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第10話 忘れ去られた星で

「はぁ!?プロトタイプ事故の調査団を廃止するですって!?」


 アクア達がレグの元を旅立った頃、アクア達の星『惑星レグルス』のとある場所で大声を上げる女性がいた。

ここはレグルス政府の関係者が集まる建物の一室。

作業服を着た女性は、同じく作業服を着た男性と並んで椅子に座り、机を挟んで正装をしている男性と向き合っていた。

女性は、白いチンチラの様な姿をした獣人、男性は茶色いハムスターの様な姿をした獣人でどちらも星天獣だ。


「あたし達は、プロトタイプ事故の原因究明をする為に10年間も調査してきたんですよ!それを急に廃止するなんて…。納得のいく説明をして下さい!」


 女性は、バン!と机を叩きながら正装姿の男性を見つめる。

しかし、男性は立ち上がると「政府の決めた事だ」と一言。

そして「今後は現存するコスミックゲートの整備に専念するように」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。


「シ、シオン主任…」


「…行くわよ、リオン」


 チンチラの女性の名前は『シオン』

コスミックゲートの整備やプロトタイプ事故の調査をする技術者だ。

今では、リゲルの父親『ベテル』に代わって責任者として指揮をとっており、役職は主任だ。


 ハムスターの男性の名前は『リオン』

シオンの部下で相棒としてシオンと共に宇宙を飛び回っている。

シオンが相手を選ばずにぐいぐい行くタイプの為に常にハラハラしている苦労人でもある。


「行くって…どこに…?」


「プロトタイプに決まってるでしょっ!」


 シオンは、明らかにイライラしながら部屋を出て歩き出す。

その後ろをリオンがあたふたしながら続く…。


「は、話聞いてました!?プロトタイプ事故の調査はもう…」


「アンタはあれで納得出来るわけ!?あたし達は、犠牲になったベテル主任達に代わって10年間事故調査をしてきたの!納得出来るわけないじゃない!」


 シオンは、振り返ると胸ぐらを掴む勢いでリオンに迫った。

リオンは「ま、ま、待って下さいって…!」と怯えながら何とか落ち着かせようと試みる。

しかし、すっかり頭に来ているシオンは後ろを向くと再び歩き出した。


「『政府の命令に従わないなら辞めてもらう』というのなら今すぐにでも辞めてやるわ。立場も役職も全て捨てる。『1人の技術者として』事故の調査を進めるわ」


 建物の外へ出ると立ち止まるシオン。

そして、空を見上げた。

そこに浮かぶのはプロトタイプの残骸…。

それを見ながら「リオン、アンタはどうする?」と問いかけてきた。


「どうするって言われたって…。答えは一つ、なんでしょう?」


 リオンは、短いため息を吐くと頭を掻きむしり、苦笑いをした。


「オレは主任の相棒なんですから。とことんついて行きますよ」


「ふふっ、そう来なくちゃ!それじゃプロトタイプに行く前に、まずは10年間の情報をまとめましょうか。事故のデータにアクセス出来る内にね」


「りょーかい!」


 シオンとリオンは、コスミックゲートの資料が保存してある施設へと走り出す。


「(ここで事故の調査を急に廃止するなんておかしい。必ず裏に何かある…。それを突き止めてやる…!)」


 アクア達が知らない所でコスミックゲートとプロトタイプを巡る大人たちの思惑もまた、少しずつ動き始めようとしているのだった。


 そして、旅を続けるアクア達はレグに教えられた星へと到着し、空から集落を探していた。


「アクア、どうだ?建物とか見えないか?」


 リゲルは操縦桿を握りながら窓から外を見るアクアに話しかける。


「…あ!見て、あそこ!」


 アクアが窓の外へ身を乗り出しながら指を指す。

その方向には森の中に隠れるように建っている建造物が見えた。


「確かに建物が見えるな。リゲル、あの近くへ列車を下そう」


「らじゃー!」


 スピカの指示に元気よく応えると列車を地上へと近づけていくリゲル。

レグルス領へ帰って来たとはいえ、Peace makerの2人やプレアデス軍の追手も迫ってくる可能性もあるため、列車は木の影に隠すように停車させた。


「でもさ、わざわざ少し離れた場所に停めなくてもよかったんじゃないかな?暮らしてるのって多分星天獣だろ?」


 列車を降り、建物が見えた方角へ歩きながらリゲルはふと疑問を溢す。

その疑問に「そうとも限りませんよ」とアルが応えた。


「レグ殿は我々が集落に入る時に使うようにと自身の翼を渡してくれました。つまり『集落に入るのに厳しい制限がある』という事」


「私とアルは冥天獣だ。そんな星天獣の集落に冥天獣が急に現れたらトラブルが起こるかもしれないだろう?一応念の為だ」


 アルとスピカの回答に「そっか…。そうだよな」とポツリと呟き、2人の後ろをとぼとぼと歩く。

今、星天獣と冥天獣は軍によって緊迫状態が続いている。

軍に襲われた所を助けてくれたスピカと軍を裏切ってまで協力してくれているアル、そして旅の途中で出会った冥天獣達…。

冥天獣の本来の姿を見てきたリゲルにとっては、一部の冥天獣達のせいでスピカ達が良くないように言われるのは悲しくて仕方がなかった。


 するとその時だった。

前を歩いていたスピカとアルが突然立ち止まった。


「スピカさん?アルさん?」


 突然足を止めた2人を心配そうに覗き込むアクア。

するとスピカは「静かに…。何か居る」と口の前に指を立てた。

アルは、銃を手に取ると深呼吸をしてから静かに構える。

アルの銃は、リゲルが作った星の雫を使ったエネルギー銃。

スピカの変形型の銃と同じく、殺傷能力はない武器だ。


 アルが銃を構えてから僅か数十秒の時間のはずなのだが、アクアとリゲルにはとても長く感じた。

そして、そよそよと風が吹き始めたと思った瞬間、アルは素早く左斜め前の森林へ銃口を向けると発砲する。

すると、その木の陰から2人の星獣が飛び出し、スピカ達の前に着地した。


「ふん、よく気づいたな。流石は冥天獣と言った所か」


「申し訳ないがこの先は『純粋種』は立ち入り禁止だ。引き返してくれ」


 アクア達の前に立ちはだかる2人は、鉄の棒を両手に持つと『ここを通すまい』と棒先をアクア達へと向ける。

どうやら集落の防衛をしているようだ。

2人は、見た目は星天獣のようなのだが、冥天獣のような好戦的な特徴も持っていた。


「私達はあなた方と争いをしに来たわけではありません。レグさんからここへ寄るように勧められたので来ました」


 そう言うとスピカは、レグから渡されたレグの翼の羽根を取り出して差し出す。

1人が棒を下ろすとスピカに近づき、羽根を受け取った。


「…確かにこれはレグ様の羽根だ。しかしだな…」


 レグの翼の羽根だと理解した防衛隊員だが、何やら言葉を濁す。

するとその時、後ろから別の星獣がやって来た。


「どうした?」


「ソ、ソレイユ様…!この者達がレグ様に言われて此処を訪れたと言うのですが…」


 ソレイユと言われた星獣は、アクア達を横目に見るなり「ふむ、純粋種の訪問者か」と呟いた。

ソレイユはピンク色の体毛が特徴の狐のような姿の獣人で声から女性だという事は分かった。

ただ、ソレイユも星天獣なのか冥天獣なのかイマイチよく分からない雰囲気を漂わせていた。


「レグ様が此処へ来るように言った事が本当なら、何か考えがあっての事だろう。いいだろう、私が案内する」


 ソレイユは「ついて来い」と振り返り歩き出す。

アクア達はそれに慌てて付いて行った。


「ソレイユ殿、もしかして我々の訪問は迷惑だったのでは…?」


 早足で歩くソレイユに恐る恐る質問するアル。

ソレイユは少し歩くスピードを緩めると横顔だけ見せるように振り返った。


「…いや、星天獣と冥天獣が旅をしている所を見る限り、色々と訳ありなのだろう?それにお前達が私達に対して敵意が無い事も分かっている。先程の銃、わざと少し外して発砲しただろう?」


 実は、アルは防衛隊の気配を感じて銃を発砲した時、威嚇を兼ねてわざと外して発砲していた。

この時、ソレイユも別の場所に身を隠しており、アクア達の様子をこっそり観察していたようだ。


「これはしてやられたな、アル」


 スピカが少しからかうようにそう言うと「ですね」と頭を掻きながら苦笑いをする。

そうしていると小さな村に到着した。

小さいと言っても20件以上の家が集まって建てられており、沢山の星獣達が生活していた。

ソレイユはそんな集落の中にある1番大きな家へアクア達を案内した。


「さて、それではまず、お前達の事を教えてもらおう。何故星天獣と冥天獣の異なる種族が共に旅をしているのかを…」


 アクア達は、ソレイユに自分達の名前とプレアデス軍に追われている事、Peace makerを名乗る不気味な2人に追われている事を話した。


「なるほど、それでは最近プレアデス軍がこの辺りを彷徨いているのはお前達を…。それにしてもプレアデス軍のお偉いさんも落ちたものだ。かつての誇りはどこへ行ってしまったのか…」


 ソレイユは呆れた表情でため息を吐くと片手で頭を抱える。

すると、スピカがすかさず口を開いた。


「ソレイユさん、次は貴方とここの事を教えてくれませんか?私達は本当に何も知らされないままここへ来たので…」


 ソレイユは「おぉ、そうだったな」と苦笑いをする。


「私はこの集落で一応『長』をしているんだ。先程お前達を足止めした防衛隊達を指揮したりしている」


 かつて、この星には沢山の集落があり沢山の星獣達が暮らしていたようだが、数が激減。今はこの集落だけだという。


「そして、この集落…。いや、この星には『混血種』というお前達とは少し違う種族が暮らしているんだ」


 混血種…。

それは、星天獣と冥天獣の特徴を併せ持った種族の事。

ソレイユや防衛隊を見た時に感じた違和感はこれだった。

正確には『星天獣と冥天獣の掛け合わせ』というより、それよりも前に繁栄していた種族『天使獣と悪魔獣の掛け合わせ』らしい。


「レグ様から羽根を受け取ったという事は、『かつて神が天使獣と悪魔獣を滅ぼした』という話を聞いているだろう?私達はその時、神が放ったと言われる病原から逃れる為に生み出された種族なんだ」


 かつて神が放ったと言われる病原。

それは発症してしまうと『天使と悪魔を狂わせる』と言われた病だ。

最期には病原自体に意識を奪われ、感染者は命を落としてしまうという一度かかると治らない病だったらしい。

そして、同じ病原でありながら天使獣が発症すると『狂天症』

悪魔獣が発症すると『狂魔症』という呼び名になっていたようだ。


「『同じ病原から別の病が発症する事』に目を付けた先祖は種を混ぜる事で生き残る事が出来るのでは、と考えたんだ。輸血から始まり、最終的には子を成す事で未来に繋げる努力をして行ったんだ」


「それじゃ、僕達を見て『純粋種』って言ってたのは…」


「そう、血の混ざり合っていない星天獣と冥天獣を私達はそう呼んでいる。逆にお前達側からは私達の事を『天使喰いエンジェルイーター』や『悪魔喰いデビルイーター』と呼ばれていたな。かなり昔の話だが…」


 見た目が星天獣でも魔法が使えたり、好戦的等、冥天獣の特徴が強いと『天使喰いエンジェルイーター

逆に見た目が冥天獣でも星の力を制御出来きる等、星天獣の特徴が強いと『悪魔喰いデビルイーター

かつて、星天獣からはそう呼ばれていたようだ。

しかし、この星がレグルス領にあるにも関わらず、星天獣達は交流を断ち、今現在では半ば『忘れ去る』形でこの存在を知る者は居なくなっていた。


「レグルスのお偉いさん達にとって私達の存在は都合が悪かったのだろうな。ここに純粋種であるお前達を招き入れる事に抵抗があったのはそういう背景があるからなんだ。アクアとリゲルには信じられないとは思うが…」


 ソレイユの言葉にアクアとリゲルは顔を見合わせる。

そして頷くと「信じるよ」とリゲルが返した。


「この旅を通してオレもアクアもレグルスの大人達が何か隠し事をしている事を知ったんだ。だから、ソレイユさんの言っている事が真実なんだと思う」


 リゲルの言葉に驚きの表情を浮かべるソレイユだったが、フッと笑うと「なるほど、レグ様が羽根を託した理由が何となくわかった気がするな」とボソッと呟いた。

そして「見せたいものがある」と言うと扉から外へ出る。

スピカとアルに続き、アクアとリゲルも付いて行こうとしたが、ソレイユに止められた。


「アクアとリゲルはここで待っていてくれ。少し刺激が強すぎる」


 その言葉にしゅん、と耳が垂れるアクア。

それを見たスピカはアクアの頭をくしゃくしゃっと撫でるとニコッと微笑んだ。


「大丈夫だ、すぐ戻ってくる。ソレイユさん、2人に護衛を付けてくれますか?」


 ソレイユは「分かった」と答えると建物の外に居た者に後を任せ、スピカとアルを連れて村の奥へと向かう。

その途中、外に出ていた住民達はスピカとアルを横目でチラチラと見るとコソコソと耳打ちで会話をしていた。

その様子にソレイユはすかさず「すまないな、彼らに悪気はないんだ」と2人に謝る。

するとスピカは「私達は大丈夫です。こういうのは慣れてますから」と冗談混じりに返した。

しかし、軍を裏切る形で故郷からも追放された2人…。

そして、近年の軍の評判も良くなかった事から察したソレイユは「冥天獣も大変だな」と呟くのだった。


 ソレイユに連れられて村の奥へとやって来たスピカとアル。

そこには、文字の彫られた岩や木が沢山並んでいた。

それらは、見渡す限り…。何十メートル、何百メートル先までも続いていた。

そして、スピカとアルは、これらが何なのか直ぐに分かった。


「お墓、ですか」


「そうだ。ここは例の病原で亡くなった星獣達の墓地だ」


 ソレイユの話によると、混血種として生を受けた星獣達は良かったのだが、輸血等によって謂わば人工的に混血種になろうとした際には上手くいかずに感染、発症してしまった星獣達が沢山居たようで、それがここで眠っているようだ。

しかし、突然スピカは「本当に『それだけ』ですか?」とソレイユに質問する。

スピカが『それだけ』という言葉を強調する理由は、ここに来るまでに見て来た集落の様子からだった。


「ここに来る途中、村には沢山の星獣達が私達を見てきました。しかし、その中に老人と言えるような年齢層の星獣の姿はありませんでした」


 スピカの話にアルもハッとした表情を浮かべる。

あまりにも多すぎるお墓、そして激減してこの村にしか存在しない混血種達…。

アルも何か違和感を感じていたようで、点と点が線で繋がったようだ。


「ソレイユさん、もしかして貴方達混血種は寿命が極端に短いのではないですか?アクアとリゲルに黙っておきたいのは寧ろそっちの方でしょう?」


 スピカの指摘に「流石、というべきかな」と観念した表情を浮かべるソレイユ。

混血種として生まれた星獣は、純粋種と比べると半分程しか生きられないという…。

2つの種族が混ざった事により、体の構造がより複雑になった影響だと考えられているが、未だ解明されていないらしい。

そして、短い寿命から生まれる数よりも亡くなる数が次第に上回っていき、かつてこの星の至る場所で暮らしていた混血種は今やこの集落にしか残っていないという訳だ。


「かつて、我々を見つけた星天獣達が何とかしようと政府に働きかけてくれた。しかしその後、その者達が戻ってくる事はなかった…。恐らく政府に圧力をかけられて…。それによって更に数は減少…」


「そうか、責任感の強いアクア殿やリゲル殿が知ったら深く傷つく…。そればかりか同じ様にレグルスの政府に助けを求める可能性も…」


 ソレイユは、滅びゆく種族の長として自分達の事を語り継いでくれる者を待っていた。

それはレグが『相応しい者に羽根を渡して最終的にソレイユが判断する』という流れになっており、種族の壁を越えて旅をしていたアクア達が選ばれたという事だ。


「アクアやリゲルの様な心優しい子達に話せば、きっと政府に掛け合おうとするだろう。そうなるとかつての心優しい者達と同じ過ちを繰り返してしまうだけ…。しかし、我々に時間がないのも事実だった」


「それで、私とアルに全てを話そうと考えた訳ですね?それに相応しいか試しながら…」


 ソレイユは、「2人を試した事は申し訳ないと思っている。本当にすまなかった」と頭を下げる。

するとスピカは、「…許さない、とは言いませんが…。一つだけ、条件を良いですか?」と何やら交換条件を出してきた。


「率直に聞かせて下さい。ソレイユさんは、アクアを見た時どう感じましたか?星天獣ながら魔法が使えるあの子を…」


 スピカが出した交換条件…。それはアクアの事だった。

アクアは、『星天獣ながら魔法が使える』という不思議な存在…。

スピカは、ソレイユから色々な話を聞き、『アクアは混血種の可能性もあるのでは?』と考えたのだ。

ソレイユは、目を閉じて深呼吸をするとスピカをじっと見つめた。


「あの子は混血種ではない。天使喰いエンジェルイーターにしては力が弱すぎる。ただただ不思議な子、だと感じた。星の魔法というのも混血種でも聞いた事もないからな」


 アクアの両親に繋がる手掛かりが何かあれば、と思っていたスピカは、ソレイユの返答に「そうですか…」と少し落胆気味に視線を足元へ落とす。

それを見たソレイユは「これは余談だが…」と話を繋げた。


「お前達は自分達が何故『星獣』と呼ばれるか考えた事はあるか?」


 星の雫を扱う事が出来る星天獣は、星の力を操れる事から『星獣』と呼ばれるのは分かるだろう。

しかし、冥天獣はどうだろうか。

考えた事もない質問にすっかり困ってしまう2人…。


「実は、冥天獣も星の雫の力を使っているのさ。自身の魔力としてな」


 ソレイユの話によると、星天獣は星の雫をほぼそのまま操り使っているが、冥天獣は星の雫を自身の魔力に変換して使っているというのだ。


「冥天獣には、自身の魔力を操る能力が欠落する病があるだろう?逆に星天獣には、星の雫の力を操る能力が欠落するというよく似た病があるんだ」


 以前、星の雫を扱う能力が欠落する病『スタードロップ欠落症』はリゲルから聞いていた。

その時、冥天獣にも魔力を扱う能力が欠落する病とよく似ている事には気づいていたが、魔力自体が星の雫から得られている事を知らなかった為、あまり気にしていなかったのだ。


「星の雫は、星天獣は勿論、冥天獣にも欠かせない物…。身体の構造が違うから使い方が違うだけ。私の想像だが、アクアは混血種とも純粋種とも違う身体の造りになっているとしか思えない…。それが突然変異なのかは分からないが…」


 ソレイユは、腕を組みながら自らの考えを話す。

するとその時だった。

村の方角から村人が1人、傷だらけで走ってきたのだ。


「ソレイユ様…!村に冥天獣の軍人達が…!」


「…!アクアとリゲルが危ない!」


「直ぐに戻りましょう!」


 息を切らせながら膝を付く村人の姿にもはや只事ではない事を悟るスピカ達。

スピカとアルは、ソレイユにその場を任せると全力で走り出す。

途中、何度も銃声が響き渡り、2人は更に強い緊張感に襲われる。


 直ぐ村の中へと戻ってきた2人は、村の惨状に言葉を失った。

家の数軒崩れ、怪我を負った住民達がそこら中に倒れている…。

そして、村の入り口付近には大型の宇宙船が大きなエンジン音を発しながら停まっており、軍人達が次々と足早に宇宙船へと乗り込んでいた。


「アル、あの船は…!」


「軍事用の大型船…!まさかこんな物を送り込んでくるなんて…!」


 大規模な軍事作戦でしか使わない宇宙船に驚く2人…。

しかし、2人は続けて信じたくない光景を目にしてしまう。

軍人達が次々と宇宙船へと乗り込む中になんとアクアとリゲルの姿があったのだ。

2人は気を失ったいるのか、グッタリとしており、軍人達に抱えられ宇宙船へと運ばれていた。


「ア、アクアッ!」


「リゲル殿!」


 スピカとアルは、アクアとリゲルを助けようと宇宙船へと走り出す。

しかし、2人の前に4人の軍人が立ちはだかった。


「裏切り者共を始末しろ!」


 3人がスピカとアルを狙い撃とうと銃を構える。

それを見たアルは、直ぐに銃を構えると目にも留まらぬ速さで3発の弾丸を放った。

アルは、見事な早撃ちで3人に命中させて気絶させると、残りの1人にスピカが斬りかかった。


「邪魔だ、退けっ!」


 スピカの重い一撃が相手の横腹に当たる。

軍人はお腹を苦しそうに押さえながらその場に崩れた。

しかし、軍人達を倒してもアクア達を助けなければ意味がない。

2人は、宇宙船へと全力で走るが、2人の目の前で宇宙船は宙へと上がった。

スピカとアルを砂埃と強風が襲い、2人は目を瞑って怯んでしまう。


「く、くそっ…!アクアッ!リゲルーッ!」


 スピカの叫び声も虚しく、宇宙船は空高く飛び去って行く…。

スピカとアルは、味わった事もないような虚無感と絶望感に襲われ、その場に崩れ落ちてしまうのだった…。


 そして…。


「アクア君とリゲル君がプレアデス軍に連れ去られたって」


「予定通り、だね。こちらの実験も成功したし、こちらも動き出そうか」


「スピカさんとアル君も助けに行くだろうし。全員が揃えば…。ふふっ楽しみだねぇ」


 不気味に何かを企む会話をしているのはPeace makerのカストルとポル…。

プレアデス軍を巻き込む恐ろしい計画が動き出そうとしていた…。


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