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第5話 最強の戦士

 次に俺が目を覚ました時、既に朝日が昇って部屋の中に光が差し込んでいた。壁の時計を見ると午前6時前。すっかり朝だ。

 どうやら身体は、寝ている間にディーデリックがすっかり清めてくれていたらしい。未だ重たい頭を抑えながら起き上がると、ディーデリックの瞳が俺へと向いた。


「目覚めたか。問題なくステータスが書き込まれているか見てみよう。戦士、ステータスを見せろ」

「あ、ああ……『ステータス』」


 冒険者としてのステータス表示機構を求められ、俺は言われるがままに文言を唱えた。冒険者が身分証明のために持ち歩いている金属製のタグが光り、俺の目の前に半透明のウインドウが表示される。

 これまでより二回りほど大きくなったウインドウに記載された内容は、つまりこうだ。


 ==========

 ライモンド・コルリ(|戦士《ウォリアー》)

 年齢:26

 種族:人間ウマーノ

 性別:男


 レベル:187

 HP体力:26940/26940(+5000)

 MP魔法力:7320/7320(+1500)

 ATK攻撃力:10360(+500)

 DEF防御力:9250(+800)


 STR筋力:7932(+1000)

 VIT生命力:7235(+1000)

 DEX器用さ:3257(+300)

 AGI素早さ:6739(+800)

 INT知力:2559(+300)

 RES抵抗力:4757(+800)

 LUK:3602(+300)


 スキル:

 剣術10、斧術10、槍術10、格闘術10、盾術8、短剣術4、弓術7、炎魔法8、水魔法7、風魔法8、大地魔法7、光魔法8、闇魔法8、結界魔法4、根源魔法2、治癒魔法9、付与魔法8、解呪魔法3、除霊法1、毒無効3、麻痺無効2、混乱無効2、調教魔獣2、魔獣語5、竜語1、罠作成2、罠解除5、罠使い1、武器換装、着ぐるみの魔物の呪い10、料理5、裁縫5、鍛冶5、環境遮断1、魔物鑑定5、人間鑑定5、道具収納5


 ==========


「なん……っだ、これ」


 絶句した。あまりの内容に二の句が継げない。

 レベル3桁とか魔物の域だ。HP体力MP魔法力ATK攻撃力DEF防御力、いずれも人間の範疇を超えた値になっている。基礎ステータスもいずれも4桁、とんでもない数値だ。

 そして驚くべきはスキル欄である。元々は剣術、鍛冶、魔物鑑定、人間鑑定、道具収納くらいしか持っていなかったし、その剣術スキルもレベルは8だったはずだ。

 それが今や、剣術のみならず斧術、槍術、格闘術がレベル10。魔法系スキルも一通り揃っているどころか、扱える人間の少ないと言われる結界魔法や根源魔法、さらには解呪魔法や除霊法までも見て取れる。おまけに調教、魔獣語、罠作成など、特殊レアクラスの前提スキルまで。

 本当にどれだけの冒険者の持っていたスキルが、俺の中に焼き付けられたんだ。目を見開く俺の耳に、つまらなさそうな声色のディーデリックの発言が聞こえてきた。


「ふむ、思っていたほどステータスもスキルも伸びておらんな。全員の持つスキルのレベルが全て反映されるわけではないし、ステータスへの付加分も全てではないのか」

「えっ」


 思わぬ言葉に、俺はまたしても言葉に詰まった。

 これで・・・伸びていないのか。これだけのステータスがあれば、冒険者として最高の高みと言われるX級規格外扱いにも余裕で手が届くだろうに。

 目を見開く俺に、ディーデリックが低い声で説明してくる。


「吾輩がこれまで喰らってきた冒険者369人、全員のステータスが全て貴様に反映されれば、レベル1,000は優に超え、ステータスの数値も5桁が並んだであろう。しかしそうなれば、貴様の肉体はきっと耐えきれずに崩壊してしまう。貴様の肉体が維持される段階まで、ステータス上昇もスキル習得も制限がかかったのであろうな」


 彼の言葉に、俺は背筋をぞわっとしたものが走るのを感じた。卒倒しなかっただけ偉いと思いたい。

 レベル1,000とかステータス5桁とか、いよいよもって人間ではない。いや、魔物ですら生温い。神獣とか、神霊とか、そういうレベルの存在だ。世界最強の生物と名高い神魔王ギュードリン・ファン・エーステレンですら、レベル1,000を超えていたか定かではないというのに。

 ようやく気を持ち直して、俺はディーデリックに言葉をぶつける。


「い、いや、そうだとしても、そうだとしたって。こんなおおよそ冒険者が持ちうる全てのスキルを全部持つとか、ありえないだろう!?」

「まだ冒険者の持ちうるスキルの範疇に留まっているのだから問題なかろうが。魔物の持つような固有スキルを持つに至らなかっただけよかったと思え」


 困惑しながら発した俺の言葉を、ディーデリックは何でもないことのようにさらりと流しながら返した。

 確かに、冒険者の持ちうるスキルの範疇に、収まっていると言えば収まっている。これで魔物が持つような固有スキルまで抱えた日には、俺は人間の身体を捨てないとならなくなっていたかもしれない。

 しかし、だとしてもだ。これでは二重職業ダブルジョブとかそんなレベルではない。全基本ノーマルジョブを制覇してもまだ足りないくらいだ。こんなもの、俺一人の身体で収まっていいものではない。

 がっくりとうなだれながら、俺は深くため息をついた。正直、これから冒険者ギルドに向かわないといけないのが気が重くてしょうがない。

 パーティーを除名された冒険者はソロで活動するにせよ仲間を探すにせよ、冒険者ギルドに登録しなくてはならない。こんなにステータスが変貌したのだからギルドのデータベースに登録もしないとならない。しかし、それが大変に気が重い。


「ええ……でもなあ……冒険者ギルドになんて説明すればいいんだよ、こんなの……」

「吾輩の呪いのスキルが10でついているのだからそこで説明ができよう、気に病むことがどこにある」


 悩みつつ首を振った俺に、呆れた声色でディーデリックが言葉を投げる。彼としては気楽なものだろう、喋るとはいえ装備品でしかないのだから。対して、中身のある冒険者である俺は、一体何を言われるか気が気ではない。

 と、そこで俺の腹の虫がぐうと鳴った。思えば、昨夜は何も腹に入れていない。腹の虫が空腹を訴えるのも仕方がないことだ。

 そろそろ宿の朝食も準備が出来ていることだろう。可能なら、他の宿泊客に見つからないうちに朝食を済ませたい。


「うーん……いいや、とりあえず朝食を終えたらギルドに行って、なんかいい依頼があったら受けてみよう」

「そうだな、力試しも兼ねて魔物退治といこうではないか」


 諦め半分で、俺はベッドから立ち上がる。俺の背後で虎の尻尾がたらんと垂れた。

 果たしてこの姿のまま、俺は無事に朝食を食べることが出来るのだろうか、と不安になりながら、俺は宿の部屋を出る。

 結果的にディーデリックが口を開けてくれたし、なんならディーデリックも食事が必要だったとのことで、俺は問題なく朝食にありつけたのだが、あの時のベラさんの視線が痛くて痛くて、俺はディーデリックを改めて恨みながら腹を満たしたのであった。


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