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第6話 能力確認

 朝食を終えた後、俺はさっさと宿をチェックアウトして冒険者ギルドに向かっていた。

 ガスコの町は東ロッシ郡の中心都市であるため、冒険者ギルドの支部がある。クエストの受注と達成報告は各地の村にある出張所でも行えるが、報酬の受け取りや各種事務手続きは本部か支部でないと出来ないため、必然的にガスコの町のギルドには行かないとならない。追放されてからもこの町に留まっていたのにはそうした理由もあった。

 だがそれは必然的に、この町のギルド支部には冒険者が集まるということだ。当然建物の周辺にはたくさんの冒険者。周囲に視線を巡らせて、こそこそしながらギルドの建物に入っていく俺を見る、人々の視線がさっきから痛い。

 ともあれ、建物に入った俺に声をかけてきたのは、入り口で冒険者を出迎えて案内するギルドのスタッフの男性。当然、俺とは顔見知りだ。


「冒険者ギルド 東ロッシ郡支部にようこそ。ご用件は?」

「パーティー結成と能力鑑定、それとクエストの受注に」


 スタッフとは何度も言葉を交わしているが、反応がどうにもよそよそしい。おや、と思いながら俺も淡々と言葉を返すが、どうもこのスタッフ、中身が俺だと気が付いていないらしい。こんなにもレベルが上がったのだから分からなくもないが。

 果たして、スタッフは小さくうなずいてから俺へと質問を投げる。


「承知しました。ご案内は必要ですか?」

「いや、大丈夫だ」


 スタッフの問いかけに俺はすぐさま首を振った。正直、案内を受けなくてもどこにどんな設備があるか、俺はしっかり把握している。

 何しろ冒険者として活動を始めたのも、この東ロッシ郡支部からなのだ。「噛みつく炎モルデレフィアンマ」はここでパーティー登録を行ったから、正しく拠点である。

 それなのに俺は、初めてここを訪れた冒険者と勘違いされてしまったわけだ。


「気付かれないもんなんだな……」


 一抹の寂しさを覚えながらぽつりとつぶやくと、耳元でディーデリックが囁いてきた。


「パーティー結成と来たか。一人で充分だろうに?」

「いや、そういうわけにもいかない。いくら一人で活動するパーティーだったとして、パーティー登録は冒険者ギルドに行わなければならないからな」


 ディーデリックの問いかけに、俺は小さく首を振りながら答える。

 確かに俺のステータスなら、大概の魔物はあっさり倒せるだろう。物理攻撃が通りにくい魔物相手でも、魔法が使えるからどうにかなるはずだ。なんなら治癒魔法も使えるから、怪我をしたとして自力で回復が出来る。

 とは言ったものの、冒険者として活動する以上、一人であってもパーティー登録は必要なのだ。軽く説明をしながら、俺はちらと視線を動かす。


「それに、俺一人じゃどうにも回らないってことが、起こらないとも限らない」

「ほう」


 俺の視線の先には何人もの冒険者。互いに顔を突き合わせてクエストの相談をしている彼らに目を向けながら、俺はギルドの建物内を歩いていった。

 確かに今の俺なら、一人で何人分もの働きができるだろう。しかし、俺という存在は一人しかいない。例えば誰かに陽動してもらってそのスキを突くとか、俺が気を引いている間に誰かに攻撃してもらうとか、そうしたチームプレイは、俺一人では無理だ。

 もちろん、複数のパーティーが協力してクエストに当たる大規模戦闘レイドなら、他のパーティーの冒険者を当てに出来る。しかし現実問題、そう頻繁に大規模戦闘レイドが組まれるわけでもないのだ。

 だから、パーティーは組んでおきたい。というより、組まないとどうしようもない。今後の冒険を円滑に行うためにも必要な事だ。


「さて……まずは能力鑑定からだな。その方がスムーズだ」


 そうつぶやきながら、俺が向かったのは能力鑑定ブースだ。冒険者のステータスを鑑定、表示し、冒険者ギルドのデータベースに登録する魔法機械がいくつも並んでいる。

 この機械の上に立つと、俺達冒険者が「ステータス」と発した時より詳細な情報が、機械の画面上に表示される。魔法の六属性のどれに親和性が高いかとか、装備品の補正値はどうだとか。スキルについても冒険者ギルドのデータベースに登録されているなら、その効果を確認することも出来るのだ。

 魔導機械の上に乗ると、ディーデリックが物珍しそうに口を開いた。


「この機械で鑑定を行うのか」

「そうだ。ここで鑑定したステータスやスキルの情報が、冒険者ギルドに登録される」


 彼の言葉にうなずいた俺の目の前で、俺のステータスが画面上に表示される。しかし見れば見るほど人外の域だ。前に鑑定した時からどれだけステータスが上がったのかを示す数値が凄まじいことになっているし、スキルの新規取得を示すマークが大量に見える。

 これは本当に、X級規格外扱い認定も受けられるかもしれないな、と思いながら、俺は機械から足を下ろして振り返った。


「……よし。パーティー結成に行くぞ」


 次に俺が向かったのはパーティー関連の手続きを行うための受付だ。カウンターの前に並ぶ冒険者達の後ろに並んで順番を待つ。順番を待っている間、後ろに並んでいた魔法使いソーサラーの少女がしきりに俺の着ぐるみに手を伸ばそうとしてはひっこめ、を繰り返していたので、振り返ってその手を包んでやったら大層喜ばれた。

 そうこうする間に順番がやってきて、俺はカウンターの前に立つ。受付の女性スタッフが俺を見上げながら微笑んだ。


「こちらは事務手続きカウンターです。ご用件は?」

「新規のパーティー結成に来た。申請用紙を一枚貰いたい」


 これまた事務的に、簡潔に必要な事を話す。変にあれこれ突っ込まれるよりは、その方が楽だ。

 向こうも仕事だからそんなにいちいち一人の冒険者に構っていられないのだろう。すぐに申請用紙と硬筆を出してきた。


「かしこまりました。こちらにお書きください」

「ありがとう」


 礼を言って、俺は申請用紙と硬筆を手にカウンターの前から離れる。ここでパーティー名に悩んで、後ろの冒険者にイライラされる新米は多い。それなら一旦どいてやって、場所を空けた方が誰もが助かるだろう。

 カウンターの板面に用紙を置き、硬筆を握る。着ぐるみを着た状態でも硬筆を握れるのは幸いだった。


「パーティー名は既に考えているのか?」

「ああ」


 ディーデリックが問いかけてくる間も、俺は硬筆を動かし続ける。実際、既にパーティーの名前をどうするかは決めてあった。あれこれ頭を悩ませるよりも、こういうのは簡潔である方がいい。

 「虎の爪アルティリオティーグレ」をパーティー名として、構成人員はライモンド・コルリただ一名。ささっと書いて、俺はもう一度受付に並ぶ列に向かう。先程よりも列の進みは速かったので、そんなに待たないで済んだ。

 俺の差し出した申請用紙に目を通したスタッフが、こくりとうなずく。


「『虎の爪アルティリオティーグレ』、構成人員はライモンド・コルリ一名……はい、承りました。東ロッシ郡支部所属パーティーとして登録いたします。しばらくはEランク最下級となりますが、ライモンドさんがA級特上級ですのでクエストの受注にはあまり制限はありません。励んでください」

「助かる。ありがとう」


 説明を聞いて、ほっと胸をなでおろしながら俺はうなずいた。

 新しく結成されたパーティーは、どうしたってEランク最下級からのスタートになる。もちろん、今回の俺みたいにパーティーから追放されることで新規にパーティーを結成せねばならず、A級特上級冒険者がEランク最下級パーティーにいる、なんてチグハグなことも起こるのだが、クエストの受注にはパーティーランクの制限が無く、冒険者ランクのみが関わってくるものも多い。

 パーティー結成直後だからといって、薬草採取ばかりしないといけないわけではないのだ。だから俺も、この後は高ランクモンスターの討伐依頼に行くつもりでいる。

 問題なくパーティーを組めたところで、俺は再び振り返って歩き出す。まだまだギルドでやることはたくさんあるのだ。


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