削ぐ事など不可能だ。たった一発で、京介は10メートル以上吹き飛ばされて、降魔宮の壁に激突した。
「っ、はっ……な、なんてパワー、だ…っ!」
その余りの威力に、京介の肋骨が数本と左腕の骨が折れてしまっていた。激痛に顔を歪ませ、頭を振って揺れる視界を何とか戻そうとするが、脳震盪も起こしているのかすぐには元に戻らない。そこへ、尋常ならざる殺意を持って鬼と化した
「ああ!?」
壁際で後がない京介の前に立った
「ぐうっ……!」
跳んで避けた衝撃により、折れた肋骨と肩から激痛が走って思わずそのまま倒れ込みそうになった。だが、それではもう次の攻撃は避けられない。どうにか踏み止まった京介は、自身に
「お、お爺ちゃんがあの姿になったら……もう人間なんかが勝てるわけない…なのに、アイツまだやる気なの……?」
「や、やはり私も加勢を……く、う…!」
「止せ、今のお
危機を感じて動こうとする神奈の動きを、ナツ婆が制止する。ただ、そうしなくても神奈は少し動いただけで吐き気と頭痛に見舞われて、とても戦える状態ではない。よろめく神奈を支えつつ、ナツ婆は息を呑んで、京介と
京介は右足を前に一歩出して少し足を開き、やや前傾姿勢になって
そうして、まだ無事な右手で、刀を水平に構える。
「片手じゃあさっきのような連打は出来ない…ここは一発に賭けるしか、ない!」
ゆっくりと自分に向かってくる