「ずいぶんとスゲー数集めてきやがったじゃねぇか。…大したもんだぜ、槐の野郎、どこからこんな大量の妖怪を集めやがったんだ?」
猫田はぐるっと周囲を見回して呟いた。確かに、屋敷を囲むほどの妖怪達がこの場に集結している。その大半が、猫田の知らぬ未知の妖怪ばかりなのが気になる所だが。
(つっても、半分くらいは人間の死体、か?コイツらを集めてきたのは……)
ちらりと視線を向けたその先に居るのはレディである。レディはいつもの紙タバコの煙と共に、霊気と妖気が入り混じった禍々しい力を纏っていて、およそ人間とは思えない気配をしていた。その隣に立つ八雲にも気付いたが、八雲の方は何が可笑しいのかニヤニヤとしていて少々気味が悪い。出来れば相手をしたくない所だ。
(あれは…確かレディとかいう、狛を狙ってやがった女か?あの女は死霊使いだったはず…ってことは、死体の方はアイツの手駒か。あとは八雲だが、あっちはどうでもいいな)
妖怪達に混じって、見るからに死体そのものといった風貌の、所謂、ゾンビ達も立ち尽くしていた。死体である彼らから意志を感じるわけではないが、
流石にこれほど圧倒的な数の差を見せつけられると、猫田も少し気が滅入って来る。神野と八雲という、確実に厄介な相手を前にして、更に邪魔な雑魚がこれだけいるのは面倒以外の何物でもない。一気に蹴散らす算段を付けようとしたところで、
「ようも下らぬ者達で我が空間を汚してくれたものよ。しかし、この程度で勝った気になっているなら、ちゃんちゃらおかしいぞ。…者共、出合え出合え!この不届き者共を蹴散らせぃッ!」
「おお…!すっげぇな。壮観だぜ、こんな連中を忍ばせてたのかよ。やるなぁ」
これほどの味方がいるなら、猫田も
「さぁて、身の程を知らぬ愚かな人間共に思い知らせてやろうではないか。魔王と呼ばれし我が力と、その儂が見出せし配下の実力をな!……行くぞッ!」
そして、戦いの
「神野ッ!覚悟!!」
無手で己の肉体を武器として戦う神野に対し、
「ヒヒヒ…ヒャハハハハッ!」
対する神野は正気を失った状態で、狂気を孕んだ笑い声をあげながら、
「ぐぅッ!?」
メリメリと音を立てて、
「神野っ!テメェ!!」
即座に大型の猫に変わった猫田が追い付き、隙だらけな神野の身体へ、右の前足で殴りかかろうとした。
「おっと、猫又。お前の相手は俺だ」
しかし、それを邪魔したのは八雲である。彼が
「ちっ!?八雲か!」
猫田は瞬時に氷で盾を作り、
「久し振りだな、覚えていてくれて嬉しいよ。女房も喜ぶだろう…お前を討ち取ればな」
「へっ!猫好きの女じゃなかったか?だったら、俺が無傷で勝つ方を喜ぶだろうよ!」
軽口を叩きながら、二人が睨み合う。猫田は氷雨の力で氷を操る術がパワーアップしており、それによって今の
「ククッ!悪いが女房は猫よりも更に俺を愛してくれているのさ。お前の首は手土産にするだけで十分だ!」
「ああ、そうかい!」
猫田の頭上から、幾重もの
「もらったっ!」
「さぁ…それは、どうだろうな?」
猫田の爪が八雲に当たった瞬間、猫田の左前足に大きな
「なっ、なに!?なんだ、今のは…っ!?」
「クククク…!黒死檀の枝か、大したものだ。もっと早く使うべきだったな…!」
黒死檀の枝……それはかつて、レディが
「フー…ここに狛がいなくてよかったわ。これで今度こそ私が勝つ。けれどそれは、もっとdramaticな場所でなくちゃあ…ね」
そう呟くと、レディは指先をパチンと鳴らしてみせた。すると、
「なんだ…?何が起きてやがる?!」
それは、人間の死体と妖怪の死体を掛け合わせ、レディの霊力で強化して新たな怪物へと造り替えた恐るべき兵士達であった。妖怪の死体だけでなく、敢えて人間の死体も使用しているのは、人の武器を使うためだ。それは技術であったり道具であったりと様々だが、鍛え上げられた2万体の戦士のミイラには、そうした戦う為の技術が染み込んでいた。
妖怪達の世界においてその大半は、元々持っている力の優劣で全てが決まるものだ。それゆえに、元が人間である天狗達のような一部の妖怪を除けば、鍛錬をして自らの力を高めることなどしない。
妖怪に比べて生物として非力な人間達が妖怪に対抗し、彼らに勝利できるのは、人が自らを鍛え成長する存在だからである。成長することで弱点を無くし、人の知恵と時に和をもって力を併せ、強くなる。それは妖怪達には真似できない性質なのだ。
既に死体であるゾンビ達が成長する事はないが、生前に鍛え上げられた戦士達であれば、その力は常人の死体よりも遥かに強い。レディは黒死檀の枝を使い、自らの力を強化して、戦士達のミイラからその全てを引き出す事が出来るようになった。その上で、妖怪の死体を混ぜ合わせることで更なる基本性能の底上げをして、強力な兵士に生まれ変わらせたのである。
「バカなっ…!?」
猫田が周囲を見渡した時、戦況は圧倒的にレディ達へと傾いていた。倒したはずのゾンビや妖怪達が起き上がり、より強くなって襲い掛かって来る…その驚くべき事態に、
「お、お爺ちゃん…っ!?」
「音霧……!?逃げよ!」
配下の妖怪達に混じって戦っていた音霧は、傷つきながらも
「ちぃっ!!」
猫田は氷嵐を呼んで八雲の動きを抑えると、その間に音霧の元へ飛んで彼女を捕まえようとしている妖怪達から庇い、蹴散らしていった。だが、もはやまともに戦えるのは猫田だけである。神野と相対して余裕のない
「おい、音霧!お前は逃げて、助けを…狛を呼んで来い!」
「え?こ、狛って…人間?そんなヤツ……!」
「いいから行け!こうなったらアイツに頼るしかねーんだ!俺が時間を稼いでやる!俺の名を出せば必ず力を貸してくれるはずだ、行けっ!」
「う、うん…解った!」
猫田が炎で道を作ると、その先にはぽっかりと空間に穴が開いていた。
「ふん、あの子は狛へのMessengerにしましょうか。きっと、気に入ってくれるはずね……フフフ、精々しっかりお逃げなさいな」
猫田にそれを取り除く余裕はなく、音霧が逃げ去った後、猫田は抵抗空しく捕まってしまった。こうして、猫田と