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第40話 占いパニック!?

「おい、聞いたか?C組の追手門の奴。変な病気でぶっ倒れて入院したらしいぜ」


「知ってる知ってる。なんか白髪になって10円ハゲがあちこちに出来てるらしい。肌もシワシワで爺さんみてーになっちまったってよ。…罰が当たったんだよなぁ、アイツクズだったし」


 クラスメイトの話題は、そんな話で持ち切りだ。


 狛が文車妖妃を撃退したことで、追手門は解放されたものの、彼はその噂通り見るも無残な姿になってしまっていた。

 文車妖妃に捕まった際、相当な精気を吸われてしまったのが原因らしいが、ご自慢のルックスは見る影もなくなり、あれではもう女遊びなど出来ないだろう。


 これを機に反省し、外見ではなく内面を見てくれる女性に出会えればいいが、果たして彼がどこまで生まれ変わる事が出来るのかは不明である。


 少しだけ追手門に同情する気持ちを持ちながら、狛は心の中で手を合わせている。


 そんなある日の事だった。


 狛と神奈、それに玖歌が先に学食で昼食を摂っていると、興奮した様子のメイリーが合流してきた。鼻息は荒く、手には愛読する雑誌を持っている。何かあったのだろうか?それを聞く前に、席に着いたメイリーは開口一番に「大ニュース!」と言い始めた。


「何々?どうしたの?」


「だからー!大ニュースなんだって!ね、コレ見て!」


「…ごめん、私見えないや」


 メイリーは雑誌を机に置き、指差しているが、相変わらず狛の前には大量のパンが積まれているので、見る事が出来ない。どういう趣向か、今日はパンで姫路城が築かれている。玖歌は「食べにくくないの?」と疑問を呈すると、狛は涼しい顔で「すぐ食べちゃうから、大丈夫!」と少々ズレた返答をしていた。


「あー、じゃあ、読むからコマチは聞いてて!えっとね、『占い界の超新星!天野Vicoが、あなたの街に!?スペシャルゲリラ占いイベント開始!』だって!」


「占いか…私はあまり興味ないな。でも、メイリーはこういうの大好きだったな、そう言えば」


 いかにも神奈らしい発言だが、以前の神奈ならばもっとバッサリ言い伏せていただろう。しかし、妖怪の存在を知り、自身も鬼の血を引いていると認識した神奈は、少しだけスピリチュアルなものにも興味を持ち始めているようだった。

 ちなみに、パンで隠れている狛の表情は解らないが、玖歌もそれほど興味はなさそうである。


「アタシもそんなに…でも、メイリーがそれだけ興奮してるってことは、そのナントカって占い師がこの街に来るってこと?」


「そーなの!ワタシ、この天野Vico先生の大ファンでさー!実はこの雑誌って、ワタシのお母さんがヘンシューしてるんだけど、そのツテで教えて貰ったんだー!…ここだけのハナシ、今度の週末に駅前の占いの館に来るんだって!」


 興奮冷めやらぬ様子のメイリーだが、最後の情報はさすがに小声で囁いている。学食は人も多いので当然だが、そもそもそんな極秘情報を、人の多い所で話すべきではないと、メイリーを除く三人は思った。


「私もよく知らないけど…もぐもぐ、その天野Vicoさんって有名な人なの?」


「有名なんてもんじゃナイよ、コマチー!天野先生はね、預言者って言われるくらい占いが当たるって言われてる人なの!ちょっとでもワルイ結果が出たら、一週間はヒキコモリになっちゃう人だっているんだよー?!」


「…そんなに当たるんだったら、引き籠っても無駄じゃないの?」


 もっともなツッコミである。だが、そんな玖歌の言葉も今の興奮したメイリーには通じないようだ。よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、ニヤニヤと笑みを浮かべて、玖歌の肩をつついている。


「フッフッフー!そこが天野先生のイイトコなんだよねー!どんなワルイ結果でも、必ず回避する方法を教えてくれるの!やっさしーよね~、そーゆーとこもダイスキ!」


 メイリーがここまであからさまな好意を見せるのは滅多にない事である。元々テンション高めな性格をしているが、今日はそれに輪をかけてハイテンションだ。普段とは違う彼女の勢いに、神奈は苦笑し、玖歌はやや呆れ、狛はパンを食べるスピードがやや遅くなっていた。


「それで?私達にその話をしたって事は他にも何か言いたい事があるんじゃないか?メイリー」


「お、神奈ちゃんスルドイねー!…ってわけでサ、皆でいかない?今度の週末、占いの館に」


 メイリーの提案は、ある意味予想通りのものだ。話の流れからして、そう来ると解っていたので、三人共に特に驚きはない。狛も神奈も、メイリーは大事な親友だ、彼女の提案を拒む理由はない。問題は、玖歌である。

 彼女は学校のトイレに潜む存在であり、その生活スタイルでは休日にトイレから出る事はない。本来であれば、平日も別にトイレにいてもいいのだが、彼女が学生として顔を出しているのは、ひとえに食事の為である。


 人間の生気という、所謂、活力のようなものを彼女はエネルギー源にしている。それは多くの人間が生活する場であれば、自然と沸き起こってくるものであり、学校という場所の中では、生徒に紛れるのが最も効率のいい収集方法なのだ。

 とはいえ、彼女は別に学校に縛られているわけでもない。出ようと思えば学校を出る事もできるし、ごくたまにだが散策に出る事もある。

 ただ、その辺りの事情を全く知らないメイリーにどう説明するか、それがネックであった。


(占いか…妖怪のアタシに、人間の占いなんて利くとは思えないけど…明らかに狛と神奈が困ってるしね。たまには付き合ってやるか)


「いいよ、行こうか」


「いいの?!ヤッター!二人は?コマチと神奈も行くでしょー?ねえねえ!」


「あ、ああ…もちろん、いくさ。なぁ?狛」


「うん、私も大丈夫だよー。占いってどんな事するのかな?ちょっと楽しみかも…もぐもぐ」


 正直、玖歌がOKを出すとは思っていなかったので、特に神奈は驚いて少し言葉に詰まってしまった。一方、狛はマイペースにパンを食べながら、占いの後は、くりぃちゃあに皆で行くのもいいなと考えている。そもそも、休日に友達と出かけるのは久し振りだ。この所は、退魔士としての仕事があったり、仕事の反動で寝込んでいたりで、遊びに出かける暇など無かったのである。


 そして、約束の日が訪れた。



 時刻は午前10時。中津洲駅のロータリーで待ち合わせた四人は、占いの話をしながら、目的の店へ向かっていた。何を占ってもらおうかとか、どんな占いがあるのかなど、その内容は様々だ。特にメイリーは、恋愛運が気になるようで、運命の相手について聞くんだと息巻いている。


「運命の相手か…私はそれより今後の人生設計プランについて聞いてみたいな」


「神奈…アンタ、なんでそんな人生相談みたいな事聞くワケ?占いってそういうもんじゃなくない?保険の相談するんじゃないんだから」


「運命の相手を聞いてもいいのなら、未来について聞くのもアリじゃないか?」


「アハハ!さすが神奈だね!良いと思うよ~」


(占いかぁ、仕事で託宣はよくあるけど、こういうのって初めてだなぁ)


 そう、狛の場合、裏稼業の儀式の一つに託宣というものがある。主に仕事の吉凶を調べたり、お告げを聞いて未来の予測をするものであるのだが、占いとはまた少し違うものだ。その為、本格的な占いを試すのは初めてであった。


 そうこうしている内に、目的の占いの館に到着する。さすがに極秘のゲリライベントだけあって、天野Vico狙いの客はおらず、占いの館は静かなものだ。


 四人は料金を支払って中に入ると、通された部屋の中は薄暗く、嗅いだことのない香の匂いが立ち込めていた。それらしい雰囲気に、メイリーのテンションは最高潮である。狛にとってはどこか子供だましな感覚もあるが、それを口にするほど野暮でもないし、空気が読めないわけでもない。


 部屋の中央には四人分の席が用意してあり、その正面には小さな机と、人の頭ほどの大きさの水晶玉がある。いかにも、と言ったアイテムにメイリーを除いた三人は笑いそうになってしまった。


 しばらくすると、机の向こうにかけられたカーテンが揺れて、奥から何者かがゆっくりと室内に入ってきた。頭からすっぽりと大きめの黒いローブを身に纏っているせいか、顔はよく見えず、男なのか女なのかも解らない。しかし、どこか妙な気配がする。

 黒尽くめの人物は、軽く礼をして自分の席に着くと、静かに口を開いた。


「ようこそ、皆さん。私が天野Vicoです。私は貴女達を待っていました。妹尾メイリーさん、蘿蔔神奈さん、戸野入玖歌さん、それと…犬神狛さんですね」


「!?」


 四人は驚き、全員で目を見合わせた。まだ誰も名乗ってはいないはずだ。下の名前は呼び合っていたかもしれないが、苗字まで解るとは思えない。しかも、天野はそれぞれの名前をしっかり本人に向かって呼んだのだ。一体どういうことなのか。


(コイツ、なんか変じゃない…?)


 玖歌は天野Vicoを名乗る人物に、わずかな違和感を覚えていたが、それが何なのかははっきりとしない。狛に相談したい所だが、妙な圧力を感じて動けもしない。

 そんな中、天野は一人ずつに話しかけ、順番に占いをしていく。玖歌に対しても、彼女が妖怪であることには気付いていないのか、特に変わった言葉はなかった。精々、「近い内に探し物が見つかりますよ」といった程度のものだ。

 そして、いよいよ狛の番が訪れた。


 狛も天野に対して不思議な感覚を持っていたが、どうも霊感がうまく働かないようである。

 天野は狛の名を呼んだあと、ややたっぷりな間を開けて言った。


「犬神狛さん。……私は、貴女にこれを伝える為に、今日ここに来たのです。単刀直入に言います、近い将来、貴女の大事な人が死にますよ」

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